こんにちは|こんばんは。カエルのアイコンで活動しております @kyamaz
です。
はじめに
本稿は,初等幾何の定理についてです。(mathlog の方が適切な話題という意味で)mathlog 的ではありますが,意外と本稿の話題を扱っているエントリーが Qiita にも mathlog にも見つからなかっために寄稿してみます。
さて,タイトルにあるとおり『日本の定理』という定理があるのをご存知でしょうか。円に内接する多角形に関する次のような定理をいいます。
- 日本の定理
- 円に内接する任意の多角形において,その多角形の頂点を結ぶ交差のない対角線で適当に用いて三角形に分割したとき,そのすベての三角形の内接円の半径の総和は分割の仕方によらない.
また,この定理の逆も成立するそうです。
- 日本の定理の逆
- ある多角形が,その頂点を結ぶ交差のない対角線を適当に用いて三角形に分割したとき,そのすベての三角形の内接円の半径の総和が分割の仕方によらず等しい場合は,その多角形は円に内接する.
日本版Wikiでは『日本の定理』 に説明ページがありますし,英語版Wikiにも "Japanese theorem for cyclic polygons" の項で説明がされています。
この定理に「日本」の名前がついている由縁も面白いです。(詳細は脚注の資料を参照1)和算研究家であった三上義夫氏が1905年に "Chinese theorem on geometry" と題する論文により海外に初めて紹介したのがこの定理でした。しかし論文タイトルにあるように「中国の定理」という紹介であったはずなのですが,ほかのジャーナルで紹介されたこの定理を後に引用したところで「日本の定理」となった説がるそうです。更には,この定理を「中国の定理」として紹介されていたことを知っていた数学者 林鶴一 氏が別の初等幾何の定理を「日本の定理」として海外に伝えたこともあり,由来とそもそもの定理の内容について見解を複雑にしています。
ここでは,三上義夫氏を紹介した定理を『日本の定理』として紹介しています。
この定理の証明は,東京大学大学院数理科学研究科 大島利雄 名誉教授のレクチャ資料に詳しい。
この定理は,円に内接する多角形で,かつ,その多角形を分割するパターンによらず,任意の三角形に分割するようなケースを対象にしています。資料によると,円に内接する性質を使うと,四角形のケースである『丸山良寛の定理』が成り立つことを示せばよいことに帰着できるそうです。
丸山良寛の定理
- 丸山良寛の定理
- 円に内接する任意の四角形において,その四角形の対角線で重なりのある四つの三角形に分割する(二つある対角線ひとつごとに二つの三角形に分割する)とき,どちらの対角線で分割しても2つの三角形の内接円の半径の和は等しい.
下図でいうと,左側の黒線の2つの円の半径の和と,右側の赤線の2つの円の半径の和が等しいという定理です。
この定理の証明は,紹介した 大島利雄 氏の資料に詳しいですが,そのうち初等的な証明を写経してみましょう。
図の記号を次のとおり,
$$\begin{aligned}
& P_0 P_1 P_1 P_3 : 中心 O の円に内接する四角形 \\
& \bar{i} \in {0, 1, 2, 3} \; (i − \bar{i} \in 4\mathbb{Z}, \bar{i} \in \mathbb{Z}) \\
& P_i := P_{\bar{i}} \;(i \in \mathbb{Z})\\
& O_i : 三角形 P_i P_{i+1} P_{i−1} の内接円の中心 \\
& r_i : 三角形 P_i P_{i+1} P_{i−1} の内接円の半径 \\
& H_i : 三角形 P_i P_{i+1} P_{i−1} の内接円が辺 P_{i+1} P_{i−1} と接する点 \\
\end{aligned}$$
として,$r_0 + r_2 = r_1 + r_3$ を証明します。
【証明】
$$\begin{aligned}
P_0 H_0^{\prime} &= P_0 H_0^{\prime\prime} など &\\
\Rightarrow P_0 P_1 − P_3 P_0 &= P_0 H_0^{\prime} + P_1 H_0^{\prime} − (P_0 H_0^{\prime\prime} + P_3 H_0^{\prime\prime}) \\
&= P_1 H_0^{\prime} − P_3 H_0^{\prime\prime} = P_1 H_0 − P_3 H_0 など\\
\Rightarrow P_0 P_1 + P_2 P_3 − P_1 P_2 − P_3 P_0 &= P_1 H_0 − P_3 H_0 + P_3 H_2 − P_1 H_2 = 2(P_1 H_0 − P_1 H_2) \\
& = P_0 H_1 − P_2 H_1 + P_2 H_3 − P_0 H_3 = 2(P_0 H_1 − P_0 H_3), \\
\therefore P_1 H_0 − P_1 H_2 &= P_3 H_2 − P_3 H_0 = P_0 H_1 − P_0 H_3 = P_2 H_3 − P_2 H_1 . \\
\angle O_0 P_1 H_0 = \frac{1}{2} \angle P_0 P_1 P_3 = \frac{1}{2} \angle P_0 P_2 P_3 &= \angle O_3 P_2 H_3 など \\
\Rightarrow \frac{r_0}{P_1 H_0} = \frac{r_3}{P_2 H_3} &\rightarrow r_0 P_2 H_3 = r_3 P_1 H_0 (\Leftarrow \triangle O_0 P_1 H_0 \sim \triangle O_3 P_2 H_3), \\
\frac{r_0}{P_3 H_0} = \frac{r_1}{P_2 H_1} &\rightarrow r_0 P_2 H_1 = r_1 P_3 H_0 (\Leftarrow \triangle O_0 P_3 H_0 \sim \triangle O_1 P_2 H_1), \\
\frac{r_2}{P_1 H_2} = \frac{r_3}{P_0 H_3} &\rightarrow r_2 P_0 H_3 = r_3 P_1 H_2 (\Leftarrow \triangle O_2 P_1 H_2 \sim \triangle O_3 P_0 H_3), \\
\frac{r_2}{P_3 H_2} = \frac{r_1}{P_0 H_1} &\rightarrow r_2 P_0 H_1 = r_1 P_3 H_2 (\Leftarrow \triangle O_2 P_3 H_2 \sim \triangle O_1 P_0 H_1), \\
\therefore r_0 (P_2 H_3 − P_2 H_1) + r_2 (P_0 H_1 − P_0 H_3) &= r_1(P_3 H_2 − P_3 H_0) + r_3 (P_1 H_0 − P_1 H_2), \\
(r_0 + r_2)(P_0 H_1 − P_0 H_3) &= (r_1 + r_3)(P_1 H_0 − P_1 H_2), \\
\therefore r_0 + r_2 &= r_1 + r_3.
\end{aligned}$$
これで,丸山良寛の定理が証明されました。
この定理の名前の由来も簡潔に記しておきます。
出羽国の鶴岡山王神社に奉納された算額にこの定理が書かれており,丸山鉄五郎良寛の名で奉納されていたことからこう呼ばれているそうです。また,前出の日本の定理は多角形を対象にしていましたが,単にこの四角形の方を日本の定理(Japanese theorem)と呼ぶこともあるそうです。
おわりに
実は初等幾何を扱うと$\LaTeX$や図を描くのに骨が折れるように思います。ただ,生成系AIでも図が入る扱いは対話するのが難しくもあり,証明を引き出すには未だまだハードルが高いように感じました。
ご一読いただきまして有り難うございます。
(●)(●) Happy Hacking!
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三重大学教育学部研究紀要. 自然科学 52 (2001)「Japanese Theoremの起源と歴史」 ↩
