malloc/calloc後にfreeしない設計のメリットと考え方
一般に C/C++ では、
malloc/callocで確保したメモリは必ず free すべきである
という原則が推奨されていると思います。
しかしソフトウェア設計の世界には、
malloc/calloc を使うが free は一切呼ばない
というメモリ管理のイデオロギーを“意図的に”採用する状況が存在します。
これは決して手抜きではなく、
特定の条件下や状況下においてはシンプルかつ安全な戦略で、有効になりえます。
ここでは、この設計が成立する条件と理論的な背景について紹介できたらと思います。
1. free をしないメリット:メモリ管理バグを丸ごと消せる
free を呼ばない設計の最大の利点は、
以下のようなコーディング時にありがちな典型的なバグが 原理的に存在しなくなる ことです。
- 二重 free
- use-after-free(解放済みメモリ利用)
- free のし忘れ
- 所有権管理の問題
つまり、解放という概念そのものを設計から排除することで
問題のクラスをプログラム上から存在を根絶できると考えることができます。
その結果、
- コードがシンプルになる
- 読みやすく保守性が上がる
- メモリ管理関連のデバッグコストが激減する
といった実利が得られらと考えられます。
2. free を不要にする条件:プログラムが小規模である
free をしない戦略は、以下のように プロセスの寿命が短い場合 に成立します。
- プログラムは開始される
- 一連の処理を行ってすぐ終了する
- 終了とともに OS がすべてのメモリを回収する
このようなライフサイクルの短いプロセスであれば、
プログラムの寿命より長く生きるデータが存在しない
という状況であることがわかります。
つまり、メモリ解放は OS に任せればよく、擬似的にGCが動くかのように捉えることで、free を呼ばなくてもメモリリークの実害は発生しません。
3. “累積しない”状況ではリークは問題にならない
free をしないとメモリが増え続けるように見えますが、
次の性質があれば安全です。
- プログラムは単発で実行される
- 次の実行は新しいプロセスとして開始される
- 各実行のメモリはプロセス終了とともに OS が破棄する
この条件では、
リークしても永続的に蓄積しない
ため、害はありません。
実際に問題として考慮しなければならないのは 実行中のピークメモリ量だけ です。
4. ピークメモリが十分小さければ妥当な設計選択
free をしない設計がよく使われるケースでは、
必要なメモリ量は多くても数十〜百数十 MiB 程度に収まることが多いです。
現代のプロセッサ環境ではこの程度のメモリ消費は許容範囲であり、
- free のための複雑なロジックを書くコスト
- 機械的にfreeを記述する面倒さ
- 解放バグの危険性
を考えると、解放しないほうがトレードオフ的にトータルで合理的という判断になります。
5. free しない設計が“適さない”ケース
逆に、以下の場合には絶対に使えません。
- 24時間動き続けるサーバーや常駐プロセス
- 外部からの継続的なリクエストを処理するサービス
- メモリ消費が時間とともに無制限に増える可能性がある
- ライフサイクルの異なるオブジェクトが混在する
こういった場面では従来通りfree をしないと
実行中にメモリが積み上がり続けて破綻します。
最後に free をしないのは “lazy” ではなく“戦略”
free を呼ばないメモリ管理は、次のような条件下で有効です。
- プログラムが短命
- ピークメモリ使用量が予測可能で小さい
- 解放コードの煩雑さがデメリットになる
- メモリ管理バグを根絶したい
このような場合、あえて free をしない設計は
開発効率、安全性、保守性を高める合理的なメモリ管理戦略
となります。