はじめに
こんにちは、くりメガネです。株式会社センシンロボティクスで業務自動化プラットフォーム『SENSYN CORE Pilot』を担当しているソフトウェアエンジニアです。
2026年3月24日に開催された Microsoft AI Tour Tokyo 2026 に参加してきました。
本記事は、MicrosoftのAI関連製品に関するキャッチアップと自社導入検討、特に社内問い合わせ対応の改善策の模索を目的に参加したレポートです。
イベントは世界40以上の都市で開催されているグローバルツアーの東京開催回で、基調講演から個別セッション、開発者向けのClosing Keynote、そして懇親会まで盛りだくさんの1日でした。
広大な展示ブースエリア。ElasticやGithubなどのブースが並び、多くの来場者で賑わっていました
用語の整理
本記事で頻出するキーワードを先に整理しておきます。
| 用語 | 説明 |
|---|---|
| 生成AI | テキスト・画像・コードなどを生成できるAI |
| LLM | 大規模言語モデル。生成AIの中核技術 |
| RAG | Retrieval-Augmented Generation。外部データを検索し、その結果をもとにLLMが回答を生成する手法 |
| Copilot Cowork | Microsoft 365上でCopilotにバックグラウンドでまとまった作業を任せられる機能(2026年3月時点ではFrontier program向けのResearch Preview) |
| Work IQ | AI アシスタントを Microsoft 365 Copilot データに接続するコマンド ライン インターフェイス (CLI) およびモデル コンテキスト プロトコル (MCP) サーバーです。 Work IQ を使用すると、自然言語を使用して、メール、会議、ドキュメント、Teams メッセージ、職場の分析情報、人関連情報などを照会できます。 |
| Foundry IQ | 企業のドキュメントやナレッジをAIエージェント向けに検索可能なナレッジレイヤーとして提供する仕組み |
| Fabric IQ | 社内に散在するデータを共通の業務用語・意味づけで整理し、エージェントやアプリが正しく扱えるデータ基盤を提供する仕組み |
基調講演
基調講演のテーマは 「AIの民主化」 。
AIに何ができるかではなく、顧客課題をベースにどこに使えるかを考えるというスタンスが印象的でした。
Microsoftが掲げる 4つの成功フレームワーク は以下の通りです。
- 従業員体験の強化
- 顧客体験の再構築
- AIファーストのビジネスプロセスの再構築
- イノベーションの改革
単にプロンプトに投げるのではなく、AIの活用を業務の中に自然に組み込むこと、そして 課題に一番近い人にAIを使ってもらう ことで、効果的でインスピレーションのある課題解決ができるという考え方が一貫して語られていました。
フロンティア組織への進化を支える製品群

Work IQ、Foundry IQ、Fabric IQ、Agent 365、Agent Factoryの5つの柱
信頼(Trust)を土台に、以下の製品群でフロンティア組織への進化を支えるという全体像が示されました。
- Work IQ: Microsoft 365 Copilotを個人・組織に最適化するインテリジェンスレイヤー(前述)
- Foundry IQ: 企業のドキュメントやナレッジを権限管理付きで検索可能にするナレッジレイヤー(前述)
- Fabric IQ: 社内に散在するデータを共通の業務用語で整理し、エージェントが正しく扱えるようにするデータ基盤(前述)
- Agent 365: 組織内のAIエージェント全体を可視化・統制する基盤
- Agent Factory: Microsoftのエンジニア伴走・エージェント導入・社員向けトレーニングを組み合わせたAI導入支援プログラム
デモ: 架空の衣料会社「Zava」
デモでは、架空の衣料会社 Zava が新プロジェクトを企画から市場投入するまでの流れを、各役割のメンバーがMicrosoft製品を活用する形で実演されました。

Copilot Coworkに「会議の設定」「資料作成」などのタスクを指示している画面

Copilot Coworkがプロジェクトのタスクを自動で分解し、並行して進めていく様子
プロジェクトマネージャー
- カレンダーでの予定確保、関係者へのメール送信を自動で実行
- 経営層向けプレゼン資料の作成まで一気通貫
財務担当
- ExcelでのCopilot活用によるダッシュボード作成
- 属人化しない、他メンバーも使える形での関数入力

CopilotがPowerPointで3年間の収益見通しを視覚的にまとめた資料を自動生成
市場調査・サプライチェーン
- Copilot Studioでエージェントをカスタム作成
- 社内規定に基づいたレビューを人が見る前にAIが実施
- 複数エージェントの連携で社内のお作法に則った資料を作成

GTM Agentが品質・コンプライアンス要件の確認やサプライチェーンリスクの洗い出しを自動でメール送信
開発

GitHub Copilot CLIからWork IQに接続し、欠席したミーティングの内容を問い合わせている様子
- GitHub Copilot CLIからWork IQに接続し、欠席したミーティングの内容を把握
- フリートモード(
/fleet)でタスクを複数のサブタスクに分解し、並列にコーディングを実行 - GitHub Issueへのタスク登録やCopilotへのアサインによる自律的なコーディング
デモでは、ただ単にプロンプトから答えをもらうだけでなく、カレンダー上での予定の確保・メールの送信・ExcelやPowerPointの作成まで、幅広い業務を代行できる可能性が示されていました。
GitHub Copilotはコードを書くフォローをしてもらう印象でしたが、Work IQを通じて欠席したミーティングの議事録からプルリクエストの作成まで一連の流れをデモで見せてくれた点には感動しました。
ガバナンス・オブザーバビリティ

Agent 365を通じたエージェントの可視化。アラート状態のエージェントが赤で示されている様子。
情報システム部門向けに、AIエージェントの監視がいかに簡単にできるかも紹介されました。

Agent 365のダッシュボード。Active users: 11,376、Time saved with agents: 7,841時間が一目でわかる
エージェントによって削減された時間が数値で可視化されているのは、導入効果を定量的に示せるという点で非常に良いと感じました。社内での稟議や導入推進にあたって、こうしたデータがすぐに取れるのは大きな武器になりそうです。
- エージェントの数、ユーザー数、削減された時間、承認状況を一覧で確認
- エージェント同士の通信状況をマップで可視化
- 不正アクセス(認証情報の漏洩・出力の漏洩・不正コンポーネントの混入)への対策
- 情シスとしてエージェントの承認基盤・権限を管理
業務への介入度合いが深くなるほど信頼管理も重要で、ツールによる軽減が図られていますが、管理コストはまだまだ高そうなイメージを持ちました。
フロンティア組織の活用事例

小池百合子都知事からのビデオメッセージ。AIをはじめとしたデジタル分野の進化への取り組みについて語られた
- 東京都: 都知事のビデオメッセージも上映され、非エンジニアがエージェントを作れる状況へと進めている取り組みが紹介された
- 明治安田: レガシーシステムからオープン型への転換。会社で"安心"に留まらず"信頼"を勝ち取る
- 日本共創プラットフォーム: 現場が一番人が足りない。ホワイトカラー中間管理職が多いこの層を減らし、スムーズな意思決定の世界を作る
AI時代に求められるリーダー像として、「経営・組織運営上の本質的な問いを立てられるか」「人間力・結果が信頼となって決裁できるかどうか」が語られ、リーダーの役割がますます重要になる という点が強調されていました。
注目セッションのハイライト
Foundry IQ × Elastic:多様なデータを活用した自律型AIの実装
キーワード: AIエージェントを最優秀な社員と同じくらい信頼できるために。
AIエージェントに信頼を持たせるために必要な 3つの知識 が紹介されました。
- チーム、役割、関係性 の理解
- ビジネスの状態とアクション の把握
- キュレーションされたナレッジ(暗黙知を含む)
精度の高い回答を生成AIにさせるためには、生のデータをそのまま与えるのではなく、与えるデータ自体を最適にする必要がある という点が強調されていました。
RAGとAgentic Retrieval
RAGの仕組みとして、知識を単語レベルでの理解から関連性をもたせたベクトルとして意味を持たせることで、関連するデータをいかに拾ってこられるかを改善するアプローチが解説されました。
- キーワード検索(BM25): 型番検索など正確な一致が必要な場面に有効
- ベクトル検索: 自然言語での曖昧な検索や、表記ゆれ(例: "ラグ" と "RAG")にも意味的な類似性で対応できる
- ハイブリッド検索: キーワード検索とベクトル検索を組み合わせ、双方の強みを活かして検索精度を向上させる手法
Elastic製品では、これをログを使った原因究明、セキュリティログからのアラートなどに応用します。
ユーザーから問い合わせがある前に初動対応を開始できる点は魅力的と感じました。
基本的な用語もわかりやすい解説が多く、イメージが掴みやすいセッションでした。
AIと人が協働する金融機関のこれから──価値創造の最前線から
業務完全自動化へのステップ。欧米ではL3(Agentic Workflow)が主流で、L4(高度自律エージェント)への挑戦も始まっている
キーワード: エンジニアがいなくても回る仕組みを作ること。
大和証券ではAIエージェントを使って業務の効率化を進めてきた事例が紹介されました。社内に生成AIを普及させるにあたっては、2019年から「デジタルITマスター認定制度」を創設し、高度なデジタル技術を活用してビジネス変革を担う人材を育成。認定者は222名(2026年6月見込み)に達しており、現場に有識者を増やすことでエンジニアに依存しない活用体制を築いてきたとのことでした。
- 人がボトルネックにならない仕組み: 暗黙知をオントロジーとして抽出し、意思決定テーブルを作成。人間と同じ判断ができる流れを構築
- エンドユーザーのインタフェースまで追求: 判断根拠を実際の業務から得られるよう、現場の端末改善も含めて取り組み
FDE自走化・技術の成熟・データの成熟の3軸が相互に作用し、評価を仕組み化していく
3つの原則: Designed Exit(自走できる運用設計)、Data First(必要なデータを一緒に蓄積)、Data-Driven Trust(感覚ではなく数字で決める)
- PoCで評価をゴールにしない: 生成AIによる実装工数が圧縮されたいま、最初から本番で動くことを見据えた前提が肝要
L3安定化からL4運用定着までの5フェーズのロードマップ。FDE自走化・技術成熟・データ成熟・移行の各軸で段階的に進化
- エージェントのガバナンス: Microsoft Foundry (旧 Azure AI Foundry) を使ってエージェントの行動履歴を可視化
「莫大なPoC予算、しかし本番に至らない」という課題に対し、最初から本番前提の自社プラットフォーム設計で挑む
「進化し続ける本番」という言葉が印象的で、現場の巻き込みがAIトランスフォーメーションを左右するという考え方に共感しました。
ロボティクス×生成AIの交差点:Physical AIの現在地と次の一手
川崎重工業、マイクロソフトリサーチ、センシンロボティクスからのパネリスト。
本セッションには弊社代表の北村も登壇しました。AIを社外に向けたプロダクトとして価値提供できている企業はまだ少ない中、実際に実践できている具体的な取り組みについて、川崎重工・マイクロソフトリサーチ・センシンロボティクスの3社がMicrosoftのメンバーを迎えてパネルディスカッションするセッションでした。
キーワード: 生成AIは行動に結びつくことで初めて価値につながる。
生成AI以外のAI(機械学習等)も含めて、社外に価値の提供を実践できている3社による講演でした。
パネリストによるディスカッション。
- Physical AI: Embodied AI(物理的な身体を持ち、現実世界を知覚・行動するAI)を運用スケールさせる概念
- 匠の真髄は技ではなく判断: DXにおいて職人芸と呼ばれるものの真髄は、技そのものではなく、その人の判断軸である
- 判断軸を落とし込むことで、匠は失職するのではなく、その判断根拠を扱える量を増やすことができる
「緻密さをロボットに、判断を人間に」という棲み分けの考え方は、製造業に限らず多くの業種に応用できる視点だと感じました。
弊社北村からは、ソリューション開発プラットフォーム『SENSYN CORE』を題材に、実際に体現した製品の紹介を行いました。
- ロボットやドローンなどのスマートデバイス群を自動コントロールしデータを取得 (SENSYN Edge)
- 3次元復元や地図での可視化 (SENSYN Datastore)
- AI技術を活用し予防保全等への貢献 (SENSYN AI)
データがあったらOKではなく、ユーザーは誰かと考えたとき、現場の方々がプロンプトをたくさん書くのでは不十分です。
これらをベースにした業務アプリケーションを通じてボタンワンクリックで点検業務を実現させるサービスも提供しています。
センシンロボティクスが目指しているのは、一言で言えば 「世の中の維持管理を、人がやらなくて良い世界」の実現 です。
エネルギーをはじめとする社会インフラの現場では、膨大な設備を人が管理しており、3Kと呼ばれる苦しい業務区域・リスクも存在します。
Physical AIによる人手不足の解消や、リスクの低減を目指します。
Closing Keynote - AIと共創するエンジニアの未来
あらゆる接点でのAIの活用が加速。AIアシスタント → 人とエージェントがチーム → 人の指示でAIが自律的に実行、と3つのパターンが紹介
基調講演とは異なり、聴衆ターゲットを明確に開発者に絞って開催されたセッションでした。
AI駆動開発の時代に求められるもの
- コーディングを武器にすることは難しくなってきた
- 上がった開発スピードが必ずしも顧客価値に繋げられているわけではない
- 開発アイテムを増やすより、必要な開発をコミュニケーションで獲得できることがエンジニアに必要な能力
- 要件定義からデリバリーまで一人でできること、垣根を超えること
GitHub Copilot Quest: Learn → Build → Transformの3ステップで開発者の技術力向上を支援
興味深いデータとして、Anthropicの調査(Economic Index)によるとClaudeの利用カテゴリのうち「ソフトウェアのデバッグ・開発・最適化」が11.5%で最も多いとのこと。日本は116カ国中33位(Usage Index: 1.59)という結果でしたが、ただの問いかけではなくソフトウェア開発の価値創造に貢献しているという文脈で紹介されていました。
社内問い合わせ対応について(参加目的の振り返り)
今回の参加目的のひとつであった「社内問い合わせ対応の改善策」について、わかったことを整理します。
- Microsoft製品上にデータがあれば活用はしやすい(Teams、SharePoint、Outlookなど)
- 提供会社の垣根を超えた連携はコネクタこそあるものの、最適化されているわけではない
- Microsoft Foundry (旧 Azure AI Foundry)を用いて開発実装することは可能だが、費用対効果は限定的と推定される
暗黙知や複数の企業製品上に知識が分散している場合の統合は、まだ決定的な解がないのが正直な感想です。まずは社員が持つ知識をいかに生成AIに上手に渡していくか、この地盤となる情報を蓄えるところから始めていく必要があると改めて感じました。
おまけ
開発者懇親会(Developer Networking Party)
開発者懇親会は豪華なビュッフェ形式でした。登壇されたMicrosoft社員や Microsoft MVP(Most Valuable Professional: Microsoftから技術コミュニティへの貢献を認められた方に贈られる称号)の方も多く参加されていました。
(勇気を出してもう少しいろいろ聞けばよかったです)
LT会は毎回あるようで、既に資料を用意されていた方が多く、内容も面白かったです。
まとめ
生成AIを非エンジニアも含めて業務で使えているのはもはや当たり前で、いかにその効率を高めるために最適化・カスタマイズをしていくかが次のステージ という印象を強く受けました。
基調講演のデモで見た「Intelligence + Trust」のコンセプトは説得力があり、業務への介入が深くなるほどガバナンスとセットで考える必要があることを実感しました。
個人的に最も響いたのは、複数のセッションで共通して語られていた 「暗黙知をいかに生成AIに上手に渡していくか」 というテーマです。ツールや製品は日々進化していますが、結局のところ、社員が持つ知識や判断軸をどう形式化し蓄えていくかが出発点であり、ここを疎かにしてはどんなAI製品も効果を発揮しない――そう改めて感じた1日でした。















