AI導入は「生産性向上」「効率化」「DX推進」といった前向きな言葉で語られる。しかし、現場で観察すると、AI導が事業会社の 実際のコスト削減や収益増につながっていない という現象が広く見られる。
その原因を日本特有の SIer依存型ITモデル と、事業会社自身のAI活用姿勢の問題から整理する。
1. SIerの収益モデルは、AI効率化の恩恵を事業会社に返さない構造
日本のSIerは工数ビジネスである。
収益は「工数 × 単価」で決まるため、AIによって作業が半減しても、見積りは従来工数ベースで提示される。
実際の作業はAIで高速化されるため、差分はSIerの利益となる。
AIによる効率化の恩恵は 事業会社ではなくSIer側に吸収される。
事業会社のITコストは下がらないケースが少なくない。
2. 事業会社は情報基盤を握っておらず、効率化の実態を検証できない
AI導入の効果を測定するには、情報構造の可視化が不可欠。
- データモデル
- 文書体系
- メタデータ
- 権限モデル
- 運用ルール
これらが事業会社側に存在せず、SIer内部に閉じている場合、事業会社はAIによる効率化の実態を把握できない。
そのため、見積りの妥当性を評価できず、価格交渉もできない。
情報主権がない限り、AI導入の成果は事業会社に還元されない。
3. AI導入は「追加プロジェクト」として売られ、むしろ費用が増加
SIerはAI導入を次のように提案する。
- AI活用のPoC
- AI連携の追加開発
- AIガバナンス構築
- AI前提の運用設計
これらはすべて追加費用であり、既存システムの保守費はそのまま残る。
結果として、AI導入は 総ITコストの増加要因 となる。
AI導入が「コスト削減プロジェクト」ではなく「追加投資プロジェクト」として扱われている点が問題。
4. IT部門は「権限がないのに責任だけある」ため、自らAI導入を進めない
AI導入は業務変革を伴うが、日本企業ではIT部門は業務変更の権限を持たない。
しかし、失敗した場合の責任はIT部門に集中。
- 成功 → 事業部が成果を持っていく
- 失敗 → IT部門が責任を負う
この構造の中で、IT部門が自らAI導入を進めることは合理的ではない。
結果として、SIer依存が強まり、AI導入は事業会社の収益増につながらない。
5. 事業会社自身が「自前でAIを使い始める」という最も効果的な方法を実施していない
ここが最も重要である。
現在、多くの事業会社は Microsoft 365 や Google Workspace を既に契約している。
これらには追加費用なしで使えるAI機能が存在する。
- Microsoft 365 (Business Standard以上)→ Copilot
- Google Workspace → Gemini
これらは、既存の業務文書・メール・議事録・スケジュール・チャットを対象に、即座に効果を発揮する。
しかも 追加費用がかからない。
しかし現実には、
- IT部門は「失敗したら責任を負う」ため使い始めない
- 事業部は「よくわからない」ため使い始めない
- SIerは「費用が発生しないため利益にならない」ので推進しない
結果として、事業会社は 最も効果が高く、最も低コストで、最もリスクが低いAI活用手段を使っていない。
これは構造的な損失である。
まとめ:AI導入がコスト削減や収益増につながらないのは構造的必然である
AI導入が事業会社の実際のコスト削減や収益増につながらない理由は、以下の構造的要因にある。
- SIerは工数ビジネスであり、AI効率化の恩恵を事業会社に返さない
- 情報基盤の主導権が事業会社にない
- AI導入が追加費用として売られ、総ITコストが増加する
- IT部門は権限がないのに責任だけ負う
- 事業会社自身が、既存クラウドに付属するAIを使い始めていない
これらが複合的に作用し、AI導入が事業会社のコスト削減や収益増につながらない。
では、事業会社は何から始めるべきか
結論は明確。
まず、既に契約済みのクラウドサービスに付属するAIを徹底的に使い倒すこと。
- Copilot(Microsoft 365)
- Gemini(Google Workspace)
これらは追加費用なしで利用可能であり、SIerの力を借りずに即日開始可能。
費用がかからないため、SIerは推進しない。
だからこそ、事業会社自身が推進する必要がある。
これが、AI導入を事業会社の利益につなげる最初の一歩である。