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超準解析にまつわる都市伝説

Last updated at Posted at 2022-01-25

 超準解析って何? という人は過去記事を参照してください。新しい都市伝説が出てきたらこの記事を更新していきます。超準解析についてのアヤシイ話はだいたいが「移行原理の適用範囲外まで直感的に標準モデルの結果を拡張してしまう」「標準モデルにおける "無限大" と超準モデルにおける非有限の超有限としての "無限大" を完全に同一視してしまう」あたりによって引き起こされているような印象があるので、そのへんに気をつければ大丈夫じゃないでしょうか。

超準解析では 1 と 0.999... を区別できる

 これは通常成り立ちません。というのも、標準モデルで
$$0.999... = \sum_{n=1}^{\infty} 9\times \left(0.1\right)^n = 1$$
のような無限和を表すために使っていた記号 "..." が超準モデルで考えただけで突然
$$0.999... = \sum_{n=1}^{N} 9\times \left(0.1\right)^n = 1 - \varepsilon \neq 1 \ \ \left(\varepsilon \in \mu\left(0\right)\right)$$
というふうに超有限和となる理由がないからです。こういうものは特に断りがない限りは超有限数 $N$ を用いて
$$0.\overbrace{999...9}^{N 桁}$$
と表記されます。
そのため、記号 "..." の通常の定義で考えれば超準解析であろうがなかろうが
$$1 = 0.999...$$
であることに変わりはありません。無限に続くことを素朴に "..." と表現しよう、と考えて「桁数が有限でないこと」すべてにこの記号を適用してしまうと、通常の定義とバッティングして ill-defined になってしまいます。ですから、どうしても $1\neq0.999...$ としたいのであれば「この場で "..." という記号は無限大超自然数桁を表すものであり、超準モデルにおける無限級数を略記するためには用いない」とあらかじめ定めておく必要があります。
 以上のことから、超準解析では $1$ と $0.999...$ が区別できるというよりも、記号 "..." のオーバーロードにより
$$1 \neq 0.999...$$
と表記できることもある、と言ったほうが正確です。しかし、これ(記号をオーバーロードすればどちらの結果も得られる)が $1 \neq 0.999...$ という結論を欲していた人にとって満足のいく事実なのかは疑問ですね。

超準解析ではすべての素数の積が定まる

 無限大超自然数 $N$ をひとつ取ってくればどんな有限素数よりも大きいのだから、有限素数の無限列を擬似的に有限であると見て、超有限積を取ればいいのではないか、という発想でしょう。超素数すべての積は標準的な場合と同様に数として存在しませんが、有限素数すべてで割り切れる数なら、ある無限大超自然数 $N$ を取ってきて、それ以下の素数列 ${\left(p_n\right)}_{1 \leq n \leq N} \subsetneq {}^{\ast}\mathbb{N}$ の積
$$\prod_{n=1}^{N} p_n$$
を考えれば手に入ります。これは「すべての有限素数の積」が存在するならばそれで割り切れるような数です。この $N$ を無限大側から有限素数にギリギリまで近づけて「最大の有限素数とその次の無限大素数との間」で取ればちょうど有限素数だけの積が得られるという算段です。
 しかし、そんなうまい話はありません。先ほど挙げた過去記事で説明している通り、超準世界と標準世界を行き来するための移行原理が適用できるのはあくまでも一階述語論理の範囲内です。「ちょうど有限素数だけ取り出す」なんてことをしようとすると、面倒な問題が発生します。ちょうど有限素数だけを含んだ列は外的になってしまい、標準世界の「有限積」に対応するような超有限積が考えられないのです。

[溢出原理]
内的集合 $A \subseteq {}^{\ast}\mathbb{R}$ に対し、以下ふたつは同値である:

  1. ある有限数 $n$ が存在し、それより大きい任意の有限数 $m > n$ に対して $m \in A$ となる。
  2. ある無限大数 $N$ が存在し、それより小さい任意の無限大数 $M < N$ に対して $M \in A$ となる。

 超自然数の場合で 1 $\Rightarrow$ 2 を示しておきましょう。1 を認めることで考えられる集合
$$A_k = \left\{ N \in {}^{\ast}\mathbb{N}\ \middle| \ k < N \land \left(\forall m \in {}^{\ast}\mathbb{N}\right) \left(k \leq m \leq N \rightarrow m \in A \right) \right\}$$
を用意します。$A_k $ たちは有限交叉性を持つため、
$$N \in \bigcap_{k \in \mathbb{N}} A_k $$
が存在します。これは $A_k $ の定義より任意の有限数よりも大きいので、無限大超自然数です。また、$A_k $の定義より $N$ 以下の任意の無限大自然数は $A$ に含まれ、2 が得られました。

 この事実は、有限と無限大の境目がハッキリとはわからないことを意味します。「ある有限数より大きな有限数をすべて含むこと」は「ある無限大数より小さな無限大数をすべて含むこと」を意味してしまい、「すべての有限素数」を取ろうとするとどうしても無限大素数が混入してしまいます。

参考文献

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