\newcommand{\bra}[1]{\{ #1 \}}
\newcommand{\setR}{\mathbb{R}}
\newcommand{\setN}{\mathbb{N}}
※この記事は,私のブログで執筆した記事『さんすうのーと(4) ―上極限・下極限』を若干編集し,移植したものです.
はじめに
みなさんは,上極限・下極限が何者かを知っていますか?
少しでも上極限・下極限を扱ったことがある人は,「数列の上極限と下極限が一致したら,その数列は収束していて,極限が上極限(下極限)に等しい」という事実を知っているのではないでしょうか.
これを利用して,数列の収束判定をするのが常套手段だったりします.
ひとまず,上極限・下極限の定義を思い出してみます.1
定義(上極限・下極限)
実数列$~\bra{a_n}_{n=1}^\infty~$の上極限$~\varlimsup _{n \to \infty} a _n$,下極限$~\varliminf _{n\to\infty} a _n~$を次のように定義する:
\varlimsup _{n\to\infty} a_n := \lim_{n\to\infty} \sup_{k \ge n}a_k, \quad \varliminf_{n\to\infty}a_n := \lim_{n\to\infty} \inf_{k \ge n}a_k
ここで,$\sup_{k \ge n} a_k,~ \inf_{k\ge n} a_k~$はそれぞれ$~n~$について単調減少,単調増加な数列なので,極限として$~\pm \infty~$の値をとることも許せば,必ず上極限・下極限は存在する.$\square$
ここで,1つに気になることがあります.
この定義を見て上極限・下極限それ自体が一体どういうものなのか,具体的にイメージがつく人はどれほどいるのでしょうか?
「上極限・下極限を直感的に説明して」と聞かれたときに,明確な回答ができる人がどれほどいるのでしょうか?
そして,最初の方でチラッと言った,「上極限=下極限」となる状況というのは具体的にどういう状況なのか,気にはならないでしょうか?
今回はこの疑問に答える形で,上極限・下極限の持つ性質についてまとめてみたいと思います.
ただし,この記事は上限・下限のことをある程度きちんと理解していることが前提となります.
もし自信がない方は,少し前に上限・下限の性質をまとめた記事を出したので,読んで頂けると僕がすごく喜びます.
上極限の性質
まずは,上極限の特徴づけで重要となる集積値の定義を確認しておきます.
定義(集積値)
$x \in \bar{\setR} := \setR \cup \bra{\pm \infty}~$が実数列$~\bra{a_n}~$のある部分列の極限となっているとき,$~x~$は$~\bra{a_n}~$の集積値2という.$\square$
集積値のイメージをざっくり説明すると,数直線上に数列の点を打ったときに,「究極的に」数列の点が密集している点がその数列の集積値となります(下のイメージ図を参照).
もちろん,数列に含まれる点が集積値となる可能性もあります.
ここで,上極限の特徴づけをしましょう.
命題 1
実数列$~\bra{a_n}~$と $a_0 \in \bar{\setR}~$について,次の(1)~(3)は同値である((2)は(2-a)と(2-b)のセットと解釈する):
(1)$~a_0 = \varlimsup_{n\to\infty} a_n~$.
(2-a)$~\forall x < a_0,~ \# \bra{n ~;~ x < a_n} = \infty~~$.
(2-b)$~\forall x > a_0,~ \exists N \in \setN,~ \forall n \ge N,~ x > a_n~~$.
(3)$~a_0~$は$~\bra{a_n}~$の最大の集積値である.
$\square$
(2-b)は次のように言い換えると分かりやすいかもしれません:
\forall x > a_0,~ \# \bra{n ~;~ x \le a_n} < \infty
~~
\varliminf_{n\to\infty} a_n
= \lim_{n\to\infty} \inf_{k \ge n} a_k
=\lim_{n\to\infty} \left( -\sup_{k \ge n}(-a_k) \right)
= -\varlimsup_{n\to\infty} (-a_n)
~~
であるので,命題 1の系として$~\varliminf_n a_n~$が$~\bra{a_n}~$の最小の集積値であることも分かります.
命題 1の証明
記法を簡潔にするために,$l_n := \sup_{k \ge n}a_k$ とおく.
(1)⇒(2)
まずは,$a_0 \in \setR~$のときで確かめる.
仮定と$\bra{l_n}~$が減少列であることから$~a_0 = \lim_n l_n = \inf_{n \in \setN} l_n~$となる.
(2-a):$x<a_0~$なる$~x \in \setR~$を任意にとる.
すると,任意の$~n~$に対して$~x < l_n = \sup_{k \ge n}a_k~$である.
上限の性質より,
\forall n \in \setN,~ \exists k_n \ge n,~ x < a_{k_n}
が成り立つ.
これはまさしく$~\# \bra{n ~;~ x < a_n} = \infty~$を意味するので,(2-a)が示された.
(2-b):$x > a_0~$なる$~x \in \setR~$を任意にとる.
すると,$x > \inf_n l_n~$であるから,下限の性質よりある$~N \in \setN~$が存在して $x > l_N~$が成り立つ.
よって,
~\forall n \ge N,~ x > l_N \ge l_n \ge a_n~
であるから,(2-b)が示された.
$a_0 = -\infty~$のときは,$x < a_0~$をみたすような$~x \in \setR~$が存在しないので,(2-a)は自明であることに注意する.
また,(2-b)については$~a_0\in\setR~$のときと全く同様にして示される.
よって,$a_0 = -\infty~$のときも成り立つ.
$a_0 = \infty~$のときに(2)を満たすことも同様にして分かる.
(2)⇒(1)
まず,$a_0 \ge \inf_n l_n~$であることを示す.
$a_0 = \infty~$のときは明らかに成り立つので,$a_0 < \infty~$と仮定する.
$a_0 < \inf_n l_n~$であるとすると,ある$~x~$が存在して$~a_0 < x < \inf_n l_n~$となる.
仮定より,ある$~N~$が存在して$~a_n < x~(n \ge N)~$となるので,$\inf_n l_n \le l_N \le x$ が成り立つ.
しかし,$x < \inf_n l_n~$であったので,これは矛盾である.
よって,背理法により$~a_0 \ge \inf_n l_n~$が示された.
ここで$~a_0 > \inf_n l_n~$とすると,ある$~y$ が存在して$~a_0 > y > \inf_n l_n~$となる.
仮定より$~a_n > y~$なる$~n \in \setN~$が無限に存在する.
もし$~\inf_n l_n < y~$ならば,(1)⇒(2)より十分大きい$~n \in \setN~$全てに対して$~a_n < y~$が成り立つので,$~a_n > y~$を満たす$~n \in \setN~$ は有限個のみになってしまう.
これは直前の事実と反するので,$\inf_n l_n \ge y$ である.
しかし,これも$~y > \inf_n l_n~$であることに反するので,結局$~a_0 = \inf_n l_n~$が示された.
(2)⇒(3)
$a_0 \in \setR~$のときに示す.
(2-a),(2-b)より,任意の$~j \in \setN~$に対して$~a_0+1/j > a_n > a_0 - 1/j~$を満たす$~n \in \setN$ が無限に存在する.
これより,$a_0~$に収束する$~\bra{a_n}~$の部分列が存在するので,$a_0~$は集積値である.
ここで,$x > a_0~$なる$~x \in \bar{\setR}~$を任意にとると,$x > x' > a_0$ なる $x' \in \setR$ が存在し,(2-b)より有限個の$~n \in \setN~$を除いて$~x' > a_n~$となる.
よって,$x~$に収束する部分列は存在しないことが分かり,$a_0~$が最大の集積値であることが示された.
$a_0 = \pm \infty~$のときは,上の証明を若干修正するだけでよいので省略する.
(3)⇒(2)
$a_0 = \pm \infty~$のときは,(1)⇒(2)の証明の最後の部分と全く同様にして示される.
よって,$a_0 \in \setR~$を仮定する.
(2-a):仮定より$~a_0~$に収束する部分列$~\bra{a_{n(j)}}~$が存在する.
よって,次が成り立つ:
~~\forall x < a_0,~ \exists N \in \setN,~ \forall j > N,~ x < a_{n(j)}.~~
これは$~\# \bra{n ~;~ x < a_n} = \infty~$を意味するので,(2-a)が示された.
(2-b):$x > a_0~$なる$~x \in \setR~$を任意にとる.
$a_n \ge x~$を満たす$~n \in \setN~$が無限個存在するとする.
このとき,$a_{n(j)} \ge x ~ (\forall j \in \setN)$ を満たすような部分列$~\bra{a_{n(j)}}$ が存在する.
この部分列は必ず,$~\bar{\setR}~$上で収束するようなさらなる部分列を含む3.
「上極限=下極限」が意味することとは?
ここまでで,上極限・下極限がそれぞれ最大・最小の集積値となることが分かりました.
これが分かれば「上極限=下極限」が意味している状況は明確で,つまり,集積値がただ1つだけ存在するという状況であることが分かります.
よって,記事の冒頭で言ったことを思い出してみると,集積値がただ1つ存在するときに数列の極限が存在することが分かります.
こう言い換えてみると,なんだかあたり前って感じがしますね.
以上のことを,きちんと命題の形にして述べたいと思います.
命題 2
実数列$~\bra{a_n}~$に対して,次は同値である:
(a)$~\lim_n a_n = a_0~$なる$~a_0 \in \bar{\setR}~$が存在する.
(b)$~\varliminf_n a_n = \varlimsup_n a_n~$
$\square$
証明
(1)⇒(2)
仮定より,任意の部分列は$~a_0~$に収束する.
よって,$\bra{a_n}~$の集積点は$~a_0~$ただ1つなので,命題 1と合わせて $\varliminf_n a_n = \varlimsup_n a_n = a_0~$を得る.
(2)⇒(1)
$u_n := \inf_{k \ge n} a_k,~ l_n := \sup_{k \ge n} a_k~$とおく.
このとき,任意の$~n \in \setN~$に対して$~u_n \le a_n \le l_n$ が成り立つので,はさみうちの定理より$~\lim_n a_n = \lim_n l_n = \varlimsup_n a_n$ が成り立つ.
$\square$
今回は,一見よく分からない上極限・下極限の定義からスタートして,これが直感的にはどういう意味を持つかについて見てきました.
証明のアイデアが直感から湧いてくることが多々あると思うので,よく分からない概念のイメージを掴む作業はとても大事だと思います.
参考文献
- 杉浦光夫,『解析入門 Ⅰ』
-
位相空間における「集積点」とは異なることに注意しましょう.例えば,$~a_n := c~(n \in \setN,~ c \in \setR)~$で定まる定数列$~\bra{a_n}~$を考えると,$~c~$は数列$~\bra{a_n}~$の集積値になっています.しかし,この数列を集合として見なすと1点集合$~\bra{c}$ になっており,$~c~$はこの1点集合の集積点ではないからです. ↩
-
Bolzano-Weierstrassの定理を利用すれば分かります
しかし,その収束点を$~b \in \bar{\setR}~$とすると$~b \ge x > a_0$ が成り立つので,$~a_0~$の最大性と矛盾する.
以上より,$a_n \ge x~$を満たす$~n \in \setN~$が有限個しか存在しないことが分かり,(2-b)が示された.$\square$ ↩