この記事は、社内で実施した「エンジニア向けUXデザイン思考ワークショップ」の開催記録です。
記載内容
- エンジニアが気づいたUXデザインの重要性
- 当日のワーク内容紹介
- 参加者の気付きや感想
- 開催してみて感じたこと
自分はエンジニアだから関係ない、と思わずに「モノづくり」にUX思考を掛け合わせるヒントとしても読んでもらえたら嬉しいです。
書いてること
💎はじめに
なぜ「エンジニア向けUXワークショップ」を開催しようと思ったのか
まず私自身の話になりますが、
以前担当していたサービスで、頑張って作った機能がほとんど使われなかったことがありました。
- なぜ使われないんだろう?
- 要望通りに追加したのになぜ喜ばれないんだろう?
- そもそも私たちは何のために作っていたんだろう?
という疑問が、UXデザイン思考に興味を持った最初のきっかけです。
UXデザインの考え方を知っていく中で
「作る前に、もっとユーザーのことを知る必要がある」
という当たり前のことが出来ていなかったと気付きました。
作り手はどうしてもモノ(サービスや機能)を提供することが重要だと考えがちです。
でも本来提供したいのは
「モノを利用した結果、その人にどうなって欲しいか」
という体験(コト)であるはずです。
この考えと気付きを共有したく、エンジニア向けにワークショップを開催してみました。
ワークショップで伝えたかったこと
UXデザイン(=ユーザ体験を設計する)は人によって多様な解釈がありますが
私個人の思いとしてはこちらです。
UXデザイン
人が何に喜び、どんな事に価値を感じるのかを本質的に捉え、
「その人にとって価値のある体験」を提供すること
・・・ですが、ここまで広義的に説明してしまうと
システム開発に落とし込んで考えるのは難しいと思ったので
今回のワークショップで主に意識して伝えようとしたのは次の3点です。
💡「ユーザ目線に立つ」とはどういうことか
💡「体験を設計する」とはどういうことか
💡 設計書通りに作る→「なぜ作るのか?」を考える
💎ワークショップの全体像
ワークショップのアジェンダ
| 内容 | 時間 |
|---|---|
| UXワークショップの説明 | 30分 |
| ユーザを知る(ペルソナ作成) | 35分 |
| 体験を見える化(カスタマージャーニーマップ作成) | 45分 |
| 課題に対してアイディアを出す | 40分 |
| プロトタイプで形にする | 45分 |
※ 別途、数回の休憩と発表の時間を設けています
本来ならば数日かけることもあるプロセスですが、今回はとにかく
「参加者にUXデザインの一連のプロセスを体験してもらう」
ということを優先したためかなりコンパクトな時間設定です。
(ユーザビリティテストまで出来なかったのは痛いので後日開催したい)
また、ワークショップで取り扱うテーマについてはあらかじめ用意していました。
参考:ペルソナ、カスタマージャーニーマップとは?
ペルソナとは、商品やサービスのターゲットとなる架空のユーザー像です。
その人物が実在しているかのように、年齢・性別・居住地・職業・役職・年収・趣味・価値観・家族構成・休日の過ごし方・ライフスタイル・ネットリテラシーなどリアリティのある詳細な情報を設定します。
ユーザーが商品やサービスに関わる際、認知・興味・検討・購入などの様々な行程があります。そしてユーザーの行動と、それに紐づく感情・思考・不満(課題)の動きを時系列にまとめたものをカスタマージャーニーマップといいます。
ワークショップに入る前に意識したこと
心理的安全性を高める
参加者の発言量(アイディア量)と成果物の質は比例すると思っています。
できるだけ参加者が自分の意見を発言しやすい環境を作るために
アイスブレイクを実施しました。
💎各プロセスの紹介
1.ユーザのことを知るフェーズ
仕様の前に「誰のための体験か」を考える
普段プロジェクトの現場では、
「仕様をどう実現するか」が思考の起点になりがちです。
ですが、UXデザインでは起点が逆になります。
| 観点 | 仕様思考 | UX思考 |
|---|---|---|
| 起点 | 要件・仕様書 | ペルソナの課題 |
| 主語 | システム | ペルソナ |
| 判断の軸 | 仕様と合っているか | ペルソナにとって意味があるか |
| ゴール | 実装完了 | 良い体験が成立する |
この思考の切り替えと、
- ユーザ視点を持つためには、その人を知ることから
- 仕様書通りに作るのではなく、なぜ?誰のために作るのか?
というデザイン思考の基本をまずは体感してもらいたく
ペルソナ作成とカスタマージャーニーマップを作成しました。
ペルソナとCJM作成は割とありふれたやり方で進めたのでサラッと紹介します。
- 👤ペルソナ作成でやっていること
- ・「誰の話か」を固定しチームで共有する
- ・自分事ではなく、ユーザ事と理解する
- ・「全員向け」という発想を崩す
- 🎭CJMでやっていること
- ・体験のすべてを俯瞰できるようにする
- ・行動と感情を並べて見る
- ・問題が起きている瞬間を特定する
2.ユーザのことを深く理解するフェーズ
「価値がある」と感じてもらうためには、その人にとっての「価値」を知る
ペルソナとCJMの作成で
誰が?どんな行動をして?どこで困っているのか?
ということが見えるようになりチームでも共有できました。
ただ、これだけではまだ足りません。
💭なぜ、それが嫌なのか
💭なぜ、それを嬉しいと感じるのか
といった、内面の理由までは見えていないからです。
そこで、
表に出ている発言や行動から価値観を掘り下げて探すワークを行いました。
実践したワーク内容としては、
行動とその時の感情を抽出し、そこに対してなぜなぜ分析を数回繰り返す方法です。
具体例
行動: ランチを探す
感情: 探すの面倒だな〜
Q1.なぜめんどくさい?
→ 選択肢が多すぎる
Q2.なぜ選択肢が多いと嫌?
→ 失敗したくないから
Q3.なぜ失敗したくない?
→ 限られた休憩時間を無駄にしたくない
→ お昼ご飯が失敗するとその日のテンションが下がる
例:冒険よりも「外さない」選択ができること
気分が落ちないことを優先
決断コストを減らしたい
このワークは特に難しく感じるワークですが
同時に、「ユーザが感じる価値」について分析が足りていないことが実感できるワークでもあると思っています。
3.価値を感じる体験に落とし込んで、形にするフェーズ
理解を深めたユーザのために、何ができるかを考える
ここまで、ペルソナのことを理解するための時間でした。
ここからは、深く理解したペルソナに対して
実際に提供できる体験を考えて形にするフェーズになります。
このフェーズでは、
前段までの理解を前提に「何ができるか」を考えます。
ポイントとしては、
いきなり「作る」方向に行かないことです。
3-1. アイディア出しのワーク:機能ではなく「体験」ベースのアイディアを発散する
CJMで見えた課題や違和感に対して、体験をより良くするためのアイデア出しをする時間です。
このワークでは、あらかじめルールを決めました。
- 質より量
- とにかく出す
- 実現可能性は考えない
- 技術・機能の話は一旦しない
課題が見つかると、すぐに「じゃあどんな機能で解決しようか」という思考になってしまいがちですが
機能から考える癖を一度リセットするため、自由に発散する場にしました。
などを転用してアイディア出しを実践しました。
3-2. プロトタイプ:UIを作るのではなく「体験を形にする」
次に行ったのが、
アイディアをプロトタイプとして形にするワークです。
ここでは多くのエンジニアが無意識にUI設計モードに入ります。
- ボタン配置
- 画面遷移
- 入力項目
などから考えてしまいがちですが、本来これらの要素は
「何のための画面か」「何を実現するための画面なのか」
という情報構造の上に成り立つべき要素です。
どうしても細かな設計から手を付けていってしまうので
「なぜこの画面が必要なのか」「画面の目的は?」という問いを立て続けました。
大まかに紹介しましたが、以上がワークショップで体験してもらったワーク内容です。
2チームでワークを進めましたが、
テーマは同じでも、ペルソナも課題もサービスも全く異なるものが出来上がるので発表の時間はあったほうが
良いです。参加者の方々にとっても新しい視点で新鮮だと感じるはずです。
💎参加した方の気づきや感想
アンケートを通して感じたのは、
- 「新しい視点に気付けたこと」
- 「思考の癖(機能主体、作り手主体で考えていた)に気付けたこと」
という内容の感想が多かったことです。
作り手側の考えではなく、使う人側からモノとコトを考える
という、まさに私が伝えたかったことを体感してもらえたと思います。
また、数人のチームでワークを進めていく事へのポジティブな意見もたくさん見受けられました。
- 「他者の視点にたくさん触れられた」
- 「意見を出し合って、良くなっていく感覚が楽しかった」
- 「自分にはない考え方が新鮮だった」
実際、体験をデザインするプロセスは一人で行うものではありません。
サービスに関わる全ての担当者を含めて横断的に実践する必要があります。
一人で考えるより、複数人で考えた方が様々な視点を取り入れられて精度が上がる
という実感を持ってもらえました。(※上手くいった場合の話)
💎開催してみての所感
「作る」から「何を届けるか」という視点転換は、まず気付くところから
普段現場で働いていると、「仕様を正確に理解し、仕様通りに作る」ことが強く求められます。
もちろん全然間違いではないですが、長くいるとどうしても思考が固まってしまうような気がします。
これは決まっているから考えなくていい
なぜこうなっているかは自分の守備範囲じゃない
誰が使うのかはあまり考える必要がない
私自身もそうでしたが、まずは
💡自分って全然ユーザのこと考えられていなかった!
💡良い体験のためにモノづくりをしている意識がなかった!
ということに気付くことが大事だと思います。
そのような気付きを得られるきっかけでもあってほしい、と思い開催したワークショップなので
新しい視点に気付けた、思考の癖に気付けた
という声を頂けたのは開催者冥利に尽きます。
と同時に、やはり普段は作り手思考となってしまっている方が多いのではないか、とも感じました。
ファシリテーション・雰囲気作りで意識したこと
ファシリテーションに関しては全くの無知で、正直反省点まみれですが
自分の中で「少なくともこれは意識しよう」と思っていた事はいくつかありました。
- 意見を出しやすい空気づくり(率先して砕けた意見を言ってみる)
- 説明している時もできるだけ普段の会話っぽくなるように
- なぜこの設定にしたのか?なぜ〇〇なのか?
という問いをワーク中に意識的に多く取り入れる(表面の情報だけで捉えないように)
この取り組みでワークショップ自体は活気あるものになっていたと思います。
💎おわりに
今まで色々とペルソナだのCJMだのプロセスがどうのこうの説明しましたが
UXデザインやデザイン思考と呼ばれるものの本質はマインドセットだと思います。
各プロセスを丁寧に丁寧に辿ったからといって、必ず価値あるものが出来上がるとは限りません。
なので正直プロセスや作成するものは何でも良いんです。あくまで思考のフレームワークです。
ただ、
「使う人は誰か」「使う人はどんな事を辛く感じて、どんなことに喜びを覚えるのか」「使った人がどう感じるか」「それを価値だと感じるのか」
ということを考えて、形にして、作り上げて、実践して、試して、戻って、
という営みができるマインドが必要です。
「作れる人」から「価値を感じてもらえるものを作れる人」へ
AIの進化によって「作ること」そのもののハードルは下がっていくと思います。
サービスやアプリも、今わたしたちの身の回りに溢れている「モノ」と同じくコモディティ化していきます。
だからこそ、これから人間により強く求められるのは、
「使う人にとって価値のある体験を提供しよう」 というマインドだと感じています。
(AI時代が深まるにつれ、より人間らしさや人間の深層的な欲求や価値観を考えることが重要になっていくのはなんだか皮肉めいている気もしますが)
もし、今何かのサービスやモノづくりに携わっている方が読んでいたら
「これは誰が使うんだろう?」
「これを使って何をしたいんだろう?」
「何のための機能なんだろう?」
などなんでも良いので「モノ」の先の「コト」の部分を考えるきっかけとなれば嬉しいです!
ここまで読んで頂きありがとうございました!



