はじめに
最近Qiitaを書き始めて気付いたことがあります。
PythonやAIについて調べると、数分で大量の情報が見つかります。
一方でメカ設計はどうでしょうか。
私自身20年以上メカ設計をしていますが、
「それが知りたかった」
と思える記事に出会うことはほとんどありません。
なぜメカ設計のノウハウはネットに少ないのでしょうか。
理由1 一般化しすぎると、設計者が知りたい情報が失われる
メカ設計者が本当に知りたいのは、単なる原理原則ではありません。
例えば軸受であれば、
- どのような荷重条件を想定したのか
- なぜその支持方法を選んだのか
- どの程度の精度や剛性を見込んだのか
- 組立性を考慮してどのような構成にしたのか
といった具体的な内容です。
しかし、このような内容を記事として書こうとすると、前提条件や制約条件まで含めて説明する必要があります。
実際の設計では条件が無数に存在するため、すべてを説明することは現実的ではありません。
そこで多くの場合、
- 軸受の支持方法
- 軸受選定の考え方
- 剛性確保の考え方
- 寿命設計の考え方
といった形に一般化して説明することになります。
つまり、
設計者が知りたいのは具体論ですが、具体論を一般化すると、教科書や技術資料に近づいてしまう
ということです。
結果として、設計者が知りたい情報が失われているのではないかと思います。
理由2 具体化すると機密になる
理由1でも述べている通り、メカ設計者にとって、本当に知りたい内容は具体的な内容です。
しかし、これらを具体的に記載しようとすると製品そのものに近付きます。
企業にとっては競争力の源泉でもあり、公開してしまうと情報漏洩として厳しく追及されます。
つまり、
一般化すると教科書になり、具体化すると機密になる
という構造があります。
これがメカ設計の情報共有を難しくしているように思います。
理由3 設計で考慮すべき項目が多すぎる
メカ設計では、まず要求される機能を成立させる必要があります。
しかし、同じ機能を実現する方法は一つではありません。
例えば、
「何かを真っ直ぐ搬送する」
という機能を考えてみます。
搬送対象が何であるかはここでは重要ではありません。
その機能を実現する方法としても、
- ローラで転がして搬送する
- ベルトで搬送する
- テーブルに載せてテーブル毎、搬送する
など、複数の構成が考えられます。
さらに、それぞれについて、
- 強度
- 剛性
- 寿命
- 組立性
- 加工性
- コスト
- 保守性
- 調達性
などを検討する必要があります。
つまり、
メカ設計とは機能を成立させるだけでなく、多くの検討項目を同時に満たす構成を探す活動
とも言えます。
そのため、
- 唯一の正解が存在することは少ない
- 条件によって最適解も変わる
という特徴があります。
だからこそ、
ある会社で成功した設計が、別の会社でも最適とは限らないのです
理由4 前提条件が一致しない
さらに難しいのは、会社や製品によって前提条件が大きく異なることです。
例えば、
- 年間100台生産する装置
- 年間10万台生産する製品
では最適な設計は変わります。
また、
- 自社工場で組み立てる会社
- 外注中心の会社
でも事情は変わります。
さらに、
- メンテナンス体制
も企業によって異なります。
つまり、
他社で成功した設計が、そのまま自社にも当てはまるとは限りません。
前提条件が異なれば、
最適な構成そのものが変わります。
そのため、他社事例を見ても、
「なぜその構成を選んだのか」
という背景まで理解しなければ、参考にしにくいことが多いのです。
理由5 知見は説明できなければ共有されない
メカ設計では、
- 他社で成功した事例
- 経験者が持ち込んだ知見
であっても、そのまま採用されることは多くありません。
設計レビューでは、
- 実績はあるのか
- なぜ成立するのか
- 評価は十分か
- 余裕度はあるのか
といったことが確認されます。
これは組織が保守的だからではありません。
メカ設計では、
過去にうまくいったという事実だけでは、その知見を別の製品へ適用できるとは限らない
からです。
なぜなら、
- 要求仕様が異なるかもしれない
- 使用環境が異なるかもしれない
- 評価が十分ではなかったかもしれない
- たまたま問題が発生していないだけかもしれない
からです。
そのため、
- なぜ成立したのか
- どの条件で成立するのか
- どこまで余裕があるのか
を説明できて初めて、組織として知見を共有できるようになります。
つまりメカ設計では、
知見を持っていること
だけではなく、
知見を説明できること
も重要になります。
これは、メカ設計の知見が共有されにくい理由の一つでもあるように思います。
おわりに
メカ設計のノウハウがネット上に少ないのは、単純に設計者が発信していないからではないように思います。
- 一般化すると教科書になる
- 具体化すると機密になる
- 検討項目が多い
- 前提条件が一致しない
- 組織として説明可能である必要がある
といった事情もあります。
そのため、具体的な構成やノウハウそのものを共有することは、今後も簡単ではないと思います。
しかし、
- 設計の際に何を重視したのか
- どのような観点で判断したのか
- どのような理由でその結論に至ったのか
といった考え方であれば、共有できる余地があるようにも感じています。
私自身、今回の記事を書きながら、
メカ設計の知識共有とは、完成した構成を共有することではなく、
どのような条件を考慮し、
何を重視し、
どのように判断したのかというプロセスを共有することなのかもしれない
と感じています。