生成AIを使うと、研究アイデアから模式図やグラフィカルアブストラクトの初稿を短時間で作れます。一方で、見た目が整っていても、ラベル、矢印、構造、縮尺などが科学的に正しいとは限りません。
この記事では、生成AIを科学図の「完成品を自動で作る装置」ではなく、検証可能な初稿を作る道具として使うための実践的なチェックポイントをまとめます。
※ 本記事で画面例として紹介する Scientific Figure Generator は筆者が開発に関わっているサービスです。内容は特定製品の紹介ではなく、他の画像生成ツールでも再利用できる作業手順を中心にしています。
1. 最初に図の用途を固定する
同じ研究内容でも、論文本文、グラフィカルアブストラクト、学会ポスター、講義資料では適切な情報量が異なります。生成前に次の条件を決めておくと、不要な装飾や読みにくい文字を減らせます。
- 掲載先:論文、ポスター、発表スライドなど
- 最終サイズ:1カラム、2カラム、16:9など
- 読み順:左から右、上から下、中央から周辺など
- 必須要素:構造、試料、装置、処理、結果など
- 除外要素:推測的な機構、未測定の数値、不要な背景
2. プロンプトを「短い仕様書」にする
「細胞のきれいな図」のような曖昧な指示では、モデルが不足情報を自由に補ってしまいます。プロンプトは、主題、必須要素、関係、レイアウト、表現、除外条件に分けると確認しやすくなります。
Subject: lipid nanoparticle delivery
Required elements: LNP, endosome, mRNA, ribosome, protein
Relationships: uptake -> endosomal escape -> translation
Layout: left-to-right, three panels
Style: clean scientific line art, white background
Labels: use only the specified English labels
Exclude: decorative molecules, numerical values, unsupported pathways
特に Exclude を書くことが重要です。存在しない分子、余分な矢印、根拠のない数値を描かせないための制約になります。
3. 実測データと説明図を分ける
生成AIが得意なのは、概念、機構、ワークフロー、装置構成などの説明図です。実測グラフ、統計結果、顕微鏡像、スペクトルなどは、元データから R、Python、Prism などで作成すべきです。
AIで生成した曲線や数値を実測結果のように見せると、読者がデータとイラストを区別できません。説明図には必要に応じて schematic、conceptual illustration などの表記を入れます。
4. ラベルと矢印を一つずつ検証する
完成画像を全体として眺めるだけでは不十分です。次の順番で要素を分解して確認します。
- ラベルの綴りと専門用語
- 矢印の始点、終点、向き
- 分子・器官・装置の位置関係
- 正負、活性化・阻害、流入・流出の区別
- 凡例と図中表現の対応
- 数値、単位、縮尺の出典
モデルに文字の修正を繰り返させるより、構図を確定した後にベクター編集ソフトやスライドツールでラベルを入れ直す方が安全な場合もあります。
5. 最終掲載サイズで可読性を確認する
大きな編集画面では読めても、論文の1カラム幅に縮小すると文字や矢印が消えることがあります。画像を最終サイズに縮小し、本文と同じ表示環境で次を確認します。
- 最小文字が無理なく読めるか
- 線幅と矢印が潰れていないか
- 重要要素と補助要素に視覚的な差があるか
- グレースケールでも区別できるか
6. 色だけに意味を持たせない
赤と緑だけで状態を区別すると、色覚特性や印刷条件によって情報が失われます。色に加えて、形、線種、ラベル、模様を組み合わせます。色数を絞ると、重要な経路や比較対象も見つけやすくなります。
7. 投稿先のAI画像ポリシーを確認する
生成AIの使用可否や開示方法は、出版社、学会、雑誌によって異なり、更新されることもあります。投稿直前に対象誌の最新規定を確認し、必要であれば使用ツール、生成・編集の範囲、人による検証方法をキャプションや謝辞に記載します。
実際の作業フロー
私は次の順序で作業すると、生成と検証を混同しにくいと考えています。
- 論文や実験ノートから、図で伝える一文を決める
- 必須要素と関係を箇条書きにする
- Line Art、Flat Illustration、3D Render など用途に合う表現を選ぶ
- AIで構図の初稿を作る
- 原典と照合してラベル、矢印、構造を確認する
- 必要な文字や数値を編集ツールで整える
- 最終サイズと投稿規定で再確認する
構図の初稿を試すための一例として、scientific figure generator では、文章による指示から Line Art、Flat Illustration、3D Render の科学図を作成できます。以下は公開ページの画面例です。
どのツールを使う場合でも、出力画像をそのまま研究成果として扱わず、研究者自身が原典・実測データ・投稿規定と照合する工程が必要です。
公開前チェックリスト
- 図の目的を一文で説明できる
- 必須要素と除外要素を指定した
- 全ラベル、矢印、構造を原典と照合した
- AIが生成した数値や実測風グラフを使っていない
- 最終掲載サイズで文字と線を確認した
- 色以外でも情報を区別できる
- 投稿先の最新AI画像ポリシーを確認した
まとめ
生成AIは、科学図の構図を探索し、初稿を作る時間を短縮できます。ただし、科学的正確性を保証するのはモデルではなく、研究者による検証です。仕様化して生成し、要素ごとに検証し、投稿環境で仕上げるという順序を守ることで、速さと信頼性を両立しやすくなります。
