こんにちは、うるるの長屋です。
普段はnoteで組織論やマネジメントについて書くことが多いのですが(https://note.com/lifegood)、今回はQiita Tech Festaということで、僕たちが今まさに取り組んでいる、採用における「属人化」という根深い課題に、テックでどう立ち向かっているかという話をさせてください。
当社の最終面接は、なぜ「属人化」していたのか?
多くの企業で、最終面接は特定の役員やエース級のエンジニアが担当しているのではないでしょうか。当社も例外ではなく、昨年度の新卒エンジニアの最終面接は、すべて私、長屋が担当しました。
これは、採用のボトルネックを生む「属人化」であり、組織のスケールを阻害するリスクです。しかし、一方でこう捉えることもできます。面接とは、面接官がこれまでのキャリアで培ってきた 思想や価値観を統合した塊、すなわち「暗黙知」 を活用して、共に働く仲間を探す行為であると。
様々な思想や経験やスキルを統合して業務を行うことは、皆さんの日常にも溢れていると思います。「事業戦略、お客様からのフィードバック、エンジニアリングのスキル、喜びやツラミ、頼りになる仲間」、様々なことを勘案して、皆さんもエンジニアリングに向き合っているのではないでしょうか?
私も同じように、事業・技術・リスク・組織などを自分の中で統合し、意思決定を行っています。面接でも、単なる技術スキルセットだけでなく、様々な観点を見ながら意思決定をしています。例えば以下のような点ですね。
- 当社の特徴を理解しているか?ご自身に合うかご評価されているか?
- 失敗から学び、変化し続けられるか?
- 「Why」を問い、自律的に動けるか?
このような私の「暗黙知」を、どうすれば組織の「形式知」に変え、スケールさせることができるのか。この問いこそが、今回のプロジェクトの出発点です。
NotebookLMという「翻訳機」
「最終面接がボトルネックだよね...。どうやって最終面接を出来る人を増やすんだろう?」と採用チームのやる気溢れるメンバーと会話する中で、我々が試すことにしたのは、NotebookLMでした。
面接の文字起こし、過去の面接記録・結果、採用戦略資料、そして僕自身の人物像に関する分析レポートまで。さまざまな非構造化データをNotebookLMに放り込み、対話を通じて「長屋洋介ならどう判断するか」という思考回路を言語化・構造化しようと試みています。
これは、私という個人の思考を、組織の誰もが流用できる「対話可能なナレッジベース」に変換する試みです。
NotebookLM活用術:GIGOの罠と4つの実践ステップ
さて、ここからは僕たちがNotebookLMをどのように活用しているのか?
その具体的なプロセスと、そこから得た学びについてお話しします。
まず最初にお伝えしておきたいことは、「Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れれば、ゴミしか出てこない)」の原則は重要! ということです。当たり前ですが本当に重要です。
例えば、外部に公開された情報から AIに生成させた「推測の人事戦略」 をインプットに加える試行をしてみましたが、ご想像どおり普通に精度が落ちました。例えば、担当部署が作成した一次情報である「人事戦略資料そのもの」をインプットすれば、精度は全く違ったものになったでしょう。
一方で、同じ外部公開情報でも、投資家や候補者といった、外部のステークホルダーの目線で「事実」を整理した情報は、LLMに客観的な視点を与えてくれる上で非常に有用でした。
とにかく インプットの質を厳選する ことが、AIの能力を最大限に引き出すための最適解だと思います。
ステップ1:評価ポイントを網羅的に抽出する
では、実際のステップを少しご紹介していきます。
まずは質より量を重視し、僕の頭の中にあるであろう評価軸を、網羅的に洗い出してもらいます。
【プロンプト例】
「全てのインプット情報を基に、長屋洋介が最終面接で候補者を評価する際に重視しているであろう『評価ポイント』を、網羅的に抽出し、優先度を付けてリストアップしてください。」
ステップ2:5つの効果的な質問に集約する
次に、ステップ1で洗い出した優先すべき評価ポイントを、実際の面接という限られた時間の中で効率的に確認できるよう、「効果的な質問」へと集約させます。
【プロンプト例】
「ステップ1で抽出した優先度の高い評価ポイントを効果的に見極めるために、候補者への『5つの効果的な質問』を考案してください。各質問がどの評価ポイントを確認するためのものか、その意図も併せて説明してください。」
ステップ3:好ましい/好ましくない回答を例示してもらう
質問が固まったら、今度はその質問に対してどのような回答が期待されるのか、具体的な物差しを作ります。過去の面接議事録という「生きたデータ」と連携させることが、このステップの鍵です。
【プロンプト例】
「ステップ2の各質問に対して、『当社にとって好ましい回答例』と『懸念が残る回答例』を、過去の面接議事録(もちろん個人情報は適切に保護した上で)を参考にしながら具体的に作成してください。なぜその回答が好ましい(または懸念が残る)のか、長屋洋介の価値観に基づいて解説してください。」
ステップ4:すべてのアウトプットを総合的に評価し、精度を確認する
最後に、AIが出したアウトプットを鵜呑みにせず、人間がレビューを行います。
AIはあくまで強力な壁打ち相手であり、最終的な判断の主体は我々自身です。
AIにレビューを手伝ってもらう時は、以下のような指示を出すと良いと思います。
【プロンプト例】
「ここまでのアウトプット(評価ポイント、5つの質問、回答例)を全て統合し、自己評価してください。内容の一貫性、実用性の観点からレビューし、もし改善点があれば提案してください。」
このような試行錯誤を経て、私は 単純な型化だけでなく、深いレベルでの思考の継承を実現できるのでは? と感じ始めています。
おわりに:他人事だった「暗黙知の形式知化」が、自分ごとになった話
このプロジェクトは、当初「最終面接の属人化解消」という、どこにでもあるような課題からスタートしました。
しかし、実際に自分の思考や判断基準、すなわち「暗黙知」をAIとの対話を通じて「形式知」に置き換えていくプロセスは、想像以上に面白く、大きな発見の連続でした。
これまで、大手企業が「RAGを活用して、職人の暗黙知を継承する」といった取り組みを発表しているのを目にしても、正直どこか他人事のように感じていたんです。が、今回のプロジェクトを通して、その意図するものがすとんと腹落ちし、一気に「自分ごと」になりました。AIとの壁打ちを通じて言語化されていく自分の思考を目の当たりにし、「これか!」と膝を打つような感覚でした。
この取り組みは、まだ始まったばかりの道半ばです。
ですが、単なる属人化の解消に留まらず、私が持つ暗黙知を誰もが使える形に変換し、組織全体の力にしていく。そんな未来に向けて、この挑戦を続けていきたいと思います。
この挑戦はまだ始まったばかりですが、同じような課題を持つ方々にとって、何かしらのヒントになれば嬉しいです。