最近、IT業界における「心理的安全性」の重要さは広く知られるものとなってきました。
一方で、心理的安全性が誤解・誤用されるケースも見聞きすることもあります。
よくあるパターンは、「心理的安全性」とは「居心地の良さ」である、という認識でしょうか。なんとなく似た意味にも感じますが、実際はまったく別物です。
しかし上記の違いを説明するのはちょっと大変なため、『心理的安全性 最強の教科書』を頼りながら要点を押さえてみようと思います。
心理的安全性は「ゴール」ではない
まず心理的安全性とはなぜ必要なのでしょうか。本書は次のように説明しています。
もうひとつ、ありがちな誤解があります。それは職場の心理的安全性を高めることを「ゴール」だと考えてしまうことです。もちろんマネジャーにとって、職場やチームの心理的安全性を高めることは大事ですが、心理的安全性はあくまで組織の生産性を高めるための手段のひとつであり、ゴールではないということです。1
(強調は筆者)
仮に心理的安全性が高くあっても、それだけで評価されることはありません。「良いプロダクトをつくりたい」というビジョンや目標を達成するために心理的安全性を高める、という順番です。
一方で居心地の良さはそれ自体がゴールになり得るもので、生産性に関連する要素ではありません。居心地が良いから成果が出せるという訳ではない、ということです。
心理的安全性は「意見の違い」を恐れない状態
もうひとつの重要な観点は、「意見の対立」というのがキーワードです。同じく本書を引用してみます。
心理的安全性は、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン氏が最初に提唱した概念で、「対人関係においてリスクのある行動を取っても、『このチームなら馬鹿にされたり罰せられたりしない』と信じられる状態」を意味します。
これに加えて僕なりの定義を紹介すると、心理的安全性とは「メンバーがネガティブなプレッシャーを受けずに自分らしくいられる状態」「お互いに高め合える関係を持って、建設的な意見の対立が奨励されること」です。2
心理的安全性においては意見の対立は推奨されます。しかし居心地の良さにおいては推奨されない、というより「対立が起こらないような関係性のメンバーと一緒にいる」ことが重要です。
意見の対立は、会社においてはかならず存在するもの、いや存在すべきものです。3
だからこそ意見の対立に対してネガティブな気持ちを持たずに済むことは非常に重要である、と私も同意します。
まとめ
心理的安全性の定義をあらためて確認してみると、それは「居心地がよい」と表現するよりも「必要以上に対立を回避しなくてよい」と表現すべきだと感じました。
「心理的安全性」というワードの意味があいまいであったりモヤッとしたりしたときは、この違いをまず押さえてみると少し前に進むかもしれません。
参照
- ピョートル・フェリクス・グジバチ『心理的安全性 最強の教科書』
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ピョートル・フェリクス・グジバチ『心理的安全性 最強の教科書』 、pp.4-5. Kindle版. ↩
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同、pp.3. Kindle版. ↩
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この意見の背景として、「つながり」でかんがえる多様性という記事も書いています。 ↩