これまで私は、自作の物理シミュレーション集(Makarov Physics Suite)について何度か記事を書いてきました。実はそこから派生して、もう一つのプロジェクトが育っています。数学の教育用シミュレーション集です。
まだ開発の初期段階で、完成時期も決まっていません。ただ先日 Steam のストアページが承認されたので、ここで一度紹介させてください。興味を持っていただけたら、ウィッシュリストに入れていただけると嬉しいです。
現時点で動くモジュールはまだ少なく、どれも最終形ではありません。それでも、いくつかは既に「数式ではなく動きで理解する」という当初の狙いどおりのものになってきました。以下、モジュールごとに紹介していきます。
なぜ地図は嘘をつくのか — 図法と歪み
地球は球で、地図は平面です。どこかを必ず犠牲にしなければなりません。球面が平面へ投影される様子をそのまま見せると、グリーンランドは膨れ上がり、アフリカは縮み、輪郭は歪んでいきます。どんな地図も妥協の産物であり、問題は「何を犠牲にしたのか」だけです。
モジュールでは複数の図法を切り替えながら、マーカー位置での面積比と形状比を数値で表示します。正角図法ではどんなに小さな指示楕円も円のまま保たれ、その代償を面積が払っている、ということが数字として読み取れます。
ベクトル場 — 流れの隠れた構造
ベクトル場は、空間の各点に向きと強さを与えます。風、海流、重力、磁場。粒子を場の中に放つと、それらは場に流されながら、その隠れた構造を浮かび上がらせます。湧き出し、吸い込み、渦。流れの見えない建築です。
発散と回転は各点で数値的に積分しており、場について何も仮定していません。サドル、ガウス場、ストークス場、ABC 場などを切り替えて観察できます。
円周上の掛け算表 — 算数が隠していた幾何
数を円周上に等間隔で並べ、それぞれを自分の倍数と線で結びます。2 倍ならハート形のカージオイド、3 倍なら二葉のネフロイド。さらに進めると、より複雑な曲線が次々に現れます。学校の算数が、そのまま幾何学のギャラリーを隠し持っていたことが分かります。
現れる包絡線は、コーヒーカップの底に光が作るあの明るい曲線と同じものです。
ヒマワリ — 黄金角 137.5°
種は一つずつ、前の種から約 137.5 度(黄金角)だけ回転して配置されていきます。その結果として、ヒマワリ、松ぼっくり、パイナップルに見られるあの螺旋模様が生まれます。
面白いのは、角度をほんの少しだけ変えると、この美しさが一瞬で崩れることです。自然は、種が最も密に詰まる唯一の角度を選んでいます。モジュールでは角度をスライダーで 100 分の 1 度単位で動かせるので、螺旋が巻き上がり、また別の螺旋に切り替わる瞬間を直接見ることができます。
ピタゴラスの定理 — 代数ではなく面積として
代数はいったん忘れてください。直角三角形の 2 つの短い辺の上に立てた正方形を切り分け、並べ替えると、長い辺の上の正方形をぴったり埋め尽くします。
数学で最も古い定理の一つを、証明ではなくパズルとして扱ったモジュールです。頂点をドラッグすると切り分け方はその場で再構成され、断片をスライダーで運んで手作業で嵌め込むこともできます。
多面体の展開図
どんな多面体も平らな一枚の紙に展開できます。しかも、その方法はたいてい一通りではありません。立方体やその他の立体が開いては閉じる様子を見ていると、立体の図形が実は二次元の中にも密かに住んでいることが分かります。
立方体の展開図は 11 種類、正八面体も 11 種類。どの辺が切られるかが色で示され、必要な紙の大きさも計算されます。
円錐曲線 — 4 つの曲線は同じ一つのもの
円、楕円、放物線、双曲線。まったく違って見える 4 つの曲線は、実は同じものです。円錐を異なる角度で切った断面にすぎません。
一枚の切断平面が傾いていくにつれ、曲線が互いに移り変わっていく様子を見ることができます。ダンデリンの球を表示すれば、なぜ焦点がそこにあるのかも同時に分かります。この曲線たちは、惑星の軌道からパラボラアンテナまで、あらゆるものを支配しています。
カオスゲーム — 偶然の中に隠れた秩序
三角形の頂点をランダムに一つ選び、そこへ半分の距離だけ跳ぶ。これを数千回繰り返します。
純粋な偶然なのだから、出てくるのは形のない染みのはずです。ところが実際に現れるのは、無限に入れ子になったフラクタル、シェルピンスキーの三角形です。偶然の中に隠れた秩序。モジュールではボックスカウント法で次元も測っており、理論値どおりの約 1.585 に収束していきます。
プラトン立体とアルキメデス立体 — 切り落としの数学
すべての面が同じ正多角形で、すべての頂点が同じ構造をしている凸多面体は、ちょうど 5 種類しかありません。6 つ目は存在しませんし、これからも現れません。
その先が切頂(truncation)です。各辺が両端から少しずつ譲り、角にできた新しい面が育ち、古い面は縮んでいきます。t = 1/3 で正二十面体からサッカーボールが生まれます。12 個の五角形と 20 個の六角形です。t = 1/2 では古い面同士が辺の中点で出会います。モジュールでは切頂が自動で進行し、新しい面がちょうど正多角形になる位置で止まります。
極小曲面 — 石鹸膜が選ぶ形
石鹸膜が落ち着く形。カテノイド、ヘリコイド、エンネパー曲面、シェルク曲面。いずれも各点で平均曲率がゼロです。一方向に曲がっている分だけ、ちょうど同じだけ反対方向にも曲がっています。パネルはその値を、描かれている曲面の上で有限差分によって実測しています(理論値を表示しているわけではありません)。
最も美しいのはボネ変換です。角度を一つ回すだけで、カテノイドがヘリコイドへ流れ込みます。しかも伸び縮みは一切なく、膜の上のすべての距離が保たれたままです。色はガウス曲率を表しており、水色はほぼ平坦、紫は最も急な鞍点です。
結び目 — 数えられる不変量
トーラス結び目 T(p, q) は、曲線がトーラスの穴のまわりを p 回、管のまわりを q 回巻いたものです。三葉結び目、五葉結び目、ソロモンの環などが作れます。
面白いのは、この図が自分の交差点をカメラの回転に合わせて毎フレーム数え直すことです。そしてその数は、どう回しても既知の最小値を下回りません。これこそが「不変量」の意味です。さらに p と q を入れ替えてみてください。絵はまったく違うものになりますが、結び目は同じもので、数字がそれを裏付けてくれます。
双曲幾何 — ポアンカレ円板
ポアンカレ円板では、無限に広い双曲平面全体が一つの円の内側に収まっています。そして縁までの距離は無限に遠いのです。
各頂点に 3 つずつ集まる正七角形が、隙間も重なりもなくこの平面を敷き詰めます。普通の平面では絶対に不可能な配置です。この敷き詰めは手作業で並べたものではなく、中央の一枚のタイルを反射で増殖させて育てたものです。
さらにこの模様は流れます。メビウス変換が模様の上を滑り、タイルが縁から浮かび上がってはまた戻っていきます。その間、どの辺も双曲的な長さを一切変えません。隣には同じ模様を双曲面(hyperboloid)に持ち上げたものを並べています。同じ幾何のもう一つのモデルです。
4 次元多胞体 — 四次元を目で見る
四次元超立方体(テッセラクト)の影は、立方体の中の立方体です。この立体を xw 平面で、つまり第四の次元を通して回転させてみてください。内側の立方体が膨らみ、外側の立方体を通り抜け、その位置に収まります。この「呼吸」こそが、自分の目で見た四次元です。
正凸多胞体はちょうど 6 種類しかなく、いずれも描いたものではなく座標から構築しています。たとえば 120 胞体は手で打ち込んだものではありません。その 600 個の頂点は、双対である 600 胞体の 600 個の四面体の中心そのものです。辺は第四座標で色分けしてあり、暖色は「4D の視点」に近く、寒色は遠い側です。
おわりに
どのモジュールにも共通しているのは、絵を描いているのではなく計算しているという点です。交差数も、曲率も、次元も、多胞体の頂点座標も、すべてその場で求めています。だからパラメータを動かせば、数字も一緒に正しく動きます。
Makarov Math Suite はまだ開発中で、これから増えるモジュールもあります。Steam のウィッシュリストに入れていただけると、開発の大きな励みになります。