経緯
修士課程の研究である材料の物性をVASP(Vienna Ab-initio Simulation Package)という計算ソフトを用いて計算している。その研究の過程で計算条件を変えると特異な値を示した。この原因を探るため、その材料の状態密度 (Density of State, DOS)の図を書き、物性の変化を見る必要があった。この記事はその過程でわからなかった箇所を備忘録としてまとめてみた。わからないなりにまとめたので、間違っている箇所が多数あると思うのでお手柔らかにお願いします。
状態密度(Density of State, DOS)
固体中の任意のエネルギーに対する電子状態・軌道の量のこと。状態密度がどのように広がっているかを知ることで、その固体中の電子がどのように広がっているかどうかがわかる。広範囲に電子が広がっており、状態密度が0となるようなエネルギー帯がない場合、その固体は導体(電気を通す物質)であると言える。逆に、あるエネルギー帯で電子が存在していない場合、その個体には禁制帯が存在すると言うことなので、そのエネルギーのギャップの大きさに応じて絶縁体または半導体と言える。
状態密度の計算方法
一般には、状態密度は以下のように定義される。
$$\displaystyle D(E) = \sum_k \delta (E - \epsilon_k)$$
この定義通りにあるエネルギーにおける状態密度を求めていく際に、既知の$\epsilon_k$を用いて計算するとデルタ関数が複数あるような離散的な状態密度になってしまう。この問題を解消するためにいくつかの近似方法がある。今回は、Gaussian smearing と Tetrahedron smearing という方法について述べる。
Gaussian smearing
デルタ関数をガウス関数で近似することで状態密度の精度を担保する手法。具体的には、以下のように近似する。
$$ \delta \sim \dfrac{1}{\sqrt{2\pi\sigma^2}}\hspace{4mm}\exp \left(-\dfrac{(E-\epsilon_k)^2}{2\sigma^2} \right) $$
Tetrahedron smearing
離散的な $k$点に対して $\epsilon_k$ が与えられている時にその近似として離散的な$k$点の間を直線で内装する。この手法では、メッシュを細かくしていけば、Gaussian で近似するよりも早く確実に $D(E)$ に近づいていく。
状態密度分布の描画の仕方
VASPではDOSは DOSCAR
というファイルに出力される。以下は欠陥を含む $\rm{ZrO_2}$についてVASPで計算した際の出力結果の抜粋である。
47 47 1 0
0.1201078E+02 0.7287622E-09 0.7287622E-09 0.1062912E-08 0.5000000E-15
1.000000000000000E-04
CAR
unknown system
22.26731302 -45.26028603 301 9.66105032 1.00000000
-45.260 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-45.035 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-44.810 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-44.585 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-44.360 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-44.135 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-43.910 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-43.685 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-43.460 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-43.234 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-43.009 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-42.784 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
-42.559 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00 0.0000E+00
...
19.341 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
19.566 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
19.791 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
20.016 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
20.241 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
20.467 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
20.692 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
20.917 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
21.142 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
21.367 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
21.592 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
21.817 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
22.042 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
22.267 0.0000E+00 0.0000E+00 0.2880E+03 0.2880E+03
今回描く状態密度に関連するのは、7行目以降のデータ。一番左の列は Energy [eV] であり、2列目以降は INCAR
のISPIN
の設定次第で行数が変化する。今回はスピンの up, down を考えている計算の設定 (ISPIN = 2
)としたため、4列になっている。具体的には、左からDOS (up spin), DOS (down spin), Integrated DOS (up), Integrated DOS (down)である。ここで、Integrated DOSとは、そのエネルギーまでのDOSの積分値を意味する。なお、上記の出力の最後の列以降にも出力があるが、今回は簡単なDOS分布の描画を考えるため、割愛する。
このことからDOS分布の描画をするには、DOSCARの2列目 vs 3, 4列目とすれば良いことがわかる。
参考にしたサイト
- VASP manual
- 状態密度 (gaussian smearing & tetrahedron smearing)