はじめに
今回の練習の目的
今回、業務を理解するための練習として、ChatGPTを相手にヒアリングと業務モデルの作成に取り組みました。
目的は、自分の想像で捉えていた業務と、ヒアリングを通じて分かった業務に、どのような違いがあるかを確かめることです。
システムで解決する方法を考える前に、現場では誰が何をしていて、どのような判断や困りごとがあるのかを理解することを意識しました。
題材と練習の進め方
題材は、フードデリバリーに出店している個人経営の中華料理店です。私がシステム開発者役、ChatGPTが店主役となり、次の順番で進めました。
- 自分の想像で、ヒアリング前の業務モデルを描く。
- 店主役のChatGPTに、約20分間ヒアリングする。
- 聞き取った内容をもとに、業務モデルを描き直す。
- 「答え合わせ」と入力し、本当の原因と有効だった質問を確認する。
- ヒアリングの内容と、描いたモデルを振り返る。
ChatGPTには、店主として具体的なエピソードを交えて答え、聞かれていないことや原因を自分から話さないように依頼しました。
ヒアリング前:想像で業務モデルを描いてみた
※モデルの描き方が分からなかったので、事前に参考としてAIに、「人・もの」「関係」「ルール」「不明点」で構成すると良いと教えてもらった上で描きました。
フードデリバリーに関わる人・ものを洗い出す
最初に、フードデリバリーに関わる「人・もの」を、自分の知っている範囲で挙げました。
- 利用者
- お店・お店の人
- 配達員
- お店のメニュー
- 配達に使う車・バイク・自転車
- 商品を入れるバッグ
利用者として普段目にするものは挙げられましたが、お店の内部で行われている仕事までは、十分に考えられていませんでした。
注文から配達までの流れを描く
洗い出した人・ものをもとに、次の流れを図にしました。
利用者が注文する → お店が料理を作る → 配達員に渡す → 利用者に届ける
この時点では、注文を受けてから料理が届くまでの、大まかな流れを表現していました。
この時点では分からなかったこと
最初は「関係・ルール・不明点」を十分に挙げられず、分かる範囲で図を描きました。
振り返ると、特に次のような点が見えていませんでした。
- お店では、デリバリー以外にどのような仕事が同時に進んでいるのか。
- 調理・接客・配膳などを、誰が担当しているのか。
- 複数の注文が入ったとき、どのような基準で順番を決めるのか。
- 調理の完了と配達員の到着が合わないとき、何が起きるのか。
注文から配達までの流れは描けても、その流れを現場でどう回しているかは分かっていない状態でした。
ChatGPTを店主役にしてヒアリングしてみた
店主の悩みは「評価が下がって注文が減っている」
ヒアリングは、店主の次の悩みから始めました。
最近、評価が下がって注文が減っている。
具体的なレビューの内容を聞くと、「料理が冷めていた」「届くまでに時間がかかった」というコメントが目立つとのことでした。
そこから、注文が入ってから料理を渡すまでの流れや、忙しい時間帯、仕事の分担などを聞いていきました。
なお、ここで聞き取った内容は、実在する店舗を調査した結果ではなく、ChatGPTとのロールプレイ内で得た情報です。
質問を通じて見えてきた業務の実態
ヒアリングで聞き取れた主な内容を整理すると、次のようになります。
| 観点 | 聞き取れた内容 |
|---|---|
| 忙しい時間帯 | 18時半〜20時ごろ |
| 注文の重なり | 店内とデリバリーの注文が同じ時間帯に集中する |
| 人員体制 | 基本的に店主一人で対応し、家族が手伝うこともある |
| 店主の担当 | 仕込み、調理、接客、配膳、デリバリーの注文確認 |
| 注文の管理 | タブレットで確認し、頭の中で段取りを組み立てる |
| 優先順位 | 明確な基準はなく、目の前の店内のお客さんを優先しがち |
| 調理時間 | 単品の炒め物は5〜10分程度。セットや揚げ物、混雑時はさらに時間がかかる |
| 配達員との受け渡し | 配達員が来ても料理ができていない場合と、料理ができても配達員が来ていない場合がある |
| 人を増やす際の不安 | 費用だけでなく、教育の時間や、仕事を任せられる形に整理できていないこと |
| 温め直し | 品質が落ちる料理もあるため、積極的には行いたくない |
デリバリーの注文を受けたら、その調理だけに集中できるわけではありませんでした。店内の接客や配膳を並行して行いながら、調理の段取りも考えていました。
業務理解につながった質問
振り返って、業務の理解につながった質問を、趣旨が伝わる形で整理しました。
| 質問 | 分かったこと |
|---|---|
| 普段、注文を受けてから調理するまで、どう進めていますか? | タブレットと頭の中で注文や段取りを管理している |
| 注文が重なる時間帯はいつですか? | 問題が起きやすい時間帯がある |
| 調理や配膳は誰が担当していますか? | 店主一人に複数の仕事が集中している |
| 店内とデリバリーが重なったとき、何を基準に優先しますか? | 明確な基準がなく、店内を優先しがち |
| これまで人を増やそうとしたことはありますか? | 費用に加えて、教育や引き継ぎにも不安がある |
「何に困っていますか?」に加えて、普段の進め方や、忙しいときの判断を聞くことで、業務の実態が見えてきました。
ヒアリング後:聞き取った内容でモデルを描き直した
店内とデリバリーの注文が重なっていた
ヒアリング後のモデルには、「実店舗の注文」と「デリバリーの注文」を描き加えました。
ヒアリング前は、デリバリーの注文が入ってから配達されるまでを中心に考えていました。しかし、実際の設定では、同じ店主が店内とデリバリーの両方に対応していました。
デリバリーの業務を理解するには、同じお店で並行して行われている店内の業務にも目を向ける必要があると気づきました。
店主の判断や業務上の制約が見えてきた
モデルには、次の内容もメモしました。
- 店内とデリバリーの注文が重なると、店内を優先してしまう。
- 配達員が来る時間が分からない。
- これらが「冷めている」「遅い」という不満につながっているのではないか。
「店内を優先しがち」という話は、正式に決められたルールというより、現場での判断傾向です。また、配達員の到着時刻が分からないことは、段取りを考えるうえでの不確実さとして捉えました。
流れに加えて、仕事の順番を左右する判断や制約も、業務を理解するための情報になりました。
ヒアリング前後のモデルを比較する
前後のモデルの違いを整理すると、次のようになります。
| 観点 | ヒアリング前 | ヒアリング後 |
|---|---|---|
| 注文の捉え方 | デリバリーの注文を中心に考えていた | 店内とデリバリーの2種類の注文を捉えた |
| お店の動き | 注文を受けて料理を作る | 注文が重なると、店内を優先する |
| 配達員との関係 | 料理を渡して届けてもらう | 到着時刻が読めず、調理完了とのずれが生じる |
| 問題への理解 | 注文から配達までの流れを描いていた | 業務の進め方と低評価のつながりを考えるようになった |
最初の図に「店内の注文」が加わったことで、デリバリーの対応が遅れる背景を考えやすくなりました。
原因の仮説と改善案を整理
自分が考えた原因の仮説
ヒアリングを通じて、私は次の仮説を考えました。
店内とデリバリーの注文が重なる時間帯に、店主一人では対応しきれないことが背景にあるのではないか。
店内のお客さんを優先すると、デリバリーの対応が後回しになります。また、調理の完了と配達員の到着が合わない場合もあります。
こうした状況が「遅い」「冷めている」という不満につながっているのではないかと考え、人を増やせれば、デリバリーにも対応する余裕ができるのではないかと思いました。
ただし、人員を増やすことでどの程度改善するかは確認できていません。注文の優先順位や段取りの管理方法、配達員との受け渡しについても、さらに確認する必要があります。
今回、AIが原因として設定した内容
今回の練習では、次の内容を原因として設定しました。
店内とデリバリーの注文が重なる時間帯に、店主一人では対応しきれていなかったこと。
ヒアリング中に挙がった改善案
ヒアリング中には、次のような改善案が挙がりました。
| 改善案 | 狙い・確認したいこと |
|---|---|
| 配達員の到着見込みを通知する | 到着に合わせて調理できるか。必要な情報を取得できるか |
| 店内とデリバリーの注文を踏まえて優先順位を示す | 調理順を判断する負担や迷いを減らせるか |
| アルバイトなどを増やす | 接客や配膳を分担できるか。費用や教育の負担に対応できるか |
| 業務の流れを整理する | 他の人に任せられる仕事や、判断基準を明確にできるか |
| 店で温め直す | 料理の品質を落とさずに対応できるか |
| 注文者向けに温め直しの案内を入れる | 食べる際の補助になるか。ただし、遅延や冷める原因自体は残る |
振り返ると、改善案を考える前に、どの仕事に時間がかかり、どこで対応しきれなくなっているのかを、もう一段掘り下げる余地がありました。
描いたモデルへのフィードバック
描いたモデルをChatGPTに見てもらうと、業務の流れに現場の判断や制約が加わった点に加え、図をより分かりやすくするためのフィードバックがありました。
以下は、描き直したモデルに対する追加の改善点です。現時点で、すべてを図に反映したわけではありません。
店主一人に仕事が集中していることを明示する
「お店」という表現だけでは、何人で、どの仕事を担当しているかが分かりません。
お店のそばに、次のような説明を書き足すと、今回設定した原因を読み取りやすくなります。
基本的に店主一人で、調理・接客・配膳・デリバリーの注文確認を担当する。
店内とデリバリーの注文が重なることに加え、それらを同じ人が処理していることも、図に表す必要がありました。
店内提供とデリバリーの流れを分ける
描いた図では、店内とデリバリーの両方の注文が、配達員に渡るようにも読めるという指摘がありました。
調理後の流れを、次の2つに分けると明確になります。
- 店内の注文: 店内のお客さんに提供する。
- デリバリーの注文: 配達員に渡し、注文者に届ける。
自分では区別しているつもりでも、図を見る人に同じように伝わるとは限らないと気づきました。
どこで、誰や何が待っているのかを分ける
「遅い」「冷める」という問題を考える際には、次の状況を分けて表現するとよい、というフィードバックもありました。
| 待ちが発生する場面 | 起きていること |
|---|---|
| 調理を始めるまで | 店内対応を優先し、デリバリーの調理開始が遅れる |
| 配達員が到着した後 | 料理が完成しておらず、配達員が待つ |
| 料理が完成した後 | 配達員が到着しておらず、完成した料理が待つ |
同じ「待ち」でも、発生する場所や待っている対象が異なります。
これらを分けると、どの工程を詳しく確認すべきかが見えやすくなります。ただし、それぞれが低評価にどの程度影響していたかは、今回のヒアリングだけでは分かりません。
今回の練習で学んだこと
想像だけでは見えなかった業務があった
最初は、フードデリバリーを「注文を受けて、料理を作って、届ける」という流れで捉えていました。
しかし、ヒアリングをすると、その裏では店内の接客や配膳も並行して進み、店主が状況に応じて仕事の順番を判断していました。
今回の練習で学んだのは、業務の流れに加えて、担当者や判断の仕方、同時に進んでいる仕事を知ることの大切さです。
最初に分からなかったことも、質問を通じてモデルに追加できました。モデルを描くことで、自分が理解できている部分と、まだ確認できていない部分を整理しやすくなりました。
聞き取った内容・仮説・改善案を分ける
振り返りでは、次の3つを区別することも大切だと学びました。
| 分類 | 今回の例 |
|---|---|
| 聞き取った内容 | 注文が重なると、店内のお客さんを優先しがち |
| 原因の仮説 | 店主一人で処理できる仕事量を超えているのではないか |
| 改善案 | 人員を増やす、注文管理や優先順位を見直す |
「店内を優先している」と聞けたことと、「人を増やせば解決する」と判断することの間には、まだ確認すべきことがありました。
今後は、聞き取った内容を根拠に仮説を考え、その仮説を確かめてから改善案を検討することを意識したいです。
【おまけ】フィードバックをもとにChatGPTが整理したモデル
自分が描いたモデルへのフィードバックとして、ChatGPTにもモデルを描いてもらいました。
以下は、ヒアリングで得た内容をもとに、担当者・判断・提供先・待ちを整理した図です。自分が練習中に描いたモデルとは区別して掲載します。
業務の流れと、店主に集中する仕事
実線は注文・料理の流れ、点線は仕事の進め方に関する補足です。
この図では、次の点を表しています。
- 店内とデリバリーの注文が、同じ店主の仕事につながっている。
- 店主は調理だけでなく、注文確認・接客・配膳・受け渡しも担当している。
- 調理後は、店内への提供と配達員への受け渡しに分かれる。
- 調理の段取りには、店内を優先しがちな判断が関わっている。
なお、家族が手伝うこともあると聞いていますが、ここでは基本的に店主一人で対応する場面を表しています。
料理と配達員の、どちらが待っているのか
配達員が待つ場合と、完成した料理が待つ場合は、異なる状況です。この図は、その違いを整理したものであり、実際に行っている判定作業を表したものではありません。
また、この図にある受け渡し前の待ちとは別に、店内対応によって「デリバリーの調理を始めるまでの待ち」が発生する可能性もあります。
それぞれの待ち時間や発生頻度、低評価への影響は、今回のヒアリングでは確認できていません。
このモデルから追加で確認したいこと
| 確認すること | 確認する目的 |
|---|---|
| 注文受付から調理開始までの時間 | 調理に取りかかる前に、どれくらい待ちがあるかを知る |
| 調理開始から完成までの時間 | 調理自体にかかる時間と、途中の接客などによる中断を確認する |
| 調理完了と配達員到着の時刻 | 料理と配達員のどちらが、どれくらい待っていたかを知る |
| 注文が重なったときの具体的な対応 | どの仕事を優先し、どの仕事が後回しになったかを知る |
| 忙しい時間帯の注文数と担当人数 | 店主一人では対応しきれないという仮説を確かめる |
モデルを整理することで、業務の説明に加えて、次のヒアリングで確認したいことも明確になりました。


