粉体ドラム(Granular tumbler)
ドラムが一つ、中に粒がいっぱい、そして回転速度のつまみが一つ。モジュールの中身はそれだけ です。それだけで、粉体工学の教科書に描かれる四つの運動形態が全部そろいます。
計算しているのは絵ではなく接触です。粒は一つ一つが独立した物体で、二つが重なると法線方向 にはばねとダッシュポット、接線方向にはクーロン則で頭を打った摩擦が働きます。円筒の壁も、 両端の蓋も、リフター板も、飾りではなく動く境界です。接触点で ω×r の速度を持っていて、 ドラムが粉体層に話しかける手段はそれしかありません。ドラムは層を回しているのではなく、 擦っています。
この先の話は全部そこから出てきます。壁がどこまで粒を担ぎ上げられるか、粒がどこで我慢を やめて落ちるか、その勝負だけです。
勝負を決める数字が一つあります。√(g/R) — 半径 0.5 m なら 4.43 rad/s。これを超えると壁は 誰の助けも要らなくなります。その半径で必要な向心加速度が重力を上回り、円の一番上でも粒は 壁に貼りついたままになる。この数字は調整して決めたものでも、手で書き込んだものでもありま せん。パネルに表示され、二つの数から誰でも検算できます。
以下、速度の低い順に四つの形態です。数値はリフター 6 枚・粒 400 個のモデルで実測したもの です。
1. スランピング(崩落)ω = 0.5 rad/s、しきい値の九分の一
ドラムはほとんど止まっています。粉体層は底に山になって溜まり、壁が一粒ずつ担ぎ上げ、山が だんだん急になって、あるところで面ごと一気に崩れる。そしてまた同じことが起きます。
動きが連続しないところが、この動画で見てほしい点です。流れではなく、独立した崩落の連続。 ドラムの中心より上に来る粒は 8 %、粉体層が占めるのは円周の 150° です。
ここで摩擦のつまみを 0.05 まで下げると、崩落そのものが消えます。壁が粉体層の下を滑り始め、 層はただ底に寝てしまう。担ぎ上げられる角度は 23° から 3° に落ちます。
2. 転動(ローリング)ω = 1.6 rad/s、しきい値の三分の一
崩落がつながって連続した流れになり、粉体層が二つに分かれます。下側は剛体のように壁と一緒 に運ばれ、その表面を薄い層が絶えず滑り落ちていく。混合はその薄い層の中だけで起きます。
中心より上の粒は 18 %、粉体層は円の半分を占めます。層の頂点は 0.13 から 0.30 まで上がりま す(ドラム半径は 0.5)。
実際のミルの常用域はここです。トレーサー染色を入れるならこの形態が一番わかりやすい。粉体 層が左半分と右半分で二色に塗り分けられ、下のグラフが Lacey 指数を追います(0 が完全分離、 1 が均一混合)。ゼロから上がっていく様子が動画で見えます。
3. カタラクティング(落下)ω = 3.2 rad/s、しきい値の十分の七
壁が担ぎ上げる高さが十分になり、粒は転がり落ちるのをやめて、落下し始めます。粉体層の一部 が空洞を横切って飛び、反対側の層に叩きつける。名前はそこから来ています。
数値ははっきり変わります。中心より上の粒が 31 %、粉体層は円周の 300° に広がり、最高点は 0.448 — 軸とほぼ同じ高さです。最速の粒は 4.17 m/s、第一形態の 2.28 に対して。
粒は自分の速度を色として着ています。この動画が一番それらしく見えるはずです。飛んでいる流 れが暖色、寝ている層が寒色。
4. 遠心(センタリフュージング)ω = 9 rad/s、しきい値の二倍
√(g/R) を超えると、壁は何の助けもなしに粒を保持します。粉体層は落ちるのをやめ、ドラムと 一緒に回るリングとして壁に貼りつく。混合も一緒に止まります。ミルではこれは故障ですが、 ここでは四枚目の絵というだけです。
粒の平均半径はドラム半径の 0.95 まで跳ね上がります。文字どおり壁に塗り広げられた状態です。 中心より上にいるのが 59 %、リングは 360° のうち 315° を占めます。
この動画について正直な但し書きを一つ。このリングはリフターのおかげです。「リフター」の スライダーを 0 にすると、同じ 9 rad/s でも遠心状態にはなりません。摩擦 0.4 の滑らかな壁は 粉体層の下を滑り、層は底に残ったまま、中心より上に来る粒は 59 % ではなく 3 % です。 √(g/R) が答えるのは「上まで行った粒がそこに留まるか」であって、「ドラムがそこまで運べる か」ではありません。四番目はリフターを入れて撮ってください。
いじれるもの
回転速度 — ボタン四つで各形態のまん中に一発で入ります。スライダーは 0.1 から 12 rad/s。パネルには今どの形態にいるか、しきい値がどこかが常に出ています。
リフター — 壁に立てる放射状の板が 0 枚から 12 枚。粒を担ぎ上げて空洞越しに落とします。 これが無いと、混合は表面の薄い層だけの仕事になります。
粒の数 — 40 から 2000。粒の半径は固定なので、これは充填率そのものです。60 個なら層の 頂点は −0.34、体積の 1.4 %。500 個なら −0.04、12 %。層が深いほど混合は遅くなり、同じ時間で の Lacey 指数は 1.02 から 0.51 まで落ちます。
摩擦 — 接線力にかかるクーロン則の上限で、粒どうしの接触にも粒と壁の接触にも同じ値が 効きます。壁が粉体層を担ぎ上げる角度を決める数字です。0.05 なら層は底に寝たまま(3°)、 0.40 で 23°、0.90 で 27°。頭打ちになります。0.05 → 0.40 で 20 度増えるのに対し、 0.40 → 0.90 では 3.5 度しか増えません。
ドラムの奥行き — 0.2 m から 1 m。両端の蓋も壁と同じ動く境界なので、浅いドラムでは蓋が 粉体層を押さえる力がはっきり効いてきます。
トレーサー染色 — 粉体層を左右二色に塗り分け、グラフの Lacey 指数を動かします。
ドラムは常時回っていて、止める手段はありません。四つの形態はどれも動きそのものが見どころ だからです。Reset はドラムを止めずに粉体層を撒き直します。混合のグラフがまたゼロから 上がっていくのを見るためのボタンです。