はじめに
「Gemini Enterprise」について調べていると、似たような名前の製品が複数出てきて混乱することがあります。特に「Gemini Enterprise app」と「Gemini Enterprise Agent Platform」は名前が似ているため、同じもの、あるいはどちらかがもう一方の一部だと誤解しやすいポイントです。
本記事では、この2つの製品の違いと、名前が似ている背景にある名称変更の経緯を整理します。
結論: 「使う人向け」と「作る人向け」の違い
| Gemini Enterprise app | Gemini Enterprise Agent Platform | |
|---|---|---|
| 何か | エンドユーザーが使うチャットアプリ | 開発者がエージェントを構築・運用する基盤 |
| 主な利用者 | 社内の一般ユーザー(検索、チャット、既存エージェントの利用) | 開発者・エンジニア(エージェントの構築、スケール、ガバナンス) |
| 旧称 | Agentspace | Vertex AI |
| 課金体系 | ユーザー単位・月額(Business/Standard/Plusなどのエディション制) | 従量課金制(トークン・コンピューティング利用量に応じる) |
| できること(例) | 社内データの横断検索、アシスタントとのチャット、他の人が作ったエージェントの利用 | エージェントの構築・デプロイ・ガバナンス・最適化 |
一言でまとめると、Gemini Enterprise appは「使う人」向けの完成されたアプリであり、Agent Platformは「作る人」向けの開発基盤です。画像生成やCanvas、動画生成といったチャット上で使う機能は、すべてGemini Enterprise app側の話です。
名称変更の経緯: Vertex AIとAgentspace
Agent Platform: 旧「Vertex AI」
Agent Platformは、もともと「Vertex AI」という名前で提供されていたサービスです。Google Cloud公式の製品ページでも「Gemini Enterprise Agent Platform (formerly Vertex AI)」と明記されており、Vertex AIで培われた機能(モデル選択・構築・エージェント構築など)をすべて引き継ぎつつ、エージェントのライフサイクル全体(構築・スケール・ガバナンス・最適化)をカバーする基盤として位置づけ直されています(Gemini Enterprise Agent Platform (formerly Vertex AI) | Google Cloud)。
この名称変更は2026年4月のCloud Nextで発表され、Model Garden、Custom Training、AutoML、Model Registry、Endpoints、PipelinesといったVertex AIの既存機能は、そのまま新しい名称の基盤に統合されました。Google Cloud Consoleで「Vertex AI」を検索しても、現在はAgent Platformにリダイレクトされる仕様になっているとのことです。
Gemini Enterprise app: 旧「Agentspace」
Gemini Enterprise appの前身は、2024年12月に発表された「Google Agentspace」です。Google Cloud公式ブログの元記事には、後から追記された編集者注記として「Agentspaceは現在Gemini Enterpriseの一部となっている。Agentspaceを支えていたエージェント作成・オーケストレーション技術は、現在Gemini Enterpriseプラットフォームの中核機能を動かしている」という趣旨の説明があります(Introducing Google Agentspace | Google Cloud Blog)。Agentspaceが提供していた企業内検索やエージェント機能は、名称変更後もそのままGemini Enterprise appに引き継がれています。
名前が似ていることで起きる混乱
この2つの製品は名前が非常に似ているため、実務でもいくつかの混乱が起きやすいポイントがあります。
GAの時期がずれることがある
同じモデル機能でも、Agent Platform側とGemini Enterprise app側でGA(一般提供開始)の時期が数日ずれることがあります。例えば画像生成モデルのNano Banana 2・Nano Banana Proの場合、Agent PlatformでのGAは2026年5月29日(Nano Banana 2 and Nano Banana Pro available for everyone | Google Cloud Blog)、Gemini Enterprise appでのGAは2026年6月2日でした(Gemini Enterprise release notes | Google Cloud Documentation)。ニュース記事やリリースノートを読む際は、どちらの製品について書かれた情報なのかを意識する必要があります。
SDKは共通、しかし対象は別
開発者向けの情報になりますが、Gemini APIとAgent Platformは同じgoogle-genaiというSDKを使用しており、コード上はgenai.Client(vertexai=True)のように指定するだけで切り替えられます。ただし、これはあくまで「モデルを呼び出す基盤をどちらにするか」という開発者向けの話であり、Gemini Enterprise app(チャットUI)とは別のレイヤーの話です。
旧SDKの移行期限に注意
旧Vertex AI SDKの生成AIモジュールは、2026年6月24日をもって更新が終了しています。既存のVertex AI時代のコードをまだ使っている場合は、新しいGoogle Gen AI SDK(google-genai)への移行が必要です。
まとめ
- Gemini Enterprise appは「使う人」向けのチャットアプリ、Agent Platformは「作る人」向けの開発基盤という、対象ユーザーが異なる別製品
- Agent Platformは、2026年4月のCloud Nextで発表された名称変更により、旧Vertex AIから引き継がれたサービス
- Gemini Enterprise appの旧称は「Agentspace」
- 同じモデル機能でも、Agent Platform側とGemini Enterprise app側でGAの時期がずれることがあるため、情報を読む際はどちらの製品の話か注意が必要
- 旧Vertex AI SDKの生成AIモジュールは2026年6月24日で更新終了しており、新しいGoogle Gen AI SDKへの移行が必要
「Gemini Enterprise」という名前を見かけたとき、それが「使う人向けのアプリ」の話なのか「作る人向けの基盤」の話なのかを意識するだけで、情報収集がぐっと楽になると思います。
参考リンク
- Gemini Enterprise Agent Platform (formerly Vertex AI) | Google Cloud
- Introducing Google Agentspace | Google Cloud Blog
- Nano Banana 2 and Nano Banana Pro available for everyone | Google Cloud Blog
- Gemini Enterprise release notes | Google Cloud Documentation
本記事は2026年9月時点の公式情報をもとにまとめています。名称・仕様は変更される可能性があるため、実際に導入を検討される際は必ず最新の公式ページをご確認ください。