はじめに
こんにちは。
突然ですが、インフラエンジニアにとって資格といえば、
- LPIC/LinuC (1/2/30x)
- Oracle Master (Silver/Gold/Platinum)
- AWS認定
- Cisco認定 (CCxA/CCxP/CCxE)
- CompTIA
などが挙げられると思います。国家資格であれば以下のような情報処理技術者試験が有名ですね。
- 非ITエンジニア向けのITパスポート(IP)
- 基本情報技術者(FE)/情報セキュリティマネジメント(SG)
- 応用情報技術者(AP)
- 高度(ST/SA/PM/NW/DB/ES/SM/AU)
- 情報処理安全確保支援士(SC)
私見ではありますが、ITエンジニアにとって資格取得はある一定以上のキャリアがある人にとっては趣味や道楽程度の意味しかないと思っています。若いエンジニアの転職で高度な資格を有していれば、自己研鑽の証として認められ有利に働くこともありますし、技術取得におけるとっかかりや体系的な知識を身につける意味はありますが、その学習の結果、資格の取得に至るかどうかは本質的な意味は無く、それらの学習の後に実際の業務を通して設計や実装を一定以上の品質で実現することの方が大事です。
ですが、私はそれでも資格取得にそれなりのリソースを費やしています。そんな私が、今一番の目標としているのは技術士という資格になります。今回の記事は生粋のインフラエンジニア (インフラアーキテクト)の私が技術士を目指す話になります。
技術士とは何か
まず、ITエンジニア界隈で、 『技術士』 という名前を出すと、かなり高い確率で 「何それ? 」 という反応が返ってきます。上司も知らないし、何ならグループ会社内の資格一覧にも登場してきません。調べた限りですと、私の会社にも1名いて、本社のロッカーの隣の人がそうでした。なんたる偶然。なお、面識はなし。
それはともかくとして技術士とは「科学技術に関する技術的専門知識と高等の応用能力及び豊富な実務経験を有し、公益を確保するため、高い技術者倫理を備えた優れた技術者」を指し、経済産業省管轄(※)の国家資格となります。
※ 情報処理技術者試験は総務省管轄です。
技術士は21の部門で構成されており、IT技術に関する部門は 『情報工学』 となります。技術士は、医師や税理士など(業務独占と呼ばれる)と異なり、その資格がないとできない仕事はありません。ただし、名乗るのには試験に合格したのち登録が必要な 『名称独占』 と呼ばれる資格となります。建築・建設業界では建築士と並んで非常に権威のある資格として扱われていますが、IT業界ですと部門は用意されているものの、そもそも認知されていません。技術士の詳細については以下が詳しいです。
そんな技術士ですが、学術で言うと博士号と同等の権威があり、応用技術の中では最高位の称号であると標榜する方もいます。
学理を開発した学者には博士、技術を産業界に応用する能力を有すると認められた技術者には技術士という称号が与えられる。わが国の科学技術の発展に博士と技術士は車両の両輪となって寄与することを期待する。
引用: 土光敏夫 経済団体連合会 第4代会長
技術士を知ったきっかけ
私が技術士の存在を知ったのは8年ほど前です。その時は社内資格の前提資格として情報処理技術者ネットワークスペシャリスト(NW)を取得した年でしたが、その時一緒に仕事をしていた協働者さんと資格の話になりました。その協働者さんが目指していた資格というのが技術士でした。その時に興味を持って技術士について調べたのですが、当時は調べ方が良くなかったせいか、自分の会社には技術士を取得するための先輩技術士がいないということで断念したのでした。
実際は先輩技術士が不在でも技術士資格を取得するための第3の道が用意されており、それに気づくこと(昨年を除いて)7年もの年月を要したのです。奇しくも第3の選択肢で用意されている実務経験7年の条件と同年数です。
出典:日本技術士会
私は何者か
私のことを一言で言うとインフラエンジニアあるいはインフラアーキテクトです。新卒入社当初は業界のことをあまり調べずフィールドエンジニアになりましたが人が作ったものを直すお仕事に馴染めず、途中でネットワークエンジニアに転身しました。ネットワークエンジニアも大きくインフラエンジニアの1カテゴリであるため、20年以上インフラ一筋で仕事をしてきた、という経歴になります。インフラ基盤であれば一通りの提案・基本設計・詳細設計からのリリースまでを推進・監督できます。
資格取得について、私は30歳ごろまでは不要と考えておりました。なんなら資格がなくてもそれなりに仕事をしている自分がすごいくらいに思っていました。そのためその歳まで何一つ資格を取得してきませんでした。
当時、結婚にあたって妻に「資格一つ持ってない人は尊敬できない」と言うことを言われたことと、社内資格がないと今後昇給の見込みがないかもよと脅されたことをきっかけに、資格取得に勤しむこととしました。その後数年してLPICは304まで、先述した通りネットワークスペシャリストを取得しました。
ちなみにネットワークスペシャリストについても数度の挑戦を経ての取得だったため、私は資格取得能力が高くありません。巷にあるブログは「一発合格しました!」とキラキラしたことが書いてますが、私はそんなことないのでご安心ください。その後紆余曲折あって取得した資格は以下です。
- システムアーキテクト(SA) 2回目で合格
- 情報処理安全確保支援士(SC) 3回目で合格
- AWS認定ソリューションアーキテクト・プロフェッショナル(SAP-C02) 1回で合格
上記をご覧になると分かる通り、基本情報誌技術者(FE)、応用情報技術者試験(AP)、AWS認定ソリューションアーキテクト・アソシエイトなどの初級から中級資格を取っていないのがある意味私の特徴かもしれません。極力省力で取りたいのです。⚪︎⚪︎認定全冠をはじめとした資格コレクションは自分の性能だとコスパが悪いため、取得までの勉強に意味がある、持っているとそれなりにドヤれると言うことを軸にしています。そんな理由なので下位資格取得に意義を見出せないのです。
なぜ技術士を取りたいのか。
一言で言うと、自己満足です。ただ、技術士は他のIT系の資格と異なり、実務経歴を問われます。一般的な最高難度と言われる情報処理高度でさえもITSS基準でいうとレベル4でしかありません(最高位は7)。技術士のITSSランクは明示されていないですが、内容的には明らかに5以上に相当します。
また、一般的にIT試験の最高峰と言われるITストラテジスト(ST)よりも技術士の方が高難度と言われています。問われるのは以下と言われています。
- 理系大学卒業程度の科学技術全般知識
- 部門に即した専門技術全般知識
- リーダーシップ
- 技術者倫理
- 課題解決能力
- 継続的な研鑽
- 一定以上の論文能力・説明能力
少なくともインフラストラクチャ技術においては普段の業務から広く扱っています。私はインフラエンジニアの中でもシステムインテグレータを生業としています。それ故最先端技術というよりも枯れた技術を実装するという立場にあります。ただ、生成AIやブロックチェーンなどの新しめの技術も一定以上の知識は有しています。
プロジェクトという単位を通してインフラ基盤をインテグレートしていくにあたり私は会社の責任者としての立場であり、技術要素によっては1エンジニアとて案件をドライブさせています。よって、上記で求められるような要素はある程度満たしていると考えます。
どうやって取得するのか
技術士試験は以下に分かれています。
- 第一次試験
- 第二次試験・筆記試験
- 第二次試験・口頭試験
第一次試験と第二次試験はスケジュール上同じ年に受けることはできず、準備などを合わせると取得に最低2年かかります。また、第一次試験は受験資格はありませんが、先述した通り第二次試験は受けるだけは可能かもしれませんが、合格判定を受ける上で実務経験が問われます。先輩技術士を必要とする第1、第2経路の実務経験は最短で4年。先輩技術士がいないほとんどのITエンジニアは第3の経路を選択するでしょうから7年の実務経験が問われます。それも技術士としてふさわしい実務経験を、です。
第一次試験
第一次試験は先述通り受験資格がありません。誰でも受験することができます。試験に合格すれば一次試験合格者として認定されます。技術士補として登録しない場合、修習技術者と呼ばれる人になります。修習技術者は状態を示すだけでなんの機能を持ちません。
第一次試験の合格率は大体40ー50%程度で全てマークシート式です。合格率だけで言えば応用技術者試験よりも難度は低いと言われています。
第一次試験で問われるのは以下です。
- 基礎科目 15点満点中 8点以上で合格
- 適性科目 15点万点中 8点以上で合格
- 専門科目 50点満点中25点以上で合格
※ 上記いずれの科目も合格点を下回ってはならない。
情報工学部門を受ける方の特典として、実は専門科目を免除できます。条件は情報処理技術者高度試験合格です。異なる省庁で免除制度が連携しているのが面白いですね。また、このことから技術士を志すものにとって、情報処理技術者高度試験は登竜門に過ぎないことが伺えます。
私もこの免除制度をありがたく享受させていただきました。専門科目は応用情報午前問題程度の知識を問われるとか。
他にもJABEE認定という制度で特定大学の特定学部学科卒業者も第一次試験そのものが免除になる制度があるそうです。当てはまるかもという方は調べてみてもいいかもしれません。結構有名な大学でも名前がなかったりするので、意外と条件が厳しいのですかね。まぁ、JABEE認定を受けられる学力のある人はたとえ免除がされなかったとしても第一次試験に苦労はしないと思います。
基礎科目はさらに中で5つの分野に分かれます。
- 設計・計画に関するもの / 設計理論、システム設計、品質管理等
- 情報・論理に関するもの / アルゴリズム、情報ネットワーク等
- 解析に関するもの / 力学、電磁気学等
- 材料・化学・バイオに関するもの / 材料特性、バイオテクノロジー等
- 環境・エネルギー・技術に関するもの / 環境、エネルギー、技術史等
先ほど合格率の観点から応用情報技術者より平易と書きましたが、例えば、理系の科目を大学受験でオミットできる文系私立大出身者にはかなり厳しい試験となります。高校までの科学知識では太刀打ちできず、一から勉強が必要になります。私は数学が苦手ですが、他の理系科目はそれほど苦手でなかったので、3つ目の解析に関するものは捨てて、他に注力することとしました。参考にした文献を以下に挙げておきます。
上記の分野のうち、自分が何を苦手か知るには、過去問の解説を読んでみることです。解説を読んですでに意味が分からなければ、基本苦手分野だと思ってください。私にとって解析はそれでした。
解説はこの問題集が一番わかりやすいです。また特に重要な知識についてはかなりのページを割いて説明してくれています。そのページを復習するだけでかなり問題が解けるようになりました。
過去問はこちらでひたすら解きました。世の中ではこちらの方が有名ですが、過去問、解説としては先にあげた本だけで十分でした。
応用情報までで問われるIT系の問題、金属特性、製図、は上記問題集の解説の対策で十分と考えたため、以下の書籍を合わせて読みました。これらの本は完全のこの試験にはオーバースペックでしたが、楽しく読めました。
あとは、下記も保険で買いましたが、本番よりもかなり難しい問題が出題されており、これを解いたからといって本番に必要な回答する力が身についたかどうかは正直わかりませんでした。あと、高い。
適性科目は、他の資格でいう技術者倫理であったり法規的なものが問われます。また技術士としての大切な心構えについても問われます。これは第二次試験、また技術士資格を得られた後もずっと付き合っていく考え方になります。
こちらについては過去問の復習だけで挑みました。数年前までは正直無勉強でも常識的に答えれば受かると言われていました。私も過去問では平均で15点中11点取れていたため、過去問を一周しただけでした。
試験当日は、専門科目が免除だったため午後から現地入りしました。国家試験で午後からというのが過去になかったため、ちょっと新鮮な気持ちです。基礎科目は対策した通り、手応えがありました。が、適性科目は案外知識を問われる問題が多く苦戦しました。
翌日には回答が発表されるため、自己採点したところ、基礎科目は余裕でクリアのところ、適性科目は1点足らずでした。失意に打ちひしがれ、しばらく技術士のことを考えないようにしていた。
しかし、自己採点の方が間違っているような気がしたので先日02/25の合格発表で念のため番号を探してみたところ適正科目8点ギリギリでかろうじて合格していました。自己採点のためにメモした回答が間違っていたようで、首の皮一枚つながりました。合格したことは素直に嬉しかったのですが、この試験の対策をもうしなくていいというのが一番嬉しかったです。
第二次試験
ここから先は未来の話になります。
先述した通り、第一次試験を辛くも合格した私でしたが、本来は11月から対策できた第二次試験の対策に出遅れてしまいました。とはいえ、12月は社内資格の準備や昇格のための研修で忙殺されていたためすぐには動けませんでした。
技術士資格の試験はこの第二次試験が本番で本丸。ここが突破できずに何年も挑戦し続けている人が多くいるという超難関試験です。特に情報工学部門の第二次試験・筆記試験は数ある部門の中でも屈指の合格率の低さで、情報処理高度の15%前後をさらに下回る10%未満となります。
そもそも技術士の存在を知っており、第一次試験に合格、おそらく情報処理技術者高度資格ホルダーひしめく受験者が多く集まっての10%未満というのは想像を絶する難易度ということでしょう。
さらにいうと、情報工学部門は以下の科目に分かれます。
- コンピュータ工学
- ソフトウェア工学
- 情報システム
- 情報基盤
過去問をチラッと眺めてみましたが、インフラエンジニアの私がこれならまぁ書けそうだな、と思えるのは情報基盤だけでした。情報基盤は数年ずっと4つの科目の中でも低合格率(ひどい時はなんと4%!) を誇っており、それが試験問題側の問題なのか、受験者の問題なのかはわかりません。おそらく情報基盤を受けるエンジニアのほとんどはインフラエンジニアで論文試験がソフトウェアエンジニアと比較して苦手な傾向にあるのかなと想像しますが。情報処理高度試験もいわゆる論文試験ではなく論文を必要としないスペシャリスト系資格保持者が多いのではないかと思料します。
情報工学部門はそもそも世の中に対策本と呼ばれているものはほとんどありません。私が見つけてきたのは以下です。
この本、情報工学部門における第二次試験全般のことを説明したほぼ唯一と言っていいほどの対策本ですが、以下の点で私にとっては参考になりづらいものでした。
- 筆者が組み込み系技術者で畑がかなり違う
- 全ての高度試験一発合格のキラキラ系で頭の性能がかなり違う
- 選択科目もソフトウェア工学で情報基盤の情報はほぼ皆無
同じ人の以下も買いました。
試しに上記の対策本を読んで昨年ITストラテジストを受けましたが、そもそも論文に辿り着けず爆死しました(午後1、59点で1点足らず)。論文に辿り着けてないのでただの八つ当たりですが。
ただ、先に挙げたように、この筆者の方は技術士試験もいずれの試験も全て一発合格したキラキラ系なんですよね。ビジネス系の書籍もそうですが、地頭のとても良いキラキラした人の思考法を真似ても凡庸な人は模倣すらできないことが常です。
あとは、以下も買いました。これから読みます。
おそらくですが、先の作者以外では情報工学部門唯一の書籍かと思います。
あとはやはり科目違いですが、以下の方のサイトもかなり参考になりそうです。
こちらの記事はキラキラ控えめで好感が持てます。もはやキラキラ系エンジニアに対する妬み記事の様相です。
これからどうするか
申し込み
まずは4月に申し込みがあるので、業務経歴の整理と、自身の経歴を説明した論文作成に勤しみます。これが第二次試験・口頭試験の素材として使われるそうなので、手が抜けません。技術士の継続研鑽 CPD(Continuing Professional Development)に即した記述が必要で、試験申し込みからすでに試験が始まっているは過言ではないと誰かが言っていました。
これは社内資格でもかなり近いこと(※)をやらされるので、割と慣れています。読者的には知らないよって感じでしょうけど。
※ 社内資格ではこれまでの自分の技術分野に即した業務経歴の棚卸し、課題解決などのアピール、その証跡を元にした面談が実施されて、面談を通して合格がもらえれば、認定となる。全部で4段階あって私は2段階まで取得済み。後述するが12月に3段階目の試験も受けていた。4段階目は名誉ランクのようなもので3段階目が実質の最高位。
論文対策
先述した書籍をベースに、合格者の解答例を眺めます。それで回答の型を頭に染み込ませます。
過去問の自分なりの回答が書けるようになったら、今年のネタになりそうなキーワードを拾い上げます。キーワード収集にはどうやら情報通信白書が良いらしいが、文量が殺人的らしくその読み方で研修があると言うのだから驚きです。今見たら300ページでした。かなり眠い文章です。
おわりに
ここまで勢いだけで書いてきましたが、試験までの数ヶ月、こちらで技術士に関連する記事をあげていこうと思います。以下の要素が記事のレアリティさを醸成していると思われるので、なんとか発信していけるようにします。
- 技術士
- 情報工学部門
- 情報基盤科目
- インフラエンジニア
以上