はじめに
本記事は Oracle Cloud Infrastructure Advent Calendar 2023 の 9 日目の記事です。
Oracle Cloud Infrastructure(以下、OCI)の認定資格の取得に役立つ OCI Self-Paced Labs がリリースされたので、お小遣いで購入して試してみた体験について書きました。
本記事は 2023 年 12 月 1 日現在の情報をもとに作成しました。価格などの最新情報は各自でご確認ください。
OCI の資格試験と実技試験について
OCI には 16 種類の資格試験があります。そのうち、以下の 3 種類の試験では、2023 年 9 月から、Hands-on Performance Exams (略称:HPE) と呼ばれる、いわゆる実技試験が導入されました。
- OCI 2023 Architect Professional
- OCI 2023 Security Professional
- OCI 2023 Cloud Operations Professional
(参考記事:OCI 2023 Certification Learning Paths and Exams now available)
これらの試験に合格するには、実際に OCI 環境を操作する経験が不可欠です。例題的なシナリオは公開されており、それらのシナリオを中心的に学習することになります。
また、他の試験であっても、パブリッククラウドをしっかりと理解するには、ハンズオン(手を汚して覚える経験)が大切です。ほとんどの場合、試験に合格すること自体が重要なのではなく、その知識や技術を業務に活用することが重要です。
なお、ちょうど、2024 年 1 月末まで、OCI の資格試験が無料となるキャンペーンが行われています。この機会に受験を検討してみてください。私も 1 月の試験を申し込み、それに向けて学習しているところです。無料キャンペーンについては asahide さんの記事に詳しく書かれています。
OCI Self-Paced Labs とは
概要
OCI Self-Paced Labs は、2023 年 10 月に新規リリースされたサービスです。
このサービスを利用することで、「認定資格の取得に向けて、実際にパブリッククラウド(OCI)を触ってみる」経験ができます。年額または月額のサブスクリプション形式となっており、月額の場合は 1 か月 ¥4,060 で利用できます。このサービスの特筆すべきポイントは以下の 2 つです。
- 認定資格の取得に特化していること
- 追加料金がかからないこと
特に、追加料金が絶対にかからない というのは大きなメリットです。使い方にかかわらず、後述する月額料以外の請求を受けることはありませんので、安心して環境を利用できます。ただし、認定資格に関係ないサービスや、サブスクリプションに見合わない高額なサービスは最初から利用できないように制限されています。
詳しくは、Oracle 社の公式ブログ の以下の記事を参考にしてください。
リクエストから利用の流れ
まずは、サブスクリプション契約を行います。契約後、所定のページからリクエストすることで、OCI 上に自分専用のコンパートメント(利用環境)が割り当てられ、自由に利用できるようになります。
リクエストした環境は、およそ 20 分ほどで利用可能で、48 時間有効です。
48 時間が過ぎてしばらくすると自動的に削除されてしまいます。逆に、色々と環境を汚しても後片付けのことを考えなくて良いというメリットがあります。もっと長く使いたい場合、利用期間の延長を申請できます 1 。逆に、その環境が必要なくなったらいつでも開放できます。
利用期間が終了したり、自ら開放した後も、サブスクリプションの期間内であれば何度でも環境リクエストができます。ただし、同時に利用できるのは 1 つの環境だけです。新たなリクエストは、環境を持っていない状態で行う必要があります。
実際に使ってみた
契約手順
まずは、Oracle MyLearn にサインインします。アカウントがない方は作成しましょう。
次に Oracle Cloud Learning Subscriptions にアクセスします。
今回契約する Self-Paced Labs Subscription は下記画像のとおりです。月契約か年間契約のお好きな方で「購入する」ボタンを押しましょう(ページの上部には、とんでもなく高価なサブスクリプションもあります。間違えて選ばないようにご注意ください)。
カートに入れました。支払いはクレジットカードで行います。
契約完了!
OCI Self-Paced Labs の利用
Self-Paced Labs を利用するためには、事前にリクエストをする必要があります。
対応している認定資格の各コースには、ビデオ講義の他に「Lab」というタブが表示されます。これをクリックしてから、「Request Lab」を選択します。
「Build Lab」を選択。
リクエストすると、以下のようなメールが届きます(これから準備するよ、できたらもう一度メールするから待ってね、という内容です)
環境の準備ができると、再度メールが届きます。
サインインの情報を確認できました!
OCI にサインインしてよう!
指定された URL から Direct Sign-In を利用してサインインします(SSO は使いません)。
パスワードの変更後、サインインに成功すると、OCI にアクセスできます。
もし英語を読むのが苦手な場合は、画面右上の地球儀のアイコンから表示言語を変更できます。
それ以降、ごく普通に利用できます。ただし、自分に割り当てられたコンパートメント(利用環境)だけを利用できるようになっていますので、コンパートメントを正しく指定してからご利用ください。
使ってみた感想
良かったところ
1. モチベーション維持
OCI Self-Paced Labs は、試験対策で色々と実環境を触ってみるためのモチベーションになります。普通に契約して利用する OCI とほとんど使い勝手が変わらず、とてもスムーズに利用できます。
2. 環境依存が少ない
それぞれの認定資格において、ハンズオンの手順書(PDF)や講義(ビデオ)が公開されています(資格の種類によっては、英語版しかないものがあるようです)。
与えられた環境でそのまま操作すれば、失敗なくできるようになっています。「状況や環境によって読み替える」という必要がほとんどなく、さすがは専用の環境だな、と感動を覚えました。書かれた(言われた)通りにやってみて、そこから自分自身で吸収するという学習方法は、とても時間効率の良い学び方だと思います。
気になったところ
1. 48 時間で消えてしまう環境
作って 2 日で環境が消えてしまうことは、私にとってはややデメリットと映りました。仕事と子育ての合間を縫って、早朝や深夜の隙間時間でしがなく勉強する身です。明日続きをやろうと思って中断し、次の日に時間を取れずにそのまま環境が消えてしまうと、だいぶモチベーションが下がります 2。
また、延長申請のボタンを押したときにタイムアウトのエラーが発生し、延長できなかった上にそれ以降ボタンを押せなくなってしまう、というトラブルがありました。エラーは仕方ないことですが、回数やタイミングの制約を設けずに無条件で延長申請をできるようにして欲しいなと思いました。
2. 他の人の環境を(少し)覗けてしまう
他の人に割り当てられたコンパートメント(利用環境)を覗き見できてしまう点が少し気になりました。また、自分のコンパートメントであっても、以前の利用者のものと思しき「終了済み」状態(=削除済みという意味)の仮想マシンが残っていたことがありました。
パブリッククラウドにおける一般的な約束事として、リソースの名称やメタデータに機密情報を載せるべからず、というものがあります。そのとおり正しく使っていれば問題はありませんが、パブリッククラウドを使い始めたばかりの人がそのことを知らなくてもおかしくありません。
費用について
けっこう高いな、というのが第一印象です。なにしろ GPT-4 よりも高いのです。
普通に OCI を契約して利用していても、認定資格の試験対策という使い方において請求額が月 4,060 円を超えることはまずありません。このため、コストパフォーナンスの観点では、あまり割の良い選択肢とはいえません。
しかし、想定外の高額請求を回避できる安心感のメリットは大きいです。保険のようなものだと思っておくのが良いかと思います。
最後に
今年度から開始した実技試験は、OCI 界隈に大きな驚きをもって迎えられました。
この変更は、資格試験にチャレンジするためのハードルを上げてしまった側面があるかもしれません。たとえば AWS では、いまでも実環境を一切触ることなく最難関の SAP-C02 試験をパスすることができます。
一方、より実務で近いスタンスの試験になったとも言えます。試験に合格するだけは意味がなく、実際に使いこなしてこそ意味があるのは確かです。こう考えると Oracle さんの狙いが見えてきますが、なかなか思い切った舵切りをしたものだと思います。
OCI Self-Paced Labs は、この実技試験と非常に相性が良いものでした。対象の認定資格を取得しようと計画している方は、ぜひご利用を検討いただければと思います。