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アジャイルはアルパインスタイル、ウォーターフォールは極地法だった

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はじめに

私の趣味は登山です。山を歩いていると、無心に黙々と歩くこともあれば、逆に仕事のことを深く考えて歩くこともあります。

ある時、ふと考えました。
「今の開発現場では『ウォーターフォールは古くて、アジャイル一択』っぽくなっているけど、なんでなんだろう?」

そんなことを考えているうちに、ある意外な事実に気づきました。

「あれ、この構造って……登山の世界でも全く同じことが起きているじゃないか!」

登山は一見、山頂を目指すシンプルな行為に見えて、そのアプローチには思想に基づいた複数の流派が存在します。リスクをどう捉え、どう対処するかが手法によって全く違うのです。今回は、登山における「手法の進化」と「ソフトウェア開発の歴史」の共通点についてお話しします。


2つの開発手法と2つの登山の形

本日のテーマは、以下の2つの対比です。

開発手法 登山スタイル 特徴
ウォーターフォール ⛰️ 極地法 大規模・計画重視
アジャイル ⛰️ アルパインスタイル 少数精鋭・スピード重視

それぞれ詳しく見ていきましょう。


ウォーターフォールと極地法

極地法とは?

ヒマラヤ・南極などの極地探検で用いられる伝統的な登山スタイルです。

  • ベースキャンプを建設し、C1, C2...と前進キャンプを順次設営
  • 大量の物資と人員を投入
  • 固定ロープによるルート工作を行い、少しずつ山頂に近づく「包囲戦術」

これらは、まさにウォーターフォール開発そのものです。両者には以下の4つの共通点があります。

共通点①:巨大な事前計画

  • ウォーターフォール: 要件定義書や設計書が必須。全工程の詳細な計画立案を行う
  • 極地法: 数ヶ月〜数年がかりの偵察と計画。食料、装備、人員計画

共通点②:直線的で段階的なプロセス

  • ウォーターフォール: 設計が終わらないと実装に進まない。実装が終わらないとテストに進まない。
  • 極地法: C1が安定しないとC2への物資輸送は始まらない。段階的な高度順応と前進。

共通点③:大規模チームと専門分化

  • ウォーターフォール: PM, PL, SE, PG, QAなど役割が明確に分化されている。
  • 極地法: 登山隊長、アタック隊、ルート工作隊、シェルパ、コックなど専門分化されている。

共通点④:変化への脆弱性

  • ウォーターフォール: 途中の仕様変更に対応しづらく、手戻りコストが大きいです。
  • 極地法: 天候の急変やアクシデントにより、全体計画が大きく破綻するリスクがあります。

アジャイルとアルパインスタイル

アルパインスタイルとは?

ベースキャンプから山頂まで、一気に登り切るスタイルです。

  • 固定ロープや前進キャンプをほぼ設営しない
  • 「Fast & Light」が信条
  • 少人数での高速登攀

これは、現代のアジャイル開発と驚くほどリンクします。

共通点①:イテレーションと継続的な前進

  • アジャイル: 短いスプリントで「動くもの」を少しずつ作る。継続的なデリバリー。
  • アルパイン: キャンプ設営で停滞せず、常に登り続ける

共通点②:自己組織化された小さなチーム

  • アジャイル: 職能横断的な少人数チームが自律的に動く
  • アルパイン: 全員が高度な技術を持つパートナー(2〜3人)で、全員が意思決定に関わる

共通点③:変化への迅速な対応

  • アジャイル: 顧客のフィードバックを受け、次のスプリントですぐに仕様変更に対応
  • アルパイン: 天候やルートの状況をその場で判断し、即座にルート変更や撤退を決定

共通点④:"実質的な価値"を重視

  • アジャイル: 包括的なドキュメント(準備)よりも、顧客にとって価値のある「動くソフトウェア」を重視する。
  • アルパイン: 巨大なキャンプ設営やルート工作(インフラ)よりも、「いかに困難な壁に挑んだか(登攀のスタイル)」そのものに価値を置く。 ※『その壁を、自分たちの技術でどう攻略したか』というプロセスと結果が一体になって価値判断されます。

リスクマネジメントの哲学:「準備」で守るか、「速度」でかわすか

両者の最大の違いは、実は「リスクをどう捉え、どう対処するか」という哲学にあります。

1. 極地法・ウォーターフォールのリスク対策

「不確実性を事前に潰し、物量と時間で安全を買う」

極地法では、山という過酷な環境(リスク)に対し、圧倒的な物量と人員で「環境そのものをコントロールしよう」と試みます。

  • リスクの捉え方: 事前に予測できるリスクは排除する
  • とっている手段:
    • 大量の物資(冗長性): 悪天候で停滞しても生き延びられる食料と燃料を用意する。
    • 固定ロープ(インフラ整備): 安全に通れる道を先に作る。
    • 段階的なキャンプ設営(フェーズ管理): C1ができなければC2には行かない。安全地帯を確実に確保する。

これはソフトウェア開発で言えば、「詳細設計書」「厳格なレビュー」「十分なバッファ」にあたります。リスクを「準備」によってコントロールしようとするアプローチに似ています。

2. アルパインスタイル・アジャイルのリスク対策

「危険地帯にいる時間を減らし、変化即応で安全を確保する」

一方、アルパインスタイルには「Speed is Safety(スピードこそが安全である)」という格言があります。
雪崩や落石のリスクがある場所(危険地帯)に長時間滞在すること自体がリスクを高めるため、
「さっさと通り過ぎる」**ことが最大の防御策になるのです。

  • リスクの捉え方: リスクは「時間の経過と共に増大するもの」
  • とっている手段:
    • 装備の軽量化: 重い荷物は行動を遅くする。必要十分な人員・装備に絞ることで速度を上げる
    • 個人のスキル依存(自律的チーム): 現場の判断で即座に撤退やルート変更を行う
    • 一気に登る: 危険箇所にいる時間が長くなれば事故が発生する確率も上がる。天候などの条件が変わる前に一気に登る。

結局、どちらが優れているのか?

結論から言うと、優劣ではなく「適材適所」です。

ウォーターフォール / 極地法が向いている場面

  • 目標が巨大で、未知の要素が多い(例:金融系システム、エベレストの人類初登頂、火星への有人飛行)
  • リスクを物量でカバーしたい
  • 確実性が最優先される領域

アジャイル / アルパインスタイルが向いている場面

  • 技術的に困難だが、プロセスが見えている(例:新規Webサービス、難関ルートのスピード登攀)
  • スピードと効率性が求められる
  • 環境の変化に柔軟に対応する必要がある

まとめ

ウォーターフォールと極地法、アジャイルとアルパインスタイルは、リスクとリソースの管理哲学において、驚くほど似ているという話をしてきました。

次回、開発中に急な仕様変更(悪天候)が起きたら、イライラする代わりにこう考えてみてください。 「なるほど、今はアルパインスタイルが試されている局面だな」と。

そう思うだけで、困難なプロジェクトも少しだけエキサイティングな冒険に変わるかもしれません……🫠


(おまけ)もっと深く知りたい方へ:おすすめ登山YouTuber

今回の話に登場した「アルパインクライミング」の世界を、よりリアルに感じられるおすすめのYouTubeチャンネルを紹介します。休憩がてらにぜひご覧ください。

YUDAI SUZUKI Climber

日本のトップクライマー。海外の未踏峰や未踏ルートに挑戦しています。とにかく映像が美しく、カッコいいです。

山菜採りオンライン

大学山岳部出身の3人が国内外のバリエーションルートの様子を配信しています。絶対山菜ないだろ!って思うような険しい山に登って下山後に「今日も山菜取れなかった〜」とボケてます。

THUNDER BIRD HILLS

編集が凝っていて、メンバーの個性が光っています。完全ドキュメンタリー形式で、意思決定の過程がよくわかります。

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