オブザーバビリティ予測レポートとは?
オブザーバビリティ予測レポートは、企業におけるオブザーバビリティの実践状況や成果、組織の抱える課題、未来の展望などについての調査結果をまとめたレポートで、New Relicが調査機関(Enterprise Technology Research)とパートナーを組んで調査した結果を年次で公開しているものです。
『超概説!オブザーバビリティ予測レポートから見える現在と未来(2023年版)』では、当該レポートから読みとれる全業種横断での日本企業の特徴(以下)を解説しました。
- 日本企業はシステム停止の発生頻度が低いがダウンタイムが長い
- 日本企業は海外に比べてログの依存が高い
- フルスタックのオブザーバビリティを実現している企業ほどメリットを享受している
- 今後、多くの企業でオブザーバビリティ関連の機能の導入が計画されている
今回は、さらに業種を小売業界に絞ったレポートである『小売業界におけるオブザーバビリティの現状』から読み取れる小売業界の企業の特徴について見ていきます。
なお、このデータは『2023オブザーバビリティ予測』の調査データのうち、小売業界に属する173件の回答に基づくものになります。
重大障害やビジネス上の損失が他業種より多い
まず、特筆すべき小売業界の特徴としては、全業種の平均と比較して小売企業の方が重大障害の発生頻度が大きいということです(以下図の左のグラフ)。また、そのような重大障害が発生した際に、その障害を検知するまでの時間や解決するまでの時間が全業種の平均と比較して長いという結果も出ています(以下図の真ん中のグラフ)。
この結果は、日本では依然としてシステム障害を手動やクレーム起点で検知していることが多いことや、ログ依存の体質で問題解決が遅いというオブザーバビリティ予測レポートの結果とも整合しています。
また、一番右のグラフが示すように、小売企業は重大障害の発生時のビジネス上の損失が他業種と比較して大きいという結果も出ています。とりわけ小売の場合は、ECや決済、発注などのシステム停止が業務停止に直結することを考えると、小売業界ではシステム障害がビジネスに及ぼす影響が大きいことは納得できます。
言い換えれば、小売業界においては重大障害の発生頻度の低減、障害の検出や解決の迅速化がビジネス拡大においては急務と言えそうです。
他業種と比べて部分的な監視に留まっている
下図左はオブザーバビリティ関連機能の導入状況を表していますが、小売企業は他業種と比べてオブザーバビリティ関連機能の導入が遅れているというデータが出ています。下図右は機能ごとの導入割合ですが、ほとんどの機能において全業種の平均の方が導入割合が大きいことが分かります。
部分的な監視に留まりサービス全体の観測性が獲得できていないことにより、システム障害の検知や根本原因の解明、問題の解決が遅れているという前述の結果にも繋がっている、と言えそうです。
RUM(リアルユーザーモニタリング)の導入割合が他業種より大きい
一方で、前出の図を見てみると、小売業界の場合は他業種と比較して、RUM(リアルユーザーモニタリング)の導入割合が多いのが特徴的です。Webサイトのスピードを向上させることでコンバージョン率が向上するという事例はWebでも数多く見られるように、小売の場合はECサイトやモバイルアプリなどのユーザー体験が悪さが離脱やカゴ落ち、アプリストア評価の低下の原因となって収益悪化に繋がってしまいます。
したがって、実際のサービスの利用者がモバイルアプリやブラウザで実際にどういう体験をしているかを把握・改善することは小売の場合特に重要視されていることが伺えます。ユーザー体験の向上は今後もオブザーバビリティのドライバーになっていきそうです。
分散トレーシングの導入割合も他業種より大きい
また、分散トレーシングの導入割合も他業種と比較して大きいのは、小売業界のシステム構成や組織構造に由来していると考えられます。EC、在庫、配送、顧客管理、決済などなど、複数の異なるシステムが連携して小売のビジネスを支えていますが、多くのケースでそれを担当する組織・チームも分かれています。いざ問題が生じた時に、問題箇所の特定のためにチーム間で非効率な伝言ゲームが行われていたり、それぞれのチームで見ているものや範囲が異なるために問題解決に時間がかかるというのはよく聞かれます。
システム横断・チーム横断でサービス品質の把握や問題解決を効率化するためには、それを繋げる仕組みが必要であり、その手段の一つが分散トレーシングであることからも導入割合が多いということは合点がいきます。
小売にオブザーバビリティが必要な理由
レポートの内容から少し脱線する内容も含みますが、小売業界においてオブザーバビリティが必要である理由を改めて書き下してみます。
複数のシステムが複雑に連携している
前述の通り、小売の場合はEC、在庫、配送、顧客管理、決済などのフロントのシステムから基幹に至るまで複数のシステムが関わっており、かつそのシステムを別のチームが担当していることがほとんどです。これらのシステムの情報が分断されている状態で問題解決をすることの難しさは想像に易いと思います。
小売のシステムの特徴を鑑みると、これらのシステム全体を可視化し、システム横断・部門横断で状況把握や問題解決ができることはサービスの信頼性を高めるためには必要不可欠であると考えられます。
デジタルとリアルの融合の加速によるシステムの複雑化
小売業界は物価高やコロナなどの影響もあり、デジタル技術を活用した新しいビジネス機会創出が求められています。その動き一つがデジタルとリアルの融合で、例えばオンラインで予約した商品を店舗で受け取るBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)などがあります。
顧客情報などのデータをデジタルとリアル問わずに利活用するために従来関連のなかったシステムが連携していくことになりますが、システム構成はより複雑になっていきますのでシステム全体の状況把握と問題解決を迅速化していくことはより一層求められていくと考えられます。
ベンダー協業体制での効率化が必要
既に内製化にシフトしている企業もありますが、アプリ開発やシステム構築運用をベンダーに任せている企業も依然として多いですし、それがなくなることもないでしょう。小売業界の場合は特にその傾向が強くみられます。
その結果、システムのことはベンダーに聞かないとわからない、問題解決はベンダーにお任せ、サービスが正常に稼働しているかどうかも自分たちでわからない、このような声を多く聞きます。このような状況では迅速に障害復旧することはもちろん、ユーザー体験を向上させることは到底かないません。
サービスの状態を見える化してベンダーはもちろん事業オーナーである企業自身も把握できる状態にし、ビジネスゴールに紐づく形でベンダーとユーザー企業がデータに基づく建設的・効率的なコミュニケーションをしていくことがビジネス成長においては必要になってくると考えられます。ベンダーを例として挙げましたが、事業部と情シスという関係性の場合も同様と考えられます。
ユーザー体験が収益に直結する
こちらも前述の通りですが、ユーザー体験の良し悪しがダイレクトに収益に直結するのが小売です。PCだけでなくモバイル端末内のブラウザ、モバイルアプリ、セルフレジやPOSなどユーザー側の利用環境も多様化していますので、バックエンドのサービスが想定通り動いていればユーザーが満足して使っているとは限りません。
ユーザーの実際の体験やユーザーの利用環境を自ら把握することができれば、ユーザーに聞かないとわからない・ユーザーにリトライや再インストールを強要する・再現できず泣き寝入りしてしまう、という問題から解放されユーザー体験を向上させていく手を打つことが可能になります。
まとめ
今回は、オブザーバビリティ予測レポートの中で小売業界に特化したデータを抽出した『小売業界におけるオブザーバビリティの現状』レポートを読み解いてみました。依然として重大障害が多く、解決に時間がかかっている現状を鑑みるとサービス全体の観測性を獲得していくことが課題であることが分かりました。
ユーザー体験の向上がドライバーとなっている兆候もみられましたので、一消費者として今後サービスのユーザー体験がよくなっていくことに期待したい思います。
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