Tensorflowのブロードキャストを無効化する方法
残念ながら、TensorFlow にブロードキャストを完全に無効化するグローバル設定は用意されていません。
しかし、演算の直前に「形状がまったく一致している」ことをチェックすることで、
実質的にブロードキャストを防ぐことができます。主な方法を2つご紹介します。
1. 動的(ランタイム)チェック
tf.debugging.assert_equal
を使って、
実際に演算を行う直前に形状を比較し、異なっていたらエラーにする方法です。
import tensorflow as tf
a = tf.constant([[1, 2, 3],
[4, 5, 6]]) # shape=(2,3)
b = tf.constant([10, 20, 30]) # shape=(3,)
# 演算前にランタイムでチェック
with tf.control_dependencies([
tf.debugging.assert_equal(tf.shape(a), tf.shape(b),
message="Shapes must match exactly")
]):
c = tf.add(a, b) # ここで異なる shape を検知してエラーになる
- メリット:動的に shape を検証できるので、データ依存のパスでも確実にチェックできる。
- デメリット:実行時オーバーヘッドがある(assert が走る分だけ少し遅くなる)。
2. 静的(ビルドタイム)チェック
Tensor オブジェクトの持つ .shape
(TensorShape
)を使い、
グラフの構築時/tf.function
のトレース時にチェックする方法です。
import tensorflow as tf
@tf.function
def strict_add(a: tf.Tensor, b: tf.Tensor) -> tf.Tensor:
# ビルド時に static shape を比較
a.shape.assert_is_fully_defined()
b.shape.assert_is_fully_defined()
if a.shape != b.shape:
raise ValueError(f"Shape mismatch: {a.shape} vs {b.shape}")
return a + b
# 使い方
x = tf.zeros((3,4))
y = tf.ones((3,4))
z = strict_add(x, y) # OK
y2 = tf.ones((4,3))
z2 = strict_add(x, y2) # ビルド時に ValueError
- メリット:グラフの構築時に不整合を検出できるので、デバッグが早い。
-
デメリット:
TensorShape
が「不明(None 含む)」だとチェックできない場合がある。
そのほかのテクニック
-
tf.ensure_shape
a = tf.ensure_shape(a, [None, 3]) b = tf.ensure_shape(b, [None, 3])
で「このテンソルは必ず
(?,3)
という形である」と宣言し、違えばエラーにできます。 -
Tensor.set_shape()
a.set_shape((2,3)) b.set_shape((2,3))
でビルド時に強制的に形状を固定できます。
-
input_signature
を使ったtf.function
@tf.function(input_signature=[ tf.TensorSpec(shape=(None,3), dtype=tf.float32), tf.TensorSpec(shape=(None,3), dtype=tf.float32), ]) def f(a, b): return a + b
こうすると「必ず
(?,3)
同士」のみがトレース対象になり、異なる形状を渡すと呼び出し時点でエラーになります。
まとめ
- グローバルにブロードキャストをオフにする仕組みはない
- 演算前に明示的に shape チェックを入れる ことで、結果的にブロードキャストを防ぐ
-
tf.debugging.assert_equal
(動的)/TensorShape.assert_*
(静的)/input_signature
のいずれかを選んで使ってください。
このように「自分でチェックを入れる」形が現在の TensorFlow での推奨パターンです。