こんにちは。
博報堂テクノロジーズでデータサイエンティストをしている児玉壮平です。普段は、リスティング広告の広告文自動生成やその評価などの、自然言語処理(NLP)技術の研究開発に取り組んでいます。
今回は、2025年5月から6月にかけて、弊社とソフトバンク株式会社で共催されたハッカソンに初めて参加し、最優秀賞を受賞したことについてご紹介します。
福島の魅力をAIで伝えるハッカソン ~画像生成 × レコメンドのWebアプリ開発の軌跡~
1. ハッカソンの概要
テーマ「福島テレビコンテンツデータ×AIを活用して福島の魅力を伝える」
本ハッカソンはソフトバンク株式会社(SB)と株式会社博報堂テクノロジーズ(HT)の共催で、2社のコラボレーションによって新たなアイデアを創出し、データ・AI活用の可能性を実証する目的で開催されました。
さらに、福島テレビも協力してくださり、地域発展への貢献も目指しています。
福島の人口減少率は全国で7番目に高く、特に若い女性の流出が深刻であり、県内に残る未婚の女性一人に対して未婚の男性が1.35人と、男女比の不均衡は全国で最も大きいです。
そこで、福島テレビは番組内で市町村ウィークというコーナーを設け、県内の魅力を発信し、地域活性化に取り組んでいます。
しかし、現状では市町村ウィークは高い年齢層には高い支持を得ているものの、若年層にはあまり浸透していないという課題があります。
このハッカソンを通じて、市町村ウィークの若年層への浸透や福島の魅力を伝える新たな手法を模索し、地域活性化に寄与することが期待されています。
スケジュール
- Day1(5/16):HTのオフィス(赤坂)にて顔合わせとアイデアソン
- 開発期間(5/17~6/11): 5/26, 6/2でオフラインミーティングが設定
- Day2(6/12):SB本社(竹芝)にて最終発表および懇親会
提供データとツール
提供されたデータは、福島テレビから市町村ウィークの動画データ、HTから3年分のキー局の番組メタデータです。また、SBからはTASUKIというRetrieval-Augmented Generation(RAG)向け非構造データ整理・画像アノテーションツールを提供いただきました。さらに、$400分のAWSクレジットが提供されるなど、充実したツールが利用可能でした。成果物はWebアプリ、動画生成、データプラットフォームなど形式は自由で、とにかく「福島の魅力」を伝えることが求められます。
2. 参加のきっかけと目的
私は学生時代の研究でも業務でもAI関連の実装が中心であり、技術領域が限定的だと感じていました。
そんな中、5月初旬に社内Slackでハッカソン開催の告知があり、所属しているチームのリーダーから「参加してみないか」と声をかけられました。
これまでにハッカソンへの参加経験はなく、参加への不安もありましたが、「実務では得られない何か」を学べるかもしれないと思い、参加を決意しました。
3. 初日のアイデアソン
初日は、博報堂テクノロジーズのオフィスで行われ、運営による全体説明の後、福島テレビ様から福島県の魅力と課題に関するプレゼンテーションがありました。その後、各チームに分かれてアイデアソンが開始。
私が所属したチームCでは、
「若者やインバウンド観光客に向け、日本酒と会津漆器の魅力をテクノロジーで強化・発信する」
というアイデアにまとまりました。
福島の日本酒は、全国新酒鑑評会での評価で、全国で最も多くの金賞受賞酒蔵を輩出するほどの実力を持っていますが、その魅力が広く知られていない現状に着目しました。さらに、日本酒は若年層や海外からの観光客にも人気が高く、会津漆器などの伝統工芸品と組み合わせることで、新たな価値創造ができ、福島への関心を高めることができると考えました。
アイデアソンの初盤は活発に意見を交わすことができましたが、後半は議論のペースに追いつくのが難しく、もっと迅速に状況把握して意見を述べられるスキルの必要性を痛感しました。
4. 開発フェーズ(1ヶ月間)
技術スタックと役割分担
開発期間中は週1でオフラインミーティングやり、話し合いの中で自然と役割分担が決まり、開発が進みました。
- AWSインフラ構築:1人
- バックエンド:2人
- データ分析:2人
- フロントエンド&一部バックエンド連携:1人(自分)
私はフロントエンド全般を担当。また、バックエンド担当の方からもらったAI機能をアプリに組み込めるように実装しなおしました。フロントはTypeScript+Reactで実装。学生時代にTypeScriptで簡単なタイピングゲーム作ったことはありましたが、本格的なWebアプリ開発は初めてだったので、「useStateって何?」「propsってどう流れてんの?」みたいな状態からスタート。そこから、GitHub Copilotの力を借りながら、Reactのコンポーネント設計や状態管理を学びつつ、フロントエンドの実装を進めました。
途中でAWS連携用のコードをうっかり消してエラー出して、AWS担当の人に助けてもらったりもしましたが、なんとか形にできました。
バックエンドは Python + Flask を使用。普段の業務ではAI実装を中心に作業しているため、コード自体はすぐに理解できたものの、フロントエンドとのAPI連携においてはCORS設定やエンドポイント設計で苦戦。CORSエラーの解決には、Claude 4 Sonnetの助けも借りながら一つずつ問題を解決していきました。
また、データ分析担当が市町村ウィークの動画データやアーカイブデータ、番組メタデータを細かく分析・整理してくださり、アプリの機能強化に活用しました。
CI/CD環境はAWS担当が整備してくれて、GitHubでPR出すとGitHub Actions経由で自動デプロイされる仕組みにしてくれました。実装は担当してませんが、コードを読むことで、AWSの構成もなんとなく分かるようになって、いい勉強になりました。
プロダクト概要
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日本酒レコメンド機能
ユーザーにいくつかの質問をし、その回答から好みに合った日本酒を,Retrieval-Augmented Generation(RAG)という大規模言語モデルと外部データへの検索を組み合わせた技術で推薦します。取り扱い店舗や酒蔵へのリンクも表示し、購入への導線も確保しています。
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会津漆器自動デザイン機能
画像生成AIで、ユーザーの好みを反映したオリジナルの器(ぐい呑み)デザインを提案。Blenderという3DCG制作ソフトを用いて、器の3Dモデルも作って、生成したデザインを印刷して体験教室で自分だけの会津漆器を作るという使い方も想定しています。
この2つの機能をひとつのアプリに統合し、「自分好みの日本酒を自分好みの器で楽しむ」という新たな体験を提供することで、福島の伝統と最新技術の融合を図りました。
開発上の反省と学び
開発が後半に差し掛かるにつれ、会議での発言やSlackでのコミュニケーションが活発になりましたが、前半ではコミュニケーションが不足しており、タスクの進捗や課題の共有が不十分であったりしました。
その影響で、一部メンバーのタスク量や稼働量が少なくなってしまっていました。初めからタスク管理の仕組みを導入したり、コミュニケーションを積極的に取っておけば、もっとスムーズに進められたかなと思っています。
ちょっとしたハプニング
画像生成AIの部分では、Hugging Face経由でStable Diffusionを呼び出してfinetuneし、そのモデルをEC2に配置することで実現していたのですが、チームメンバーの一人がせっかくだからAWSのBedrockでAmazon Nova Canvasのfinetuneも試してみようということで、BedrockのAPIを使って画像生成を試みました。
ところが、これが予想以上にコストがかかってしまい、なんと運営から頂いていた$400分のAWSクレジットを一気に全部使い切ってしまい、コストアラートが発生してしまいました。
Slackで「予算を超過しています」と運営の方に軽く注意され、チーム内でも「やってしまった」と反省の声が上がりました笑。
(幸い、既に発表用のプロダクトは完成していたので、最終発表には影響しませんでした笑)
5. 最終発表と受賞
最終発表は、SB本社で行われました。
福島テレビ様など複数のメディアが取材に入ると事前に聞いていましたが、会場に入ってみると想像以上に多くの人とカメラがあり、非常に緊張しました。
最初に運営からの改めてハッカソンの概要を説明、続いて審査員(HT2名、SB2名、福島テレビ1名、AWS1名)の紹介とコメントがありました。余談ですが、会社によって役員の方の色が結構違っていて、その会社のイメージが反映されていて面白かったです。
私たちの発表順は2番目で、タイトルは
「AIが作る、私の酒と器 〜福島の日本酒 × 伝統工芸 × あなたの感性〜」
にしました。
他のチームもそれぞれユニークなアイデアを展開していて、
- 名所を擬人化したマッチングアプリ
- AIキャラと会話して地元の人を知るアプリ
- カードゲーム風観光活性アプリ
- 自動ショート動画投稿プラットフォーム
など、どれもレベル高くてとても面白かったです。
🎉 最優秀賞(1位)を受賞!
審査結果の発表では、私たちのチームが見事1位を獲得しました!
選出されて本当に嬉しかったので、審査員の方のコメントをよく覚えていないのですが、「福島の課題をよく理解していること」「福島の魅力を引き出したこと」「技術的な完成度」「実現可能性」などを評価していただいた記憶です。
6. 優勝の瞬間とその後
発表後の懇親会では、審査員や他チームのメンバーとの交流を通じ、各チームの技術構成や開発手法について情報交換ができたことも大きな収穫となりました。
さらに、優勝チームとして社内報、新聞、Webメディアのインタビューを受け、自身の言葉で体験を伝える貴重な機会となりました。
7. ふり返りと今後の展望
今回のハッカソンを通じ、以下のような多くの学びを得ることができました。
- 新たな技術領域への挑戦
- AWSやReactによるUI開発の初挑戦は戸惑いもありましたが、こうやって新たなことに挑戦することで知識・技術の幅を広げられました。
- チームワークの大切さ
- 異なるバックグラウンドを持つメンバーと集まって作業することで、一人では全く想像できないようなプロダクトを作ることができました。改めてチームで協働して開発をする良さを感じました。
- 技術から価値創造への視点
- 単に技術を作るのではなく、どのようにしてその技術がユーザーに届き、価値を生み出すかを想定して開発することの重要性を学びました。特に、福島の地域課題を解決するための技術活用は、社会貢献にもつながると感じました。
今回のハッカソンへの参加は、普段の業務では味わえない貴重な経験と学びをもたらしてくれたと思っています。皆さんもぜひ、未知の領域に飛び込み、新たな価値創造に挑戦してみてください!
8. 余談
今回のハッカソンは博報堂テクノロジーズとソフトバンク、福島テレビの共催だったこともあって、いろんなメディアに取り上げていただきました。自分が関わったものがこうやって紹介されるのはとっても嬉しいですね。