数年間、毎日書き続けた日記が2327件になった。
短い日は「出勤」の一言。長い日は数千字。
ここまで増えると、書いた本人でも全体像を把握できない。
そこで、自作の日記アプリに AI分析機能 を組み込んだ。
Anthropic Claude API を使い、日記を複数の視点から分析する仕組みだ。
例えば次のような分析を同時に走らせる。
- 今日の日記を深く読む
- 日記の急所を特定する
- 時間軸で変化を追う
- 比喩の構造を読む
- 外部基準との関係を構造化する
同じ日記を、異なるプロンプトで並行して読ませる。
約2330回ほど分析を回してみると、
単なる要約ではない、いくつか興味深いパターンが見えてきた。
AIは要約しない。「配置」を読む
ある日のエントリには、次のような出来事が並んでいた。
- 強い対立を伴う出来事
- 穏やかな雑談
- 日常の小さな喜び
人間ならこれをまとめて
いろいろあった日
と要約することが多い。
しかしAIの読み方は違った。
沸騰と凪が一枚の日記に収まっている
出来事を整理するのではなく、
出来事の並び方に注目する。
怒りがどこに置かれているか。
日常的な話題がどこに置かれているか。
つまり内容ではなく
テキストの配置構造を読む。
日記の中に
その並びが今日だった
という表現があった場合、AIはそれを
書き手自身が今日の地形を要約している
と解釈する。
出来事ではなく、
配置そのものが意味を持つという読み方だった。
感情には「地層」がある
もう一つ面白かった分析が
感情の地層構造だった。
AIは同じ出来事への感情を
三層構造として分解する。
例:
表層
苛立ち、不満
中層
過去の経験と結びついた怒り
深層
繰り返されてきた関係パターンへの疲労
書き手は単に「怒っている」と感じているだけでも、
テキストの中には複数の感情レイヤーが存在する。
興味深いのは、AIがこの深層に
ラベルを付けることだ。
例えばあるケースでは、
悪意のない侵食への対処コスト
という名前が付けられた。
曖昧な感情に名前が付くと、
それは単なる気分ではなく
構造として認識できるものになる。
時間軸で見ると文体は変化している
日記分析では
時間比較も行っている。
例えば
- 3日前
- 1週間前
- 1ヶ月前
- 5年前
などのエントリと比較する。
すると文体の変化がはっきり見えてくる。
例えば過去の日記では
- 時刻の記録
- 事実のメモ
- 会話ログ
のような「記録型」の書き方が多い。
一方、現在の日記では
- 思考の整理
- 内面の動き
- 感情の言語化
といった記述が増えている。
AIはこれを次のように指摘する。
5年前は時刻と事実の記録。
現在は内面の動きを言語化する文章。
人間は自分の変化に気づきにくい。
理由は単純で、変化が連続的だからだ。
しかし2327件のログを横断すると、
この文章スタイルは当時存在しなかった
という断言が可能になる。
比喩から思考モデルが見える
日記に現れる比喩も分析対象にしている。
例えば
引っ越しは逃げではなく移動だ
という文章があるとする。
AIはこれを
逃走ではなく、生息域の選択
と解釈した。
つまり行動モデルが
- 追われる存在
- 環境を選ぶ存在
のどちらとして語られているかを読む。
他にも例えば
- 「罠に負けた」 → 狩猟モデル
- 「観察フェーズ」 → 行動段階モデル
- 「受け取る人 / 受け取らない人」 → 容器モデル
といったパターンが見つかる。
言葉の選択には
無意識の思考モデルが反映されている。
一番鋭い分析「急所」
分析の中で最も興味深いのが
急所検出だ。
日記の中から
- 構造変化
- 気づき
- 到達
といった候補を複数抽出し、
その日の最重要ポイントを一つ選ぶ。
面白いのは、
それが必ずしも文章量の多い部分ではないこと。
むしろ
一番小さな記述
が急所になることが多い。
AIはそこに対して
次のような問いを投げる。
もし一つだけ問うなら?
この問いがあることで、
日記は単なる記録から
思考の素材へと変わる。
同じ言葉が別の意味になる
AIは文章の中の
反復パターンも検出する。
例えば同じ強い言葉が
日記に2回登場する場合、
- 1回目は対立の場面
- 2回目は雑談の場面
というように
文脈によって意味が変わることがある。
AIはこれを
同じ言葉が別の機能を持っている
という形で指摘する。
人間は出来事を時系列で書く。
AIはそこから
反復と変奏
を見つけてくる。
技術構成
この分析機能は
ブラウザ完結型の日記アプリに組み込んでいる。
データ保存
IndexedDB
日記はブラウザ内に保存される。
サーバーには送信しない。
AI分析
Anthropic Claude API
ユーザー自身のAPIキーを設定する方式。
分析管理
- 分析タイプごとに最新1件キャッシュ
- 全履歴をログ保存
ローカル分析
一部の分析はクライアント側で処理している。
例:
- 感情傾向分析
- トレンド転機検出
- 語彙深度
- 存在論的密度
実装してわかったこと
日記分析のプロンプト設計で
特に重要だったのは次の3点だった。
- 要約を禁止する
- 構造・配置・反復を見るよう指示する
- 解釈より観察を優先させる
特に「要約するな」という制約を入れると、
AIの読み方が大きく変わる。
日記は書いた時点では完成していない
2327件を分析してわかったのは、
日記は書いた瞬間に完成するものではないということだ。
保存されたテキストは、
まだ半製品に近い。
読み返され、
構造として解釈されたとき、
そこから別の意味が立ち上がる。
AIは共感しない。
励ましもしない。
ただ、
- 言葉の配置
- 比喩のパターン
- 感情の層
- 時系列の反復
を構造として提示する。
その結果、
2327件の日記は
もう一度読み直されたテキストになった。