Work IQ / Fabric IQ / Foundry IQ / Web IQ の違い
Microsoft Build 2026 で、Microsoft IQ という考え方がかなり前面に出てきた。
Microsoft IQ は、AI エージェントに対して、単に LLM の能力だけではなく、仕事の文脈、業務データの意味、組織内ナレッジ、外部 Web の最新情報を渡すための仕組みだと理解している。
公式ドキュメントでは、Microsoft IQ は次の 4 つの相互接続された機能で構成されると説明されている。(Microsoft Learn)
- Work IQ
- Fabric IQ
- Foundry IQ
- Web IQ
最初にこれを見たとき、少しわかりにくいと思った。
全部「IQ」と付いているが、実際にはかなり性格が違う。
私は、ざっくり次のように分けて理解している。
| 分類 | IQ | 私の理解 |
|---|---|---|
| 拾ってくるIQ | Work IQ | Microsoft 365 上の仕事の文脈を拾ってくる |
| 拾ってくるIQ | Web IQ | 外部 Web の最新情報を拾ってくる |
| 設計するIQ | Fabric IQ | 業務データの意味や関係性を定義する |
| 設計するIQ | Foundry IQ | エージェントに読ませる知識ソースを構成する |
もう少し強引に言うと、
Work IQ / Web IQ は、すでに存在している世界から文脈を拾ってくる IQ。
Fabric IQ / Foundry IQ は、組織がエージェントに何をどう理解させるかを設計する IQ。
という見方である。
ただし、注意点がある。
Fabric IQ と Foundry IQ はどちらも「人が設計する側」ではあるが、設計する対象が違う。
Fabric IQ は、業務データの意味や関係性を設計する。
Foundry IQ は、エージェントが参照するナレッジベースや知識ソースを設計する。
この違いを押さえると、Microsoft IQ 全体がかなり見えやすくなる。
全体像
まず、4つを一枚で見る。
| IQ | ひとことで言うと | 見ている世界 | もともとの建付け |
|---|---|---|---|
| Work IQ | 社内の仕事文脈を読む | Microsoft 365、Teams、Outlook、SharePoint、人、会議、チャット | Microsoft 365 Copilot / Microsoft Graph / Semantic Index |
| Fabric IQ | 業務データの意味を読む | OneLake、Power BI semantic model、Ontology、Graph、Data Agent | Microsoft Fabric / Power BI / OneLake |
| Foundry IQ | エージェント用の知識を構成する | SharePoint、Azure、OneLake、Web、ナレッジベース | Azure AI Search / RAG / Foundry Agent Service |
| Web IQ | 外部 Web の今を読む | Web、ニュース、画像、動画 | Bing / Grounding with Bing / Web検索 |
Work IQ は「社内の仕事の文脈」を拾ってくる
Work IQ は、Microsoft 365 を中心に、組織の中で人がどう働いているかをエージェントに渡すための層である。
公式には、Work IQ は Microsoft 365 Copilot やエージェントを、組織全体のリアルタイムな共有コンテキストに接地するインテリジェンス層と説明されている。Microsoft 365 エコシステムや業務システムのシグナルをつなぎ、パーソナライズされた検索、高度な推論、より深いセマンティック理解を可能にする、という位置づけである。(Microsoft Learn)
対象になるのは、たとえば次のような情報だ。
- メール
- Teams チャット
- 会議
- ドキュメント
- SharePoint / OneDrive
- 人と組織
- ワークフロー
- 業務アプリとの接続
ここで重要なのは、Work IQ は単なる全文検索ではないということだ。
「このファイルに何が書いてあるか」だけではなく、
- この案件に関係している人は誰か
- 前回の会議で何が決まったか
- この話題はどのチャットから始まったのか
- この人は何に詳しいのか
- このタスクはどの文書や会議と関係しているのか
といった、仕事の流れや関係性を扱う。
私の言い方だと、
Work IQ は、社内の空気を読むための IQ。
である。
ただし、「空気を読む」と言っても、勝手に何でも見えるわけではない。
Microsoft 365 の権限、秘密度ラベル、組織のポリシーを前提に、ユーザーがアクセスできる範囲の文脈を扱う。
つまり Work IQ は、ユーザーが自分で一からデータベースを作るものというより、Microsoft 365 にすでに蓄積されている仕事のシグナルを、エージェントが使いやすい形で引き出すための層だと考えるとよい。
Web IQ は「外部世界の今」を拾ってくる
Web IQ は、外部 Web の情報を AI エージェントに渡すための層である。
Microsoft IQ の説明では、Web IQ は Web 全体から新鮮な実世界のインテリジェンスを AI システムやエージェントに提供するものとされている。(Microsoft Learn)
Work IQ が社内の文脈を読むものだとすれば、Web IQ は社外の文脈を読むものだ。
対象になるのは、たとえば次のような情報である。
- Web ページ
- ニュース
- 画像
- 動画
- 外部の最新情報
これも単なる検索結果一覧ではない。
人間が検索エンジンのリンク一覧を見てクリックするのではなく、エージェントが外部情報を使って判断するためのグラウンディング層である。
たとえば、
- 最新ニュースを踏まえて回答する
- 製品やサービスの最新情報を確認する
- 技術トレンドを調べる
- 競合情報を補足する
- 法律、価格、仕様変更など、変化する情報を確認する
といった用途に使われる。
私の言い方だと、
Web IQ は、エージェントにとっての外界センサー。
である。
Work IQ と Web IQ は似ている。
どちらも、ユーザーがゼロから関係性を定義するというより、すでに存在している情報世界から文脈を拾ってくる。
違いは、見ている世界である。
| IQ | 見ている世界 |
|---|---|
| Work IQ | 社内の仕事の世界 |
| Web IQ | 社外の Web の世界 |
Fabric IQ は「業務データの意味」を定義する
Fabric IQ は、かなり性格が違う。
Work IQ や Web IQ が「拾ってくる」側だとすると、Fabric IQ は「意味を設計する」側である。
公式ドキュメントでは、Fabric IQ は Microsoft IQ の一部であり、Work IQ、Foundry IQ、Web IQ と並んで、組織の完全なビューを提供するためのコンテキストを提供すると説明されている。(Microsoft Learn)
さらに Microsoft IQ の説明では、Fabric IQ はビジネスのライブ状態を提供し、エージェントがビジネスエンティティ、その関係、プロパティ、アクション、ルールを理解できるようにするものとされている。(Microsoft Learn)
ここが重要である。
Fabric IQ の中心は、単にデータを持つことではない。
データの意味を、会社の言葉で定義することにある。
たとえば、業務データには次のようなものがある。
- Customer
- Order
- Product
- Contract
- Invoice
- Shipment
- Sales
- Revenue
- Region
- Department
- KPI
従来のデータベースでは、これらはテーブルや列として存在していた。
しかしエージェントにとっては、テーブル名やカラム名だけでは不十分である。
エージェントには、
- 顧客とは何か
- 売上とは何か
- 注文と請求の関係は何か
- 在庫と出荷の関係は何か
- 解約リスクはどのデータから判断するのか
- KPI の定義は何か
- この数値はどの業務ルールに基づいているのか
を理解させる必要がある。
この「会社の言葉」を定義するのが Fabric IQ である。
Fabric IQ の Ontology では、チーム、エージェント、ワークフローで共有される、スケールし、セキュアで、ガバナンスされたビジネスモデルを提供するものと説明されている。これは Fabric エージェントや Real-Time Intelligence から利用され、一貫した推論やアクションのための共有コンテキスト層になる。(Microsoft Learn)
つまり Fabric IQ は、業務オントロジーに近い。
私の言い方だと、
Fabric IQ は、会社の業務構造を読むための IQ。
である。
これは、かなり人間側の設計が効いてくる領域だと思う。
どのエンティティを定義するか。
何と何を関係づけるか。
どのプロパティを持たせるか。
どのルールを業務ルールとして扱うか。
どの KPI を公式な定義とするか。
このあたりは、AI が勝手にやってよい部分ではない。
企業ごとの業務理解、データモデリング、ガバナンスが必要になる。
Foundry IQ は「エージェントが参照する知識の入口」を設計する
Foundry IQ は、Fabric IQ と似て見えるが、役割が違う。
Foundry IQ は、業務データの関係性を定義するものというより、エージェントが参照するナレッジベースを構成するためのものだと理解している。
公式ドキュメントでは、Foundry IQ はエンタープライズデータのマネージドナレッジレイヤーであり、Azure、SharePoint、OneLake、Web にまたがる構造化データと非構造化データを接続し、エージェントが権限に対応した知識へアクセスできるようにするものと説明されている。(Microsoft Learn)
日本語ドキュメントでも、Foundry IQ を使うことで、組織のデータに基づいたアクセス許可対応の応答をエージェントに提供する、構成可能なマルチソースナレッジベースを作成できると説明されている。(Microsoft Learn)
ここで人間が設計するのは、たとえば次のようなものだ。
- このエージェントにどの SharePoint サイトを読ませるか
- どの Azure Blob コンテナを知識ソースにするか
- OneLake のどのデータを参照させるか
- Web 情報を使わせるか
- どのナレッジベースを複数エージェントで共有するか
- 権限やアクセス制御をどう扱うか
- どの検索・取得方法を使わせるか
これは、RAG の進化形として見るとわかりやすい。
従来の RAG では、開発者が自分で次のようなことを考えていた。
- ドキュメントをどこから取るか
- どうチャンク化するか
- どうベクター化するか
- どの検索エンジンに入れるか
- キーワード検索とベクター検索をどう組み合わせるか
- 取得結果をどうプロンプトに渡すか
- 権限をどう守るか
Foundry IQ は、このあたりをエージェント向けのマネージドなナレッジレイヤーとしてまとめていく方向だと見ている。
私の言い方だと、
Foundry IQ は、エージェントのための図書館司書。
である。
Fabric IQ が「業務概念や関係性を定義するもの」だとすれば、Foundry IQ は「エージェントがどの本棚を見に行くかを設計するもの」である。
Fabric IQ と Foundry IQ の違い
この2つは混同しやすい。
どちらも「人が設計する側」に見える。
しかし、設計対象が違う。
| 観点 | Fabric IQ | Foundry IQ |
|---|---|---|
| 主な目的 | 業務データの意味を定義する | エージェント用の知識ソースを構成する |
| 対象 | ビジネスエンティティ、関係、プロパティ、ルール、KPI | SharePoint、Blob、OneLake、Web、文書、ナレッジベース |
| 近い概念 | オントロジー、セマンティックモデル、業務グラフ | RAG、検索、ナレッジベース、エージェント検索 |
| 人間がやること | 業務概念と関係性を設計する | 何を読ませるか、どこから取るかを設計する |
| たとえるなら | 業務の地図 | 図書館司書 |
たとえば、次のような違いである。
Fabric IQ 的な問い
- 顧客とは何か
- 案件とは何か
- 売上とは何か
- 請求と入金の関係は何か
- 在庫と出荷の関係は何か
- この KPI の公式定義は何か
- この業務ルールはどのプロセスに適用されるか
Foundry IQ 的な問い
- このエージェントにどの文書を読ませるか
- どの SharePoint サイトを検索対象にするか
- どの Blob コンテナをナレッジソースにするか
- どのナレッジベースを再利用するか
- 権限をどう反映するか
- 回答に引用を付けるにはどうするか
つまり、
Fabric IQ は「業務データをどう意味づけるか」。
Foundry IQ は「エージェントがどの知識をどう取りに行くか」。
である。
Work IQ と Web IQ の違い
Work IQ と Web IQ も似ている。
どちらも、ユーザーが一つ一つ関係性を定義するというより、既存の情報世界から文脈を拾ってくる。
ただし、対象が違う。
| 観点 | Work IQ | Web IQ |
|---|---|---|
| 対象 | 社内の仕事 | 社外の Web |
| 情報源 | Microsoft 365、Teams、Outlook、SharePoint、人、会議、チャット | Web、ニュース、画像、動画 |
| 強み | 組織内の文脈、会議、チャット、人、ドキュメント | 最新の外部情報、ニュース、公開情報 |
| 権限 | M365 の権限や秘密度ラベルが重要 | Web 情報の出典や鮮度が重要 |
| たとえるなら | 社内の空気 | 外界センサー |
Work IQ は、社内の「これまでの流れ」を知る。
Web IQ は、社外の「今どうなっているか」を知る。
たとえば、ある製品企画についてエージェントに相談するとする。
Work IQ は、
- 社内で誰がその製品に関わっているか
- 過去の会議で何が決まったか
- Teams でどんな議論があったか
- 関連ドキュメントはどれか
を見に行く。
Web IQ は、
- 市場では何が話題になっているか
- 競合製品はどうなっているか
- 最新ニュースはあるか
- 公開情報として何が出ているか
を見に行く。
この2つが組み合わさると、エージェントは社内事情と外部環境の両方を踏まえて回答できる。
私の理解:Microsoft IQ はエージェントのための文脈基盤
これまでの RAG は、ざっくり言えば、
社内文書を検索して、LLM に渡す
というものだった。
しかし、エージェント時代にはそれだけでは足りない。
エージェントが実際の業務で動くには、次のような文脈が必要になる。
- 社内で何が起きているか
- 誰が何を知っているか
- どの会議で何が決まったか
- 業務データの意味は何か
- KPI の定義は何か
- どの文書を根拠にすべきか
- 外部の最新状況はどうなっているか
- ユーザーはその情報を見る権限があるか
これらを全部、毎回アプリ側で個別実装するのは大変である。
Microsoft IQ は、この問題に対して、Microsoft が持っている既存資産をエージェント時代向けに再配置したものだと私は見ている。
| IQ | 元になっている流れ |
|---|---|
| Work IQ | Microsoft 365 Copilot、Microsoft Graph、Semantic Index |
| Fabric IQ | Microsoft Fabric、OneLake、Power BI semantic model、Ontology |
| Foundry IQ | Azure AI Search、RAG、Foundry Agent Service、Knowledge base |
| Web IQ | Bing、Grounding with Bing、Web検索 |
つまり Microsoft IQ は、新しい単独サービスというより、
Microsoft 365、Fabric、Foundry、Bing/Web を、エージェントの文脈基盤として再編成したもの
と見るとわかりやすい。
まとめ
私は Microsoft IQ を、次のように理解している。
| IQ | 私の理解 |
|---|---|
| Work IQ | 社内の仕事の文脈を拾ってくる |
| Web IQ | 社外の最新情報を拾ってくる |
| Fabric IQ | 業務データの意味と関係性を定義する |
| Foundry IQ | エージェントが参照する知識ソースを構成する |
もう少し短く言うと、
Work IQ / Web IQ は「拾ってくるIQ」。
Fabric IQ / Foundry IQ は「使わせ方を設計するIQ」。
ただし、
Fabric IQ は、業務データの意味を設計する。
Foundry IQ は、エージェントが参照する知識の入口を設計する。
この違いが大事である。
Microsoft IQ は、単なる検索や RAG の言い換えではない。
エージェントが業務の中で動くために必要な、仕事、データ、知識、外部情報の文脈を統合するための考え方である。
私は、Build 2026 の Microsoft IQ は、Microsoft がこれからのエンタープライズ AI をどう作ろうとしているかをかなりよく表していると思う。
LLM 単体の性能競争から、
エージェントにどれだけ正しい文脈を渡せるか
に勝負が移ってきている。
そのための土台が Microsoft IQ であり、
Work IQ、Fabric IQ、Foundry IQ、Web IQ は、その文脈をそれぞれ別の方向から支える部品だと考えている。