「Googleの持っているすべてのデータを陽子の10の10乗分の1の半径のブラックホールに書き込める!?」
注意事項
キャプチャーした画像の内容に関する著作権は、すべて引用元のサイトにございます。
Linked Ideal代表社員の久保寺です。~~Nextremerの久保寺です。Disruptive Tech. R&Dという研究部門の統括をしております。Disruptive Tech. R&Dでは、量子コンピュータの活用や自然言語処理などの研究を行なっております。~~さて大きく誇張した冒頭文ですが2018年10月の日経サイエンスという雑誌からの抜粋でして、ワールドワイドで素粒子物理学を牽引している理論物理学者の一人である大栗博司氏がお書きになった「ホーキングの遺産」という記事からの引用です。実はこの話、量子コンピュータの研究で重要な量子エンタングルメントという性質にも関係する話で、私の脳に一筋の稲妻が走り、強烈なインパクトを受けて記事やその関連資料をむさぼり読んだ記憶があります。今回この内容について、今年あったニュースなども交えて考えてみたいと思います。
[日経サイエンスのサイトより](http://www.nikkei-science.com/sci_book/bessatu/51229.html)そもそもブラックホールって?
ブラックホールとは、非常に重たい(すなわち重力が非常に強い)天体で周りのものをどんどん吸い寄せてしまい、光ですら一度その影響域に入ってしまうと出てこれないという得体の知れない天体です。
光が吸い込まれてしまうと我々は見ることができないので、その部分だけ宇宙空間にぽっかりと黒い穴が空いてるように見えるということでブラックホールという名前がつけられたそうです。
ブラックホールはアインシュタインの相対性理論の方程式からシュワルツシルトにより存在を予想されておりましたが、アインシュタイン自身も当初は実在はしないだろう思っていたというエピソードを聞いたことがあります。ただしその後の天文物理学の研究で実在する証拠が示されてきました。
そして、今年2019年に遂に世界で初めて撮影にも成功したというニュースがありました。
国立天文台のサイト記事「史上初、ブラックホールの撮影に成功」
下記は動画
また、一般にブラックホールは重たい星が重力崩壊して形成されると考えられていますが、2019年9月に割と小さい(宇宙スケールで)ブラックホールも発見されたそうです。
記事「太陽3個分よりも軽い? 最軽量級ブラックホールを連星系で発見」より
今回非常に小さいブラックホールでも広大なメモリ空間になる?という話なので、理論上は上記のような規模でもとんでもない量の情報が書き込めるというわけです。
ブラックホールに情報が書き込めるってどういうこと?
この話は理論的には大変難しそうなのですが、可愛らしいアニメーションとナレーションで説明している動画がありました。ご興味ある方は是非ご覧ください!
そもそも歴史的にこのテーマの事の発端は、何なのでしょうか?それは「情報は失われてはいけない」という物理法則上の強い要請にも関わらず、車椅子の上の天才物理学者と言われるホーキングが理論的に「ブラックホールは時間が経つと蒸発してしまう」事を示し、矛盾を提起した事になろうかと思います。何故、矛盾なのかというとブラックホールは強い重力で物質をどんどん吸い込むわけですが、物質はブラックホール内で素粒子にまで分解されたとしても、スピンや質量や電荷という情報を持っていて、ブラックホールがこの情報を吸い込んでかつ、情報を何も外に出さずに蒸発してしまうと「情報は失われない」という物理法則の前提と矛盾が起きてしまう訳です。ブラックホールの情報パラドックスと言われています。
**この矛盾は現在は解消されているようです。**その経緯は、下記の記事がわかりやすいと思いました。
記事「ブラックホールに飲み込まれた情報はどこへ行く? エントロピーと情報パラドックス」より
またこれに纏わる有名なエピソードとしてホーキングとプレスキルの賭けという話があります。
記事「追悼:ホーキング博士、その賭けと発言を振り返る」より
さて、ブラックホールに取り込まれた情報はなくならないとすると、どこに蓄えているのでしょうか?
そもそもブラックホールってどんな構造になっているのでしょうか?実は下記のような構造をしているそうです。
この構造のどこかに情報が書き込まれるはずですが、結論からするとブラックホールが形成する表面に書き込まれるらしいのです。それは理論的にブラックホールが物質を取り込むと上記の表面積が大きくなるようなのです。情報という量はエントロピーという量で定義されます。ホーキングはブラックホールのエントロピーを次のように導きました。
S_{BH}=\frac{c^3}{\hbar}\times\frac{A}{4G_N}\\
\\
A:ブラックホールの面積\\
G_N:ニュートン定数\\
\hbar:プランク定数\\
これは大変面白い話になっていて、式を見ると3次元の情報量であるはずのエントロピーが2次元の面積に比例することになります。すなわち我々は、3次元空間に住んでいるわけですが、その情報は2次元で表現できることになるわけです。この方面は最先端物理のホットな話題で研究が続いておりまして、「ホログラフィー原理」と呼ばれています。京都大学基礎物理学研究所の高柳 匡氏がお書きになられた下記の資料に非常にわかりやすく解説されています。
資料「超ひも理論の最前線:宇宙は量子ビットから創られているのか? 著者:高柳 匡氏」より
上記資料によれば、詳しくはAds/CFT対応という理論があり、
さらには量子エンタングルメントとの関係から笠-高柳公式という美しい結果が導き出され
最終的に1平方センチ辺り、10の65乗もの量子ビット分に相当する情報を蓄えることができることになり、
「宇宙は量子ビットから創られる?という予想」という形の結びで終わってました。
理論上は、本当にブラックホールの表面に量子ビットとして情報を蓄えることができるわけです。
ブラックホールを実験室に持ち込めるか?
さて、ここまでブラックホールの表面に情報が蓄えられるという話を見てきました。しかもその圧縮率は超絶に高いようです。そんな素晴らしいリソースがあるならば、実際に可能なのか研究してみたいと思う人もいるんじゃないでしょうか?しかしwikiによれば地球から最も近いブラックホールでも3000光年!!! とても簡単に手が出せそうにもないです。ではブラックホールを使わないまでも、ブラックホールと等価な何かを使って実験できないだろうかという問題設定にしたとしましょう。実はこれに関しては、もう10年近く前の記事になりますが、下記の記事にその一つのヒントがあると個人的に思います。
「物性物理学と素粒子物理学の対話」 IPMU フォーカス・ウィークの報告
この報告の中で5つの問題提起というものの中に
2. 物性現象を使って AdS/CFT 対応を検証できるか?
という問題提起がありました。
Ads/CFT対応は非常に横柄に捉えれば、D+1次元の話をD次元の話にできる理論です。この関連で今面白い物理が物性の方であります。「トポロジカル物質の探索」という分野です。このトポロジカル物質は、例えば電子を二次元平面にトラップして特定の条件下にすると非自明な物理現象を起こします。この仕事に対して、1985年にノーベル賞が与えられています。また、別のトポロジカル物質の非自明な物性である分数量子ホール効果についても1998年にノーベル賞が与えられています。
1985年「量子ホール効果の発見」によりクラウス・フォン・クリッツィングがノーベル物理学賞受賞。
1998年「分数電荷の励起を持つ新しいタイプの量子流体(分数ホール効果)の発見」により、H. L.シュテルマー教授、D. C. ツーイ教授と共同でノーベル物理学賞受賞。
そしてこのトポロジカル物質の中に量子コンピュータのリソースとして期待されるマヨラナ準粒子というものがあります。トポロジカル量子コンピュータという研究分野になります。(トポロジカル量子コンピュータに関しては、簡単ではありますが記事も書いてみましたのでよかったらご覧ください。「トポロジカル量子コンピュータとその周辺」)
マヨラナ粒子自体まだ発見されておらず、ニュートリノという素粒子がその候補として有力視されています。その発見されていない3次元空間上のマヨラナ粒子ですが、自由度を2次元に束縛したSetupでそのマヨラナ粒子の物性が得られるという現象は、非常にAds/CFT対応と符号します。AdS/CFT 対応というのは非常にスケールの大きい宇宙の重力理論の話ですが、それを実験室の物性という研究の中で似たような話が展開できるのであればお題「物性現象を使って AdS/CFT 対応を検証できるか?」はぶっ飛んだ話でもなく、秀逸な問題提起だなと思いました。
まとめ
今回は、ブラックホールと情報について記事を書いてみました。現在、宇宙に関する研究として「宇宙に生命が存在するか?」という研究からさらにSFのような「宇宙に高度な建造物があるか(ダイソン球の存在)?」という話も真面目に研究されているそうです。
宇宙人の巨大建造物「ダイソン球」かもしれない64の天体が存在する! 科学者「地球からも観測可能、すぐに調査を」
もしこれが本当であれば、ブラックホールを利用している高度な知能を持つ生命体もいるかもしれません。そもそもブラックホールに書き込まれた情報は読み込めるのかって話もありますが、、、最後までお読み頂きありがとうございました。