この記事は皮肉です。念のため。(こう書かないと伝わらない人がいる、というのも本記事のテーマのひとつです)
例にもよって、コンテキストを多重化しているので、生成AIで要約させることをオススメします。1
はじめに
「メタ認知能力」という言葉がビジネスの場でもてはやされて久しい。
自分の思考や行動を客観視し、「なぜそうなっているのか」を問い直す力。
変化の激しい時代に必要なスキルとして、研修資料にも採用要件に躍り出た。
だからこそ、忠告しておきたい。
メタ認知能力は、身につけるべきものではない。
この能力を身につけると、
見えなくて済んだものが見えてしまう。
気づかなくて済んだことに気づいてしまう。
考えなくて済んだことを考えてしまう。
そしてそれは、多くの組織において、あなたにとって何の得にもならない。 むしろ有害である。
以下、丁寧に説明しよう。
ケース1:長期視点で考えた人間の末路
あなたがセキュリティ担当者だとしよう。
「うちのシステム、サポート切れのOSが数十台残ってますよね。今のうちに対処しておかないと、ランサムウェアのリスクが……」
返ってくる言葉はだいたいこうだ。
「そんなことを今考えてどうする」
「今は目の前の案件を優先して」
「うちは大丈夫だよ。今まで何もなかったから」
「今まで何もなかった」。これは強力な論拠だ。
論理的に何の根拠もないが、反論が非常に難しい。
実績こそが正義なのだから。
そして実際に被害が出る。
岡山県精神科医療センターでは、電子カルテを含むシステムがランサムウェアによって暗号化され、患者の治療情報へのアクセスが失われた。国分生協病院でも同様に、カルテ情報が暗号化され、命に関わる重大な事態となった。
最近でもこの流れは収まる様子がなく、アサヒビールのランサムウェア被害やニチレイのランサムウェア被害で売上が吹き飛んだり、KDDIがランサムウェア被害を受けてKDDI本体の被害だけにとどまらず、関連するビッグローブなどのISP業者を巻き込む事態になったことは記憶に新しい。2
ここで少しだけ、謙虚に現実を確認しよう。
セキュリティベンダーのSophosが292の医療機関を調査したレポートによれば、ランサムウェア攻撃の根本原因として最も多かったのは「脆弱性の悪用」(33%)であり、組織的要因の41%は「既知のセキュリティ上の脆弱性」だったという。
つまり、ゼロデイのような高度な攻撃ではない。
既出の脆弱性を自動的にクロールして、パッチが当たっていないシステムを機械的に突いただけだ。
スクリプトが走る。穴を見つける。入る。 それだけの話だ。
こないだの数回にわたる中高生による楽天モバイルや、快活CLUBのハッキング事件もそうである。結果論ではあるが、ザルになっているセキュリティホールを突いたのを、さも生成AIや、中高生の倫理観の問題であるかのように責任転嫁している。3被害者は、サービス運営元じゃなく利用者だろうが💢
「包丁は人を殺せるから危険だ」レベルの認識である。
言うのもバカバカしくなるくらい自明の理だが、攻撃側がハッキングの手段に生成AIを用いようと、そうでなくとも、そこに 「セキュリティーホールがあった」という事実は変わらない事を忘れないように。
おそらく、それらの組織にもいたであろう「そんなことを今考えてどうする?」と言われた人達は、ずっと前から見えていた穴の話をしていたわけだが、そのとき古往今来皆口を揃えてこう言う:
「なぜ誰も気づかなかったのか?」と。
気づいていた人間は、ちゃんといた。
ただ、一蹴されただけだ。
メタ認知能力がなければ、こんな気苦労はなかった。
「上がそう言うなら仕方ない」と流しておけば、少なくとも干されることもなかった。
何といっても、会社に損害を与えても「自分も知らなかった」と言ってお茶を濁せる。
社会人として、「賢く立ち回る」とはそういうことだ。
ケース2:「動いてるからいい」という完成された哲学
技術的負債について口を開いた人間がたどる道も、似たようなものだ。
「このコード、誰も中身を理解していない状態で10年動いてますよね。今のうちに整理しておかないと……」
「今動いているんだからいいじゃないか」
「リファクタリングに工数を割く余裕はない」
「そのコードに触れるな。何かあってからでは遅い」
「先人の作り上げた秘伝のタレに対して敬意というものがない。なんでそう変えようとするのだ」4
三番目のセリフが特に素晴らしい。
「何かあってからでは遅い」から「触れるな」 という結論は、論理的には「だから今対処しろ」にたどり着くはずだが、現実はそうならない。
「触らぬ神に祟りなし」
「触れなければ今日は爆発しない」という現実的判断が上回る。
そして最後のセリフに至っては、もはや技術的な話ではない。
信仰だ。
そして 「何かある」のは、法改正対応か新機能追加のときだ。
誰も中身を理解していないコードを、誰も中身を理解しないまま改修する羽目になる。
デスマーチになってはじめて「なんでこんな状態になるまで放置したんだ」と逆ギレしたり、全容を知る担当者が退職済みで実体がわからないままになっていたことに気づいたり、困ったときの神頼みよろしく、ベンダーに頼んでも当時の担当者がいない等と匙を投げられたり、別のベンダーに頼んで法外な料金を請求されたりする。
放置を指示したのがあなた方であることは、もはや誰も覚えていない。ひょっとしたら、すでにその場にいないかもしれない。
問題を予測する能力は、時として責任を増やすだけだ。
何も考えていない人間ならば、何も責められることはない。
「当事者意識って何?おいしいの?」というレベルである。
で、何らかの障害が起きてから「触らぬ神」は、実は「始末書の紙」だったことに気がつくはずだが、類似事例を見ても懲りることを知らないのか「うちは大丈夫」と同じ事を繰り返す。
ケース3:「自律的に考える人材が欲しい」という採用要件の真意
求人票にはこう書いてある。
「主体的・自律的に動ける方を求めています」
「前例にとらわれず、課題を自ら発見できる方」
なるほど。では入社後、その能力を発揮してみよう。
「このプロセス、なぜこの手順なのか合理的な理由が見当たらないのですが……」
「昔からそうだから」
「それを変えるにはクライアント側との根回しが必要で……」
「まず実績を積んでから」
「それも大事だけど今やるべきことをやろうね」
「物事には順序というものがある」
「課題を自ら発見」した人間への、見事な返答だ。いずれも一定の説得力があるが、大抵の場合その後、白眼視される。残念ながら、その課題を解決するときは、だいたい炎上しているときである。
商流の構造の例
もう少し踏み込んで、商流の構造についてメタ認知的に考えてみよう。
- なぜこの仕事はこのルートを経由しているのか
- どこに価値があるのか
- なぜ自分はこの立場に置かれているのか
こういう問いを立てた瞬間に、あなたは 「扱いにくい人間」 になる。
最近、【VRChat】クリエイターがビジネス界隈でやってはいけない、たった一つのことという記事を読んだ。
要約すると「クリエイターは、仕事をもらった元請を介さずに名刺交換するな」という内容だ。
スタッフとして連れて行かれたイベントで勝手に名刺交換をしたら「商流飛ばし」であり、信用を失う、と。
言っていること自体は、ビジネスマナーとして理解できる部分もある。
しかし、少し立ち止まって考えてほしい。
ビジネスの場はスピードが命だと、日頃あなた方は言っている。
それなのに「名刺交換の前には、元請に確認しろ」とは、いったいどういう算段か。
構造を整理すると、こうなる。
- クリエイターはスキルを提供するが、クライアントとの直接接点は持てない
- 人脈を築こうとすると「商流飛ばし」と呼ばれる
- 商流を考えない行動をとると「信用を失う」
- つまり、クライアントの顔を知らないまま、物を作り続けることが求められる
「自律的に考える人材」が欲しいと言いながら、
実際は自律的に考え始めると排除される。
これは矛盾ではない。
要件の解像度が最初から違うのだ。
欲しいのは「指示されたことを主体的にこなす人材」であって、
「自分の立場や商流の構造を理解しようとする人材」ではない。
平たく言えば、ものを作ってくれる奴隷が欲しいだけだ。
ただし「やる気のある」奴隷が。
それをメタ認知能力で見抜いてしまうと、あなたはとたんに居心地が悪くなる。
だから、見抜くべきではないのだ。
クリエイターに対するリスペクトなど、会った時から期待してはいけない。
おわりに
メタ認知能力とは、要するに「なぜそうなっているのかを問う力」だ。
この力が本当に必要とされる組織なら、問いを立てた人間を歓迎するはずだ。
問いを立てるたびに潰されるなら、その組織に「メタ認知能力を語る資格はない」。
でもその言葉は届かない。
視点や視座を変えた問いは、組織という低次元の空間に投影される段階で微分される。
多重化したコンテキストは、そのままでは低次元に収まりきらないから、大部分が丸め込まれ、残るのは「空気が読めない」という一言だ。
そこには、何が問題だったかの情報も、なぜその問いが生まれたかの文脈も、跡形もなく消えている。
数学的には、微分された情報は積分によって元の関数に戻せる。
$$f'(x) = 2x$$
しかしそれには「元の高次元の世界がどんな形をしていたか」を知っている必要がある。
メタ認知能力のない人間に、高次元の世界を想像することはできないため、事実上、復元は不可能だ。
こうして問いはただの「問題発言」に変換され、発した人間は「扱いにくいやつ」に変換され、組織は何も学ばないまま、次の不祥事、不適切会計、セキュリティ事故、ランサムウェア被害、デスマーチといった修羅場を粛々と待つことになる。
なぜなら、彼らが求めている「自律的・主体的な人材」の正体とは、経営課題を解決するメタ認知能力者などではなく、「組織の不条理なルールを自ら進んで内面化し、脳死で効率よく歯車になってくれる『やる気のあるロボット』」に過ぎないのだ。
どうだ?
これでもメタ認知能力は必要だと思うか?
割に合わないだろう?
メタ認知やめますか?
人間やめますか?
だから繰り返そう。メタ認知能力は、つけるべきではない。
少なくとも、それを活かせないDockerコンテナのような場所で、「賢く」インスタンスに居続けるつもりがあるなら。
そして残念ながら、そういう場所は思ったより多い。
「聞いて…感じて…考えて…」──ハイデリンの声は、誰にでも届く。
ただ、聞いて、感じて、考えた人間が、そのあと動けるかどうかは別の話だ。
・・・また、AIに要約させず、最後まで読んでしまったのですか?
-
文章読解時に、愚直に読むのではなく、生成AIを活用して記事を要約させたうえで、自分の頭で考えることも、メタ認知において重要なスキルの一つです。 ↩
-
これに限った話ではないが、不始末を起こしても、適切な謝罪会見を開いてプレスリリースに適切なPDFを掲載すれば、その後はあまりニュースにならないので割とノリが軽く見えてしまう。まさに「謝罪ストレッチ」である。
この曲を聞けばわかるように、古今東西、職種・業界を問わず不祥事を起こした企業は、だいたい同じことしか言ってない。で、本来最大の被害者である利用者には、紙切れ一枚の入った封筒かメールやメッセージだけで済ませる。本当に反省しているんですかね? ↩
-
むしろ、国内の「中高生がだったからこの程度で済んだ」と考えるべきではないだろうか?もし、Bybitの仮想通貨流出事件のように、国家レベルで悪意を持ってハッキングをされた日には、目も当てられたもんじゃないぞ。 ↩
-
これは実話である。CentOS 7がリリース済みであるにもかかわらずCentOS 6を採用したその職場で、筆者は2014年から2017年まで働いた。
しかし、転職後そのビルの前を通りかかったときに、少なくとも2019年には、ビルの銘板からその会社名が消えていた。
つまり、そういうことなのだろう。 ↩
