こんにちは|こんばんは。カエルのアイコンで活動しております @kyamaz
です.1本稿は,2025年Qiitaアドベントカレンダーの量子コンピューターのカレンダー向けのエントリです.
はじめに
量子コンピューターは,2016年IBMが5量子ビットのNISQコンピューターをクラウドで提供して以降,凄まじい勢いで進歩しています.2030年には,early-FTQC での実用的な量子計算の探索も盛んに行われている状況です.日本政府(内閣府)が提示している「未来社会ビジョンに向けた2030年に目指すべき状況」の3つの指針のうちの1つには「国内の量子技術の利用者を1,000万人に」という目標も掲げられております.今のGPSのように,知らないうちに量子技術を使っているという世界観はもう直ぐそこまで来ているという "煽り" もそろそろ許して頂ける機運になってきています.
さて,そのなかで「量子計算」という言葉は難しい印象を拭いきれません.そこで様々な取り組みがされています.大阪・関西万博での「エンタングルモーメント」という企画もありました.年明けには,毎年実施されている「量子芸術祭」などもあり,量子技術を量子っぽくないところで見かける機会も今後増えていくように思います.例えば,QuantAttack2のような量子の世界をゲームを使って体感するような取り組みもありますし,ゲーム性を備えて量子情報を訴求する取り組みは,今年のIPAの未踏ターゲットの採択PJにも多くみられます.3
本稿の対象は「量子コンピューターや量子プログラミングに興味がある方」を想定しております.量子計算の基礎的な量子ゲートによる計算の知識があることを前提としております.
前提知識のない方でも本稿で紹介するカードゲームは楽しめる想定ですが,より楽しむために知識をつけたい方は次の書籍がおすすめです.
本稿では, @kyamaz
が考案したカードゲームを紹介してみたいと思います.
量子計算七並べ
Qards.Queue4(”カーズ・キューフォー”と呼びます.略して「Q.Q4」)は,トランプゲームの七並べに似たゲームで,量子計算を表す特別なカードを七並べの要領でプレイヤーが順番に場に並べていくゲームです.通常の七並べに近いゲーム感になるように4列の横並びにカードを並べていきます.ゲーム名は「列」を表す英語の”Queue”と4列であることに由来しています.4列に量子カードを並べて遊ぶカードゲーム.それが『Qards.Queue4』です.
遊んでいただく人がほぼいないため,ゲームバランスがうまく調整できていません.今後,カード枚数や勝利条件を変更する可能性があります.
ゲームについて
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プレイヤー人数: 3〜6人(2人でも可)
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使用するカード: 特別なカード「量子計算用カード」:60枚
(うち2枚は配布しないカード.人数で割り切れない枚数のとき Iカード を配布しないで調整します.) -
ゲームの進め方:
- カードをシャッフルして各プレイヤーに同一の枚数になるように手札を配ります.
- オレンジ色の「初期状態カード」を場に並べてスタートです.1枚だけある $\lvert 1 \rangle$カードを出した人から、順に時計回りに場にカードを出していきます.4列の並べ方は,$\lvert 1 \rangle$カードを出した人がどの列に置いてもよい.
- 順番がきたら手札から場にカードを並べて,量子状態を操作していきます.各カードの特性は後述.
手札を出さずにパスをすることもできます.パスは3回まで.カードが出せる状況でもパスはできます.4回パスした時点でそのプレイヤーはゲームオーバーです.ゲームオーバーしたプレイヤーは,手札を全て開示して点数(手札によるマイナス)を数えます. - 「誰かの手持ちカードが全てなくなったとき」または「全員がパスしたとき」のいずれかでゲームは終了です.残りの手札と測定で得た得点を計算して,勝敗を判定します.
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得点の計算:
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加点:測定カード($\langle 0 \lvert, \langle 1 \lvert, \langle + \lvert, \langle - \lvert$の各カード)を出したときに,測定基底に従って確率振幅どおりに計算して得点とします.測定値は$0$または$1$になり,測定値が$0$のときは $+3$ 点,測定値が$1$のときは $+1$ 点とします.測定が確率的に決めなければならない場合は,手札に配っていない「$\lvert 0 \rangle$」「$\langle 1 \lvert$」のカードからどちらか1枚を引いて確率的に得点を決めます.測定はゲームを通して最大で$11$回行われます.
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減点:ゲーム終了時,手札のカード種類と枚数に応じて,得点が減点されます.
- 量子ゲートカード(I, X, Z, H):5枚ごとに-2点(切り上げ)
例: 残り1-5枚 = -2点,6-10枚 = -4点. - その他のカード(U, 制御カード, 測定カード, 初期状態カード):1枚につき-2点
例: 1枚 = -2点,3枚 = -6点.
- 量子ゲートカード(I, X, Z, H):5枚ごとに-2点(切り上げ)
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カード種類
「量子計算用カード」は次のカード種類があり,それぞれの枚数とカードのルールも説明します.
- 初期状態カード(5枚,手札用には4枚)
$\lvert 1 \rangle$カード:1枚
$\lvert 0 \rangle$カード:4枚(うち1枚は配布から除き確率測定時に使用)
【ルール】
・ゲームのスタート時,最初に場に出す
- 量子ビットカード(7枚)
$\lvert 1 \rangle$カード:1枚
$\lvert 0 \rangle$カード:2枚
$\lvert + \rangle$カード:2枚
$\lvert - \rangle$カード:2枚
【ルール】
・測定カードの後ろにのみ配置可能
(以降のカードは,測定カードの後ろには置けません)
- 量子ゲートカード(30枚)
I (恒等)カード:6枚
X (パウリX)カード:8枚
Z (パウリZ)カード:8枚
H (アダマール)カード:8枚
【ルール】
・場に出ているUカードに重ねて置き,Uカードの操作を確定できます.
・Hカードは,制御カードのターゲット位置には配置できません.
・この種のカードの枚数を減らして,ゲームの全体の枚数を調整してもよい.
- ユニタリカード(2枚)
Uカード:2枚
【ルール】
・このカードとともに他のカードを1枚場に出さなければなりません.プレイヤーの順番が逆順になります.(UNOでいうリバース"R"の効果)
・Uカードは量子ゲートが確定していないポジションとなり,そのあとのプレイヤーが上に重ねて量子ゲートカードを置く必要があります.
- 制御カード(4枚)
Cカード(カード面はT字に印字):4枚
【ルール】
・上下2列の真ん中に置きます.上下の列の位置が揃っているところにしか置けません.
・制御カードの縦棒の先にHカード以外の量子ゲートカードを置く必要があり,2量子ビットゲート操作をつくります.
・コントロール側とターゲット側の向きはプレイヤーが決めてよい.(上下の選択はどちらも可能)
- 測定カード(12枚,手札用には11枚)
$\langle 0 \lvert$カード:4枚
$\langle 1 \lvert$カード:4枚(うち1枚は配布から除き確率測定時に使用)
$\langle + \lvert$カード:2枚
$\langle - \lvert$カード:2枚
【ルール】
・上下2列の真ん中に置きます.上下の列の位置が揃っているところにしか置けません.
・測定までの計算途中にUカードや制御カードが確定していなくても測定カードを配置できます.ただし,ゲーム終了までには必ず測定が確定するためのカードが置かれる必要があります.確定していない箇所があるときには,手札を空にできません(つまり,あがれません).
補足
- 同じカードセットで5列のゲーム「Q.Q5」としても遊べます.そのときには確率的な測定時の値の確定をサイコロの偶奇やコインの裏表などで代用します.
おわりに
いかがでしょうか.おそらく実際のカードを作って遊んでみないとゲームの特性や面白さは伝わらないかもしれません.ぜひお手元で試してみてください.
はこのルールのもと,TypeScriptライブラリ『q5m.js』を活用したプログラムの作成も試みております.現時点では完成度が高くないためここでの紹介は控えますが,改めてお伝えできるように進めてまいります.
『量子計算七並べ』は2019年に
が考案したもので,徒然草|量子計算機編|その1〉にその原形を掲載しております.(多少ルールも変更しております.)当時は量子コンピューター自体の認知がそれほど一般的ではなかったのですが,冒頭に取り上げたとおり,2025年が国際量子技術年ということもあり,機運もよいタイミングですので,改めて記事にさせていただきました.
このようなゲームも含めて,量子計算を認知して頂ける機会を増やせるように
もOSSコミュニティ活動を活性化していきたいと考えております.よろしくお願いいたします.4
最後まで,ご一読いただきまして有り難うございました.
(●)(●) Happy Hacking!
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@kyamaz は、オープンソース・コミュニティ『OpenQL』プロジェクトを通じて、皆さんと共に量子情報・量子コンピューティングの分野で挑戦しております。引き続きどうぞ宜しくお願い致します。 ↩
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QuantAttackの解説はEMANさんの感想記事が参考になります.量子ゲームQuantAttackが面白い ↩
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IPAの2025年度未踏ターゲット事業の採択PJ一覧はこちら→https://www.ipa.go.jp/jinzai/mitou/target/2025/index.html ↩
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OpenQLプロジェクトは、量子コンピューターを扱うためのライブラリを開発するためのオープンソースプロジェクトです。量子情報、量子コンピューターに興味のある人たちが集うコミュニティを運営しております。詳しくはconnpassのサイトをご覧ください。 ↩