はじめに
災害による影響は地理的な広がりをもち、その状況は時間とともに変化していくため、被災と災害復興の実態把握には、時間と空間のスケールによる補助が不可欠です。こうした時空間を有する情報を共有する手段としてはWeb GISなどのデジタル地図が有効なツールの一つです。近年は、Web GISの技術開発と普及が進むとともに、地理空間情報のオープン化も積極的に行われており、災害対応の情報共有にも利用されています。
私たちは、能登半島地震被災地の復興まちづくり支援を目的に 「能登半島地震 復興まちづくり支援マップ」 を作成し公開してきました。これは誰でもPCやスマートフォン、タブレットからブラウザを通じて閲覧できるオンラインマップです。発災から2週間後の2024年1月14日に公開を始め、随時情報を追加・更新しています。
このマップは、荒木笙子さん、福田崚さん、前山倫子さん、益邑が管理人となり、公開してきました。
この記事では「能登半島地震 復興まちづくり支援マップ」の構成について、記録しておきたいと考えています。
「能登半島地震 復興まちづくり支援マップ」の概要
「能登半島地震 復興まちづくり支援マップ」は、①被害に関する情報(被災後の空中写真など)、②復旧・復興に関する情報、③被災地の過去の災害時の復旧・復興情報、④被災前の平時のデータ、⑤既発表の調査報告の情報などが表示できます。これらの情報は2つのマップを切り替えて閲覧できるように設定しています。
最初にアクセスして表示されるマップが 「被害情報・復興情報共有マップ」 であり、被害、復興計画や事業の情報、既発表の調査報告等の情報の共有を目的としたマップです。
画面左下のアイコンで切り替えることで2つ目のマップである 「復興像を考える情報マップ」 が閲覧できます。これは被災地の資源やこれまでの暮らし、変遷を把握を目的としています。印象論的な「復興論」に陥らないためには、地域の意思決定の尊重と実態に即した議論が必要と考え、その補助となることを期待して作成しました。市町村単位の基礎的な情報の他、文化財等・観光資源、集落単位の情報、被災想定等を収録しています。
なお、更新情報はSNS(https://twitter.com/Map_for_Noto)で周知しています。
システム構成
なぜArcGIS Onlineを採用したか
オンラインマップの基盤としては、Esri社の ArcGIS Online に関連する一連のサービスを採用しました。これらのサービスを使うことで、GISに関するある程度の知識があれば、コードを書くことなくオンラインマップ作成、更新することができました。
地図を表示するだけでなく、凡例表示、レイヤーの表示切替や共有リンク作成、外部の参考となるウェブページへのリンクなどが表示できます。
他のサービスの利用等も考えましたが、結果的に採用した理由としては、所属研究機関でArcGISアカウントが利用できたこと、ノーコードで多機能なオンラインマップが作成できること、複数人で更新作業をすることを考え、複数のアカウントでの編集がしやすいことなどが理由です。(ただ、アカウントが必ず「組織」に紐づく点などやや使いづらいところもあります。)
2022年〜2023年に日本都市計画学会の「関東大震災に関する情報のGISデータ化・活用プロジェクト」の一環で、同様の構成でオンラインマップを作成した経験があったことも影響しています。
構成
「復興まちづくり支援マップ」は、ArcGIS Onlineの Map Viewer を用いて2つの Web Map を作成し、凡例や出典の表記等の表示設定等を ArcGIS Experience Builder で設定して公開しています。(マップの管理者がデータの更新作業をするためのページも、編集用の Web Map を用意し ArcGIS Experience Builder で作成しています。)
レイヤーの追加やシンボル表示の設定、ポップアップの設定などは Map Viewer で設定しています。「被害情報・復興情報共有マップ」と「復興像を考える情報マップ」をそれぞれ作成します。
ArcGIS Experience Builder は、ウィジェットと呼ばれる機能を持ったパーツを追加・設定し、ノーコードで柔軟な Web アプリ作成が可能なアプリケーションです。
上のような編集画面で、マップのレイアウトを作成します。PC、タブレット端末、スマートフォンの画面サイズに合わせたレイアウトを作成できます。
スマートフォン、タブレット端末での利用
オンラインマップはブラウザを通して表示させることができます。スマートフォン、タブレット端末では、画面上のアイコンをタップすると現在地を地図上に表示させることができます。ただし、位置情報を取得するのはタップしたタイミングだけなので、移動しても現在地表示が追随することはなく、この点も他のオンラインマップと比べ機能面で物足りないところです。
無料で登録不要で利用できるモバイルアプリ(ArcGIS Field Maps)を利用してマップを表示すれば、移動しても現在地表示が追随します。ただし、スマートフォンのスペックによっては正常に作動しないことがありました(データが重いせいかすぐアプリが落ちてしまう)。
終わりに
Web GISを利用したオンラインマップは、これまでも被災状況、支援情報の共有などに用いられてきました。今回、私たちは、能登半島地震被災地の復興まちづくり支援を目的に「能登半島地震 復興まちづくり支援マップ」を作成しました。
今回はシステム構成・フロー図の右の方、「能登半島地震 復興まちづくり支援マップ」の〝器〟の話をしました。一方で、左の方の〝中身〟、コンテンツを用意し、更新するのも実は大変だったりします。
〝中身〟についても、多くの方にご協力いただいていますので、こちらについてもいずれまとめたいと思っています。
国土地理院、国土交通省、農林水産省、総務省、日本地理学会等が公開しているGISデータと、独自にGISデータ化した情報を地図上に表示させています。更新頻度はそこまで高くできないので、給水所などの変化が激しい情報は他のウェブマップを参照していただくことにし、まずは、私たちが現地に調査や支援で向かい活動する際に欲しいデータや機能などを中心に、マップに掲載しています。
手探りで進めているところもあり、各所に不十分のところもありますが、当面は利用者からのフィードバックをいただきながら、情報の追加・更新、UIの調整などを引き続き行っていきたいと考えています。
データ提供等、ご協力いただける方はこちらのフォームからご連絡ください。