概要
2025年6月23日に開催されるFigma Config 2025はどうだった?現地参加者たちを招いたRecapイベント - connpassで発表する内容を記事化したものです。
発表時はスライドを使っていますが、記事として読みやすいよう大半をMarkdownに書き直しています。
導入
最近、こんな相談をもらうことがあります。
「そろそろFigmaのアップデートについていけなくなっています。どうしたらいいでしょう?」
でも実は、そもそもすべてのアップデートについていくような時代じゃなくなりつつある、というのが持論です。
ややもするとネガティブな内容に映るかもしれませんが、決してそういう訳ではありません。
1人の人が、1つの職能の中だけで、すべて網羅できる範囲には収まりきらなくなっている。
つまり、ツールとして次のステージに進んだ(あるいは進みつつある)というニュアンスです。
ではなぜそう感じたのかと、その変化によって私たち自身はどう変わっていくのかの予想をお伝えします。
1点注意として、今「予想」と表現した通り、私が勝手に思っていることが多分に含まれています。
あくまで、歴史の流れや他のサービスからのアナロジー、これまでのFigmaの傾向からの予想である点にご注意ください。
Figma自体の歴史
はじめに、Figmaの歴史を簡単に振り返ってみましょう。
時期 | 機能・サービス | ターゲット層 | 詳細 |
---|---|---|---|
2016年 | Figma正式リリース | デザイナー | リアルタイム協働デザインツール。UIデザインとプロトタイピング機能 |
2018年 | Libraries | デザイナー | 再利用可能なコンポーネントとデザインシステム構築機能 |
2019年 | Auto Layout | デザイナー | レスポンシブデザインを効率化するレイアウト機能 |
2021年 | Variants | デザイナー | コンポーネントの状態管理とバリエーション作成 |
2021年 | FigJam | デザイナー・企画・PM | オンラインホワイトボード。ブレインストーミングとアイデア創出機能 |
2023年 | Dev Mode | エンジニア | 開発者向けのデザインハンドオフ機能。コード生成、インスペクト機能 |
2023年 | Variables | デザイナー・エンジニア | デザイントークンとテーマ機能。デザインシステムの一元管理 |
2024年 | Code Connect | エンジニア | デザインシステムとコードの同期機能 |
2024年 | Figma Slides | デザイナー・企画・営業 | デザイナー向けプレゼンテーションツール。インタラクティブ発表機能 |
2025年 | Figma Buzz | マーケター | ブランド素材作成ツール。AI機能搭載、一括作成機能 |
2025年 | Figma Sites | ノーコード開発者 | デザインから直接Webサイトを公開する機能 |
2025年 | Figma Make | デザイナー・エンジニア | AIによるプロンプトからコード生成機能 |
2025年 | Figma Draw | デザイナー | より高い表現力でのグラフィック作成機能 |
2025年 | Grid Auto Layout | デザイナー | 2次元レイアウト機能でより複雑なデザイン対応 |
色々書きましたがおおまかにまとめると次のようになります。
時期 | 内容 |
---|---|
2016-2021年 | 主にデザイナー向け、コミュニケーションとしては他職種にも |
2023年-2024年 | Dev Modeでエンジニア向けに拡大 |
2025年- | マーケター、ノーコード開発者、グラフィックデザイナーなどへさらに拡大 |
この流れは、FigmaがUIデザインツールから多職種連携プラットフォームへと進化していることを示しています。
なぜこの展開が起きたか
デザインツールとして市場シェア1位を獲得したFigmaが、デザイン以外の領域に進出するのは至極真っ当な話でした。
実際の数字が物語っています:
- Dev Mode導入で売上が大きく成長(\$400M → \$600M)
- 開発者がユーザー全体の1/3
- 既存顧客からのNet Dollar Retentionが150%
つまり、新しいユーザー層の開拓が最も効率的な成長戦略だったのです。
追記:
ただし、上記の数値は公式の情報ではなく、外部のアナリストによる分析を参考にしたものです。また、記事の公開当初は数値が完全に正しいかのように記載してしまっておりました。申し訳ありません。
Adobeとの類似点:「全部は使いこなせない」問題
こうなってくると、Adobeと似た部分が出てきます。
Adobeは40以上のツールを展開していますが、例えばグラフィックデザイナーの目線からすると
- Photoshop + Illustrator: グラフィックデザイナーには必須
- After Effects: 使えなくても業務上問題が起きることは稀
- Lightroom: 高度な現像が必要なときだけ
同様にFigmaでも
- Figma Design: UIデザイナーには必須
- Dev Mode: エンジニアとの連携時のみ必要
- Draw: よりグラフィカルな表現が必要なときだけ
つまり、役割によって必要なツールやその必要度合いは大きく変わるという部分です。
これまでのFigmaは「デザイナーは全体的に必須」という感じもあり、それが冒頭の「そろそろ着いていけない」という不安につながっていたのでしょう。
ただ、もうだいぶ状況は変わっているんですよ、ということです。
またこの傾向はこれからも続くでしょうし、なんなら加速していくまであるでしょう。
「どこまで使えるべきか」の見定めが重要
重要なのは、自分の役割に応じた適切な範囲を見定めることです。
職種別の推奨習得範囲
例えば職種ごとにおおまかに整理するならこのようになります。
職種 | 必須 | 推奨 | 状況次第 |
---|---|---|---|
UIデザイナー | Design | FigJam, Dev Mode基礎, Draw | Buzz, Make, Sites |
エンジニア | Dev Mode | Design基礎, FigJam | Make, Sites |
マーケター | Buzz | Design基礎, FigJam, Slides | Make, Sites |
企画・PM | FigJam | Design基礎, Slides | Buzz, Make |
キャリアチェンジ・ステップアップ時の習得戦略
現在の職種だけでなくキャリアの方向性も考慮するとさらに細かく分けられます。
キャリアチェンジパターン
-
マーケター → UIデザイナー:
- Buzz習得 → Freeform Design習得 → Structured Design習得の段階的学習
-
UIデザイナー → デザインエンジニア:
- Design全体理解 → Dev Mode習得 → Make活用で実装スキル向上
-
エンジニア → プロダクトマネージャー:
- Dev Mode → Design理解 → 全体俯瞰スキル
ステップアップパターン
-
ジュニアデザイナー:
- Freeform Design習得 → Structured Design習得 → 必要に応じてDev Mode基礎
-
シニアデザイナー:
- Design機能全体理解 → チーム指導のための他ジャンル機能理解
-
デザインリード:
- 戦略的判断のための各機能の位置づけ理解
マネージャー・先輩の指導責任
本人の見極めも大事ですが、先輩や上司、マネージャーが適切に道筋を示すことも同じく重要です。
指導時のポイント
-
現在の業務に必要な機能の明確化
- 「今の仕事で使わない機能は後回しでいい」と明示する
-
キャリア目標に応じた学習優先度の設定
- 「デザインエンジニアを目指すならDev Modeは必須、でも今は基礎から」
-
チーム全体での役割分担の最適化
- 「Designはあなた、Dev Modeは○○さんが主担当」
ビジネス側への情報伝達戦略
開発・デザイン職として、どのレイヤーのビジネス職にどこまで伝えるかも重要な判断です:
対象 | 伝えるべき内容 | 伝えなくていい内容 |
---|---|---|
経営層 | 新機能がもたらすビジネス価値 | 機能の操作方法・技術詳細 |
プロダクトマネージャー | 機能の可能性と制約 | 実装の詳細プロセス |
営業・マーケティング | 顧客への訴求に関わる内容 | 内部ワークフローの変更点 |
他部署の担当者 | 協業に必要な最小限の知識 | 専門的な機能の詳細 |
まとめ
- 現在のFigmaUIデザインツールというより多職種連携プラットフォーム
- 「全部を網羅しよう」ではなく「自分と周囲に必要な部分を見極めよう」
冒頭の「Figmaのアップデートについていけない」という相談への答えは、「全部についていく必要はない。
自分の現在地と目指す方向を明確にして、必要な部分を計画的に選択しよう」 ということを私からのアンサーとして、以上でLTを終わります。
ご清聴ありがとうございました。