はじめに
「コードの存在を忘れ、AIに完全に身を委ねる新しいコーディングのあり方がある」
— Andrej Karpathy(2025年2月)
OpenAI共同創業者・元TeslaのAI責任者であるKarpathyがこの言葉を発してから約1年。Vibe Codingは Collins English Dictionary の 「2025年の言葉」 に選ばれ、Merriam-Websterにも掲載されるほど世界中に広まった。
2026年現在、Xのエンジニアタイムラインは毎日のように「Vibe Codingで〇〇を10分で作った」という投稿で溢れている。一方で 「本番には使えない」「セキュリティが怖い」 という声も絶えない。
この記事では、Vibe Codingの実像を冷静に整理し、エンジニアとしてどう向き合うべきかを自分なりに考えてみる。
Vibe Codingとは何か
まず定義を整理しておく。
Karpathyの言う Vibe Coding とは、
- AIに「〇〇を作って」と 自然言語で指示する
- 生成されたコードを 読まずに実行結果だけ確認する
- 問題があれば 自然言語でフィードバックする
という開発スタイルだ。従来の開発フローと比べると、その差は明白だ。
| 従来の開発 | Vibe Coding | |
|---|---|---|
| コードを書く人 | エンジニア | AI |
| 人間の役割 | 実装者 | 指示者・評価者 |
| スピード | 普通 | 爆速 |
| コード理解 | 必須 | 任意(ここが問題) |
「革命派」の主張——なぜ盛り上がっているのか
速度が段違い
Stack Overflowの報告では、ある開発者が Vibe Coding ツールを使って わずか10分で動くWebアプリ を作成した事例が紹介されている。プロトタイプやPoC(概念実証)であれば、従来の数日分の作業が1時間以内に終わるケースも珍しくない。
非エンジニアが「作れる」時代に
これまで「アイデアはあるが実装できない」と諦めていた非エンジニアが、Vibe Codingで 自分のアイデアを形にできる ようになった。これはソフトウェア開発の民主化として、本質的に価値がある変化だ。
エンジニアの役割が「上流」にシフト
Vibe Coding が普及したことで、エンジニアが 「コードを書く時間」から「設計・評価に使う時間」 を増やせるようになった。上流工程を丁寧にやれるエンジニアほど、このアプローチで大きな成果を出しやすい。
「懐疑派」の主張——なぜ危険視されているのか
① 経験豊富な開発者ほど使っていない
UC San Diego と Cornell 大学の共同研究(2026年1月発表)によると、経験豊富なソフトウェア開発者は Vibe Coding アプローチを採用していないという結果が出た。
AIが生成するコードは「ほぼ正しいが、完全には正しくない」。この 「あと一歩」の修正 に結局ベテランの時間が取られる——これを 「生産性税」 と呼ぶ声もある。
② セキュリティリスクが深刻
2025年5月、スウェーデンのVibe CodingサービスのWebアプリで深刻な問題が発覚した。
1,645個のアプリのうち約170個(約10%)に個人情報漏洩の脆弱性
住所・メールアドレスといった個人情報が外部から参照できる状態だった。コードを「読まない」開発スタイルが生んだ必然の事故とも言える。
③ 技術的負債が静かに蓄積する
AIが生成した 冗長なコードやアーキテクチャ上の問題 は、短期間では表面化しない。しかしプロダクトが育つにつれ、保守コストとして跳ね返ってくる。「動いているから問題ない」は、長期的には通用しない。
自分なりの結論:「使う場所」を間違えなければ強力な武器
両方の主張を整理すると、論点は 「Vibe Codingが良いか悪いか」ではなく「どこで使うか」 だと思っている。
✅ Vibe Codingが向いている場面
- プロトタイプ・PoC:スピードが最優先で、品質よりアイデア検証が目的
- 社内ツール・自動化スクリプト:ユーザーが限定的で、セキュリティ要件が低い
- 非エンジニアのアイデア具現化:「動くもの」を作って議論したいとき
❌ Vibe Codingが向いていない場面
- 本番系・基幹業務システム:セキュリティ・可用性・保守性が求められる
- コードレビューが必須な環境:「なぜこう動くか」が説明できないコードは通せない
- 長期保守が前提のプロダクト:技術的負債が後で必ず返ってくる
エンジニアとして身につけるべき「Vibe Coding リテラシー」
Vibe Coding を 「使いこなす」 ために、今から鍛えるべきスキルを整理した。
1. 要件を構造化する力
AIへの指示の質が、そのまま成果物の質になる。曖昧な指示は曖昧なコードを生む。
2. 生成コードを「読んで評価する」力
コードを書く頻度は減っても、読んで理解する力 は依然として必須だ。「動いた」だけで終わりにしない習慣を持てるかどうか。
3. セキュリティとガバナンスの設計力
プロンプト段階から「認証・認可・ログ・テスト」を組み込む設計思想が求められる。
4. 「任せる範囲」を判断する力
何をAIに任せ、何を人間が担うか——この 境界設計 こそが2026年のエンジニアに問われる核心スキルだ。
まとめ
Vibe Coding は 革命でも罠でもなく、使い方次第のツール だ。
問題は多くの人が「地獄の使い方」——つまり コードを理解しないまま本番に投入すること ——をしていることにある。
「Vibe Codingを使えるか」ではなく「Vibe Codingを使いこなしながら、上流で価値を出せるか」 ——これが2026年のエンジニアに問われている本質だと思っている。
同じことを感じているエンジニアがいれば、ぜひコメントで話しましょう 🙏
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参考情報
- Andrej Karpathy 氏 X投稿(2025年2月)
- UC San Diego / Cornell University「AI Coding Tool Adoption Study」(2026年1月)
- Collins English Dictionary「Word of the Year 2025」
- Zenn「Vibe Codingは革命か?それとも開発者を殺すのか?」(2026年1月)
- 株式会社Uravation「Vibe Coding 導入で失敗しない注意点」(2026年5月)