はじめに
技術書は、わりと読むほうだと思います。
読んだ分だけ知識がつき、AIが出した回答の正誤を自分で判断できるようになる。
読む効果がはっきりしているからです。
一方で、技術書以外の本には苦手意識がありました。
得られる効果がわかりづらいし、読んでも内容を忘れてしまう。
正直なところ、読書にどう向き合えばいいのか、その価値をどこに見いだせばいいのかわかっていませんでした。
そんなとき『具体と抽象』を読み、本や映画から疑似体験を得ることの価値を知りました。
では「本」に絞ったとき、読書で得られる効果とは何だろう?
と気になって手に取ったのが、『本を読む人はうまくいく』です。
読んでみると、読書術そのものより「AI時代をどう生き抜くか」という観点で学びになることが多かったです。
この記事では、本書の主張の中から私と同じWebエンジニア1〜3年目に刺さりそうな部分に絞って紹介します。
AIから事実を、本から考えを学ぶ
本書の第1章に、こんな一文があります。
深い読書体験は、表面的な情報収集とは本質的に異なるのだ。
著者の論理はこうです。
SNSとAIによって誰もが情報を発信・生成できるようになった結果、フェイクニュースは従来のニュースより70%も深く、広く、速く拡散するという研究があるほど、真実とウソの境界が曖昧になっています。
その環境で効いてくるのが、1冊の本にじっくり向き合う「深い読書体験」です。
著者のバイアスを見抜く力、事実と意見を区別する力、情報源の信頼性を評価する力が鍛えられると著者は言います。
この力の土台になるのが読解力です。
読解力とは単に文章を読む能力だけではなく、文章を理解し、分析し、評価し、活用する能力を指す。
エンジニアの仕事に置き換えると、思い当たる場面だらけではないでしょうか。
新しいフレームワークのドキュメントを読む、エラーの原因をGitHubのIssueから探す、AIが生成したコードの妥当性を判断する。
どれも読解力そのものです。
私はこの章を読んで、「AIからは事実を、本からは考えを学ぶ」と自分なりに要約しました。
事実を知るだけならAIに聞くほうが速いです。
しかし「著者がどう考え、どう結論に至ったか」という思考プロセスの追体験は、本のほうが圧倒的に得やすいと感じています。
AIの回答を鵜呑みにするか、自分で妥当性を判断できるか。
その分かれ目を作るのが読書だと言われると、読まない理由がないなと思うようになりました。
エンジニアはフェデラー型が強くなる
第4章で紹介される対比が、キャリアの話として一番刺さりました。
著者は『RANGE』(デイビッド・エプスタイン)を引きながら、2つのタイプを対比します。
タイガー・ウッズは2歳からゴルフを始め、早くから1つの競技に特化しました。
一方ロジャー・フェデラーは10代後半までテニスに絞らず、サッカーやバスケットボールなど幅広いスポーツを経験し、その幅が創造性と適応力を育てたと言われています。
ポイントは「どちらが強いかは環境で決まる」という点です。
「タイガー・ウッズ型」の専門特化が有効なのは、ルールが明確で変化の少ない「親切な環境」においてだけ
逆に、変化が激しく予測困難な「意地悪な環境」ではフェデラー型が強い、というのが本書の主張です。
Web業界はまさに「意地悪な環境」の典型ではないでしょうか。
フレームワークの流行は数年で入れ替わり、AIの登場で開発フローそのものが1年前と別物になっています。
私は受託開発でフロントエンド・バックエンド・インフラを横断して担当しています。
1つの領域を深めた専門知識の価値が下がったとは思いませんが、深い知識の一部をAIが肩代わりするようになった今、領域を横断して掛け算で価値を出せる人の需要は確実に上がっていると感じます。
「フルスタック」に技術力だけでなくビジネス理解まで含めて語られるようになってきたのも、その流れだと思います。
本書はこの「幅」を人間関係にも広げます。
世界の億万長者たちの共通点として、彼らの多くが「情報のハブ」であることが挙げられる。ジェフ・ベゾスやイーロン・マスクのような成功者は、特定分野の専門家であると同時に、幅広い分野に関する一般知識も持ち合わせている
異なる分野の専門家同士をつなぐ「知識の仲介者」こそ、情報過多の時代に最も重宝される存在だという話です。
エンジニアで言えば、技術とビジネスの間を翻訳できる人が近いと思います。
仕様の背景にある事業の意図を汲んで実装に落とせる人は、どのチームでも重宝されますよね。
そして、その幅を作る一番手軽な手段が「専門外の本を読むこと」だと本書は位置づけています。
完璧に読まなくていい
ここまで読んで「幅広く読むのが大事なのはわかった。でも、そんな時間はない」と思いませんでしたか?
私も思いました。
本書の答えはシンプルで、完読しなくていい、です。
「完璧」よりも「目的意識を持つ」を大事に!
多様なジャンルを「つまみ食い」するほうが現代では有用で、章の冒頭・目次・結論だけ読むのも立派な読書だと著者は言い切ります。
これは技術書にそのまま転用できる考え方です。
分厚い技術書を1ページ目から精読して、3章あたりで力尽きた経験はないでしょうか。
私が本書のハイライトに書き込んだメモをそのまま載せます。
「一番良くないのは、目的とは関係ない場所で疲れてしまい、本を読むのをやめることである」。
「この本から何を得るか」を先に決めて、関係する章から読む。
それ以外は流し読みでいいし、読まなくてもいい。
これだけで技術書のハードルはかなり下がります。
全ページを理解すること自体が目的なら、精読で問題ありません。
大事なのは読み方を目的に合わせることです。
ほかにも刺さった言葉
主柱の2つ以外にも、印象に残った言葉を2つだけ紹介します。
本を読むから「本を読む人」になるのではなくて、「本を読む人」になるから本を読めるようになるのだ。
読書が続かないのは意志が弱いからではなく、環境と自己像の問題だという第2章の主張です。
資格勉強や個人開発が続かない人にも刺さる話なので、習慣化に悩んでいる方は第2章だけでも読む価値があります。
人生において答えは1つではない。それどころか答えなんてない。
技術選定でもキャリアでも「正解」を探して動けなくなりがちな私には耳が痛い言葉でした。
良い選択をするのではなく、選んだものを良くするのが人生だそうです。
最後に
この本を読んで、自分が読書について勘違いしていたことに気づきました。
「著者が伝えたいことは何か」を考えながら読むことはもちろん大切です。
ただ、それと同じくらい、読んでいて自分の感情が動いた箇所に注目することが重要だと感じました。
どのように感じたのか、どんなことが教訓になったのか。
そこに、その人だけの学びがあります。
著者は伝えたいことを考えて本を書きます。
しかし、どの内容が読む人にとって価値を持つかまでは、著者にも完全には予測できません。
だからこそ、本から考えを吸収して、自分の考えと壁打ちする。
そこに本を読む価値があるのではないかと感じています。
参考文献
株式会社シンシア
株式会社シンシアでは、実務未経験のエンジニアの方や学生エンジニアインターンを採用し一緒に働いています。
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