🔄 TCP/IPって何？インターネットを支える技術の基礎知識

インターネットを利用する上で、「TCP/IP」という言葉を耳にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。ウェブサイトの閲覧、メールの送受信、オンラインゲームなど、私たちが日常的に行っている様々なオンライン活動は、このTCP/IPという技術によって支えられています。しかし、「TCP/IPが具体的に何をしているのか」については、少し分かりにくいと感じることもあるかもしれません。

本記事では、TCP/IPの基本的な仕組みについて初心者にもわかりやすく解説します。

目次

• 1. TCP/IPとは何か
• 2. TCPとIP：それぞれの役割
• 3. TCP/IPモデル：通信の階層構造
• 4. TCP vs UDP：トランスポート層の選択
• 5. TCP/IPネットワークとTCP/IP通信
• 6. TCP/IPの重要性
• おわりに

1. TCP/IPとは何か

TCP/IPとは、コンピュータ同士がデータをやり取りするための通信プロトコル（通信規約）のセットです。例えるなら、異なる言語を話す人々が共通の言語を使うことでコミュニケーションが成り立つように、TCP/IPはインターネット上のコンピュータが互いに情報を交換するための「共通言語」や「お約束事」の集まりと言えます。

昔は、コンピュータメーカーや組織ごとに独自の通信方法が使われており、異なるメーカーの機器間での通信は困難でした。そこで、共通のルールを作ることで、メーカーが違っても通信できるようにしようという考えから生まれたのがTCP/IPです。米国国防高等研究計画局（DARPA）によって作られ、現在では事実上の世界標準として広く使われています。

TCP/IPは単一のプロトコルではなく、「TCP（Transmission Control Protocol）」と「IP（Internet Protocol）」という二つの主要なプロトコルを含む、複数のプロトコルが集まった「プロトコルスイート」と呼ばれるものです。一般的に「TCP/IP」という言葉は、これら二つのプロトコルをひとまとめにした表現として使われます。IPだけでは十分に機能しない部分をTCPが補う形で、両者が連携して動作します。

2. TCPとIP：それぞれの役割

TCP/IPの名前を構成するTCPとIPは、それぞれ異なる重要な役割を担っています。

IP (Internet Protocol)：宛先を見つける役割

IPは、データを正しい宛先に届ける役割を担います。インターネットに接続されたすべての機器には、IPアドレスと呼ばれる固有の番号が割り振られています。このIPアドレスは、インターネット上のコンピュータの「住所」のようなもので、データはこのIPアドレスを頼りに目的のコンピュータまで届けられます。

IPは、データを「パケット」または「データグラム」と呼ばれる小さな単位で扱い、それぞれのパケットに宛先のIPアドレスを付与してネットワーク上に送り出します。また、IPはデータがどの経路を通って相手に届くかを管理し、最適なルートを選択して転送を行います。例えるなら、手紙の宛名を見て配送ルートを決める郵便の集配センターや、最適な道順を選ぶ地図のような役目です。

ただし、IPはデータの配送経路を定める役割は担いますが、TCPのようにデータの到着や順序を保証するわけではありません。IPは「ベストエフォート型」のプロトコルであり、できる限りの努力はしますが、確実な配達を保証するものではないという点が、TCPとの大きな違いです。

TCP (Transmission Control Protocol)：信頼できる運び屋の役割

TCPの主な役割は、データを確実に、そして順番通りに相手に届けることです。これは、送ったデータが相手に届いたか、その都度確認しながら通信するやり方です。例えるなら、重要な契約書類のような荷物を送る際に、追跡番号を付けたり、受け取りのサインをもらったりする宅配便サービスのようなものです。

TCPは、送りたいデータを小さな「セグメント」と呼ばれる単位に分割し、それぞれのセグメントに番号を振ります。これにより、もし途中でデータが紛失したり、順番が入れ替わったりしても、受け取った側は元のデータを正確に再構築できます。また、TCPは、データが正しく届いたかどうかを相手に確認する仕組み（確認応答）を持っています。もし確認応答が返ってこなければ、データを再送することで、信頼性の高い通信を実現します。ちゃんと届いたか確認しながらやり取りをするため、データが漏れなく伝わる可能性は高いですが、スピードは遅くなるという特徴があります。

TCPは通信を開始する前に、送信元と宛先のコンピュータ間でスリーウェイハンドシェイクと呼ばれる接続確立の手順を踏みます。これは、通信の準備ができたことを互いに確認するためのやり取りです。通信終了時にも適切な切断手順を踏みます。さらに、TCPはフロー制御（受信側の処理能力に合わせた送信速度の調整）や輻輳制御（ネットワークの混雑状況に合わせた送信速度の調整）といった機能も持ち、通信全体の効率と安定性を保っています。

このように、IPがデータの「宛先」を決めるのに対し、TCPはデータが「確実に」届くように管理しているのです。

3. TCP/IPモデル：通信の階層構造

インターネット通信のような複雑なプロセスを理解しやすくするために、TCP/IPは機能をいくつかの層に分割して考える階層モデルという考え方を用いて整理されています。まとめて考えると頭が痛くなるため、部分ごとに分けて考えることで分かりやすくなります。

一般的に、TCP/IPモデルは以下の4つの層で構成されていると考えられています。

1. 第4層：アプリケーション層

   • ユーザーが直接利用するアプリケーション（ウェブブラウザ、メールソフト、ファイル転送ソフトなど）が動作する層です。
   • ここで、ユーザーが扱う実際のデータ（ウェブページ、メール、ファイルなど）が生成・受信されます。
   • HTTP（ウェブ閲覧）、SMTP/POP3/IMAP（電子メール）、FTP（ファイル転送）、DNS（ドメイン名解決）など、様々なプロトコルがこの層で動作します。

2. 第3層：トランスポート層

   • アプリケーション間でデータをやり取りする際の信頼性や効率性を確保する役割を担います。
   • 主にTCPとUDPという2つのプロトコルが使用されます。TCPはデータの信頼性を重視し、UDPは速度を重視します。
   • TCPではデータは「セグメント」として扱われ、UDPでは「データグラム」として扱われます。

3. 第2層：インターネット層

   • IPアドレスに基づいて、ネットワークを跨いでデータを正しい宛先まで届ける役割を担います。
   • ここでは「パケット」または「データグラム」と呼ばれるデータ単位が扱われます。
   • ルーターなどのネットワーク機器が、IPアドレスを基に最適な経路を選択してデータを転送します。

4. 第1層：ネットワークインターフェイス層

   • コンピュータを物理的なネットワークに接続し、データを実際に送受信するための役割を担います。
   • LANケーブルやWi-Fiなどの物理的な接続媒体を通じて、電気信号や電波などの形でデータを送受信します。
   • この層では、データは「フレーム」と呼ばれる単位で扱われます。例えるなら、データが実際に通る道路そのものです。

データが送信される際は、アプリケーション層からネットワークインターフェイス層へと順に送られ、各層で必要な情報（ヘッダー）が付加されていきます。このプロセスをカプセル化と呼びます。宛先に到着したデータは、今度は逆の順序で各層を通過し、ヘッダー情報が取り除かれて元のデータに戻されます。これを非カプセル化と呼びます。

4. TCP vs UDP：トランスポート層の選択

トランスポート層で使われるTCPとUDPは、どちらもデータ転送を行いますが、その特性には違いがあります。

特徴	TCP (Transmission Control Protocol)	UDP (User Datagram Protocol)
信頼性	信頼性が高い（データの到達、順序を保証）	信頼性が低い（データの到達、順序は保証しない）
接続	接続指向型（通信前に接続を確立）	コネクションレス型（事前の接続確立が不要）
速度	比較的遅い（信頼性確保のための処理が多い）	比較的速い（処理が少ない）
主な用途	ウェブ閲覧、メール、ファイル転送など、データの正確性が重要な用途	動画ストリーミング、オンラインゲーム、VoIPなど、速度が重要な用途

データの正確性が何よりも重要なウェブ閲覧やメールなどでは、信頼性の高いTCPが選ばれます。一方、多少のデータ欠損よりもリアルタイム性や速度が重視される動画ストリーミングやオンラインゲームなどでは、高速なUDPが使われることがあります。

5. TCP/IPネットワークとTCP/IP通信

「TCP/IPネットワーク」とは、TCPとIPのお約束事に従ってやり取りするネットワークのことです。また、「TCP/IP通信」とは、TCPとIPのお約束事に従って行う通信のことです。

インターネットは、まさにこのTCPとIPのお約束事に従って通信が行われているネットワークです。そのため、一般的にはインターネットとTCP/IPネットワークはほぼ同じものとして捉えて構いません。ただし、インターネットに直接つながっていない社内ネットワークなどでもTCP/IPが使われる場合があり、そのような場合は「TCP/IPネットワーク」という言い方で正確さを期していることがあります。

6. TCP/IPの重要性

TCP/IPが広く普及した最大の理由は、異なるメーカーのコンピュータや異なるOSが搭載された機器同士でも、同じルール（TCP/IP）を使うことで互いに情報をやり取りできるようになった点です。これにより、インターネットは世界中の様々なコンピュータを結ぶ巨大なネットワークへと成長しました。

また、TCP/IPの規格がオープンであり、誰でも無償で利用できることも、インターネットが世界中に普及した大きな要因の一つです。

私たちが日常的に利用するウェブサイトの閲覧、メールの送受信、ファイル共有など、あらゆるオンライン活動はTCP/IPという基盤技術によって支えられています。TCP/IPは、まさに現代のデジタル社会における「縁の下の力持ち」なのです。

おわりに

本記事では、インターネット通信の基盤であるTCP/IPについて、その基本的な仕組み、TCPとIPそれぞれの役割、階層モデル、そしてTCP/IPの重要性について解説しました。

• TCP/IPは、コンピュータが通信するための共通の「お約束事（プロトコル）」のセットです。
• IPはデータの宛先を指定し、最適な経路を選びます。
• TCPはデータを確実に、順番通りに届けるための信頼性を確保します。
• TCP/IPモデルは、通信機能を4つの層（アプリケーション層、トランスポート層、インターネット層、ネットワークインターフェイス層）に分けて考えます。
• TCP/IPは、異なる機器間での通信を可能にし、インターネットの普及を支える重要な技術です。

TCP/IPの仕組みを理解することは、インターネットがどのように機能しているのかを知る上で非常に重要な第一歩となります。本記事が、皆様のTCP/IP理解の一助となれば幸いです。