健康にダイエットするには?
個人的な話ですが今年の健康診断で、生活習慣病予防の動機付け支援の対象になってしまいました。(主原因は肥満傾向)
ちょうどタイミング良く、個人的にもダイエットに取り組み始めて2kgほどダイエットしたところだったので、渡りに船と減量プログラムを実施することにしました。目標は半年でマイナス3kgの減量です。
健康診断まで私がやっていたのは、摂取する糖質を減らしてその分脂質を食べて空腹感を感じないようにする、いわゆる糖質制限ダイエットという方法です。
糖質さえ減らせば脂質をいくら食べてもOKと聞いて、「はえー、それなら俺でもできそう」と思ってあまり内容を理解せずに始めてみました。
ですが、減量プログラムの食事療法の指導で、糖質もある程度摂るようにということと、動物性脂質を食べすぎないようにするように、と指導されました。
それまであまり理解せずに糖質制限ダイエットを試していたのですが、これを機にどういう食生活が良いのかちゃんと理解しておこう、と思って糖質制限ダイエットやその危険性についてネットで調べてみたのですが… 想像していたよりずっと理解が難しくて驚きました。
糖質制限を推奨している記事も、反対している記事も、人によって主張が矛盾しているように見えることが多く、またその主張の根拠が示されている場合でも、それが正しいのかどうかがよくわからない。エビデンスが示されていないこともあるし、何より主張する人は自分に都合の良い根拠だけを述べて論理展開しているように見えます。読んでも読んでも、「結局どうするのが正しいのか?」を自分の中で判断できない状態になってしまいました。
それでも、情報を集めていくうちになんとなくわかってきたのは、ダイエット手法について論じる記事の中には、長期的な問題解消を考えず、短期的な効果を求めているものや、体重以外への影響を考慮していない主張が多いということです。体重は落ちるけど、他の病気のリスクが増えてしまうということもありそうだと感じました。
いろいろな主張がありますが、どれも自分の主張に都合のいい部分だけを切り取って引用しているようなものに見えます。
私の求めている目標は、短期で大幅に減量することではありません。ゆるやかに減量するので構わないので、健康でいたいですし、一時的な減量ではなく長期間持続して減量していくダイエットを目指したいです。肥満を解消したいのは生活習慣病のリスクを下げるのが主目的なので、ダイエットの結果不健康になってしまうのは望むところではありません。
そこで、まず自分が達成したいことを具体的にリストアップしました。
以下の内容です。
達成したいこと
- 健康的に痩せる
- 目標体重: 半年でマイナス3kg
- 健康的かどうかは血液検査の数値が基準値内に収まっていることで判断する
数値の目標
- 血糖値が基準値内に収まっていること
- 悪玉コレステロールが基準値内に収まっていること
- 尿酸値が基準値内に収まっていること
現在の状態
- 体重 78.9kg。目標は75.9kg。
- 血糖値がやや高い (空腹時血糖 105mg/dl。目標は 99mg/dl以下)
- 悪玉コレステロール(LDLコレステロール)がだいぶ高い (155mg/dl。目標は 119mg/dl以下)
- 尿酸値がかなり高い (9.1mg/dl。目標は7.0mg/dl以下)
これらの数値を総合的に改善していくことが目標なので、なにかだけを達成できても他のものが悪化してしまうのでは意味がありません。そのために、一面的な見方だけから判断するのでなく、いろいろな面から判断して問題のないような食事内容、生活習慣を考えたいと思いました。
これを達成するために、システム思考をつかって栄養素やその影響などの要素を分析してみることにしました。
システム思考とは
システム思考を一言でいうと、実際に起こった現象/要素だけに注目するのではなく、その背後に存在する構造に焦点を当てる思考法です。
システム思考ではうまくいくパターンやうまくいかないパターンには、それぞれその結果をいつももたらす構造(システム)があると考えます。
なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方
目に見えることだけを見て対処しようとしてもうまくいかないとき、それは背後にある構造に効果のない手を打ってしまっているのかもしれません。システム思考は背後にある構造に注目し、その構造を変えるような意思決定をサポートします。
人体は様々な要素が関係しあう複雑な構造なので、システム思考での分析がうまく適用できるのではないか、と考えました。
ループ図
ループ図は、システム思考で構造の分析に利用する主要なツールです。
要素間のつながりに注目し、他の要素を強めるのか、弱めるのかといった関係を表現します。
今回の分析ではループ図を使って、要素間の関係を視覚化していきます。
まず、ループ図について順を追って説明していきます。
要素Aが強まれば強まるほど要素Bも強まるとき、ループ図では
と図示します。これは同時に、Aが弱まれば Bも弱まることも意味しています。
逆に要素A が強まるほど 要素Bは弱まるとき、
と図示します。このAとBの関係は、Aが弱まればBは強まることも意味します。
自己強化型ループ
要素間の関係はループ状になることがあります。
このとき、それぞれの要素が次に関わる要素を強め合い、強化され続けるループになります。
このようなループを自己強化型ループと呼びます。
例えば以下のような要素の繋がりがあるとします。
サッカーの練習をして上達していくと、サッカーの楽しさがわかってきて、なおさらサッカーの練習をするようになり、それが上達につながってさらにサッカーの楽しさがわかる…というようなどんどんと上達していく自己強化型の構造を示しています。
バランス型ループ
逆に、一定の範囲内で状態を維持するようなループもあります。
AはBとCを強めようとしますが、CがAを抑制するため、それぞれの値は一定の範囲内にとどまろうとします。
このような構造をバランス型ループと呼びます。
ループの中に逆の関係が奇数個あればバランス型ループになり、偶数個あれば自己強化型ループになります。
バランス型ループの例としては、以下のようなものがあるでしょう。
夜ふかしをつづけようとしても睡眠時間が足りないと疲労がたまり、夜ふかしを続けられないため睡眠時間は一定量取ることになる、という構造を表しています。
以上がループ図の説明です。
情報のソース
では、ループ図を使って、栄養素とその効果/影響について、個々にリストアップしていきます。
以下に挙げたダイエットに関する情報はネットで集めたものなので、それぞれの理由は私が理解できてないものも多いです。
間違った情報ができるだけ入らないように、情報元は厚生労働省のサイトに掲載されていたり、エビデンスがあるものを中心に集めるように心がけました。
健康、ダイエットに関わる栄養素や体に与える影響の関係
摂取が必要なエネルギー
人間は肉体を維持するために一定のエネルギーを摂取する必要があります。
エネルギーの摂取は3大栄養素である糖質、タンパク質、脂質のいずれか/組み合わせで摂取します。
摂取エネルギーが足りないとき、人体は栄養素を摂取するよう強く命令します。
この命令は生存本能に由来する命令なので、理性でこれに逆らうことは難しいです。
ただし、必要な量を摂取していればOKで、摂取する栄養素の割合は我々にも調整可能です。
糖質摂取
糖質を摂取すると、血糖値が上がります。
血糖値と糖尿病の関係
高血糖値の状態は血管に負担を与え、これが続くと糖尿病になります。糖尿病は血管を傷つけ、このため様々な合併症に進行します。
血糖値とインスリンの関係
人体には血糖値が増えるとインスリンが分泌されて血糖値を下げるという、血糖値を一定の範囲内に収めるバランス型ループが働いていますが、このループが機能しなくなると糖尿病になってしまう、といえるでしょう。
なぜ血糖値のバランス型ループが機能しなくなるかというと、インスリン抵抗性が高まってしまったとき、インスリンが血液中に分泌されていても糖を吸収しにくくなるためです(これが進行すると2型糖尿病に向かいます)。
インスリン抵抗性は、肥満体質のときに高まることがわかっています。
肥満になる原因にもインスリンが関わっています。
インスリンの効果は糖を細胞に取り込むことなので、血糖値を下げるだけでなく、糖を細胞に取り込んで筋肉や脂肪を増やす効果もあります。脂肪が増えると肥満につながり、結果としてインスリン抵抗性が高まることになります。
血糖値とインスリンにまつわるこれらの関係をループ図に表すと以下のようになります。
インスリンは血糖値を下げる効果を持つ一方、インスリン抵抗性を高めることを通じて、慢性的に血糖値を上げる遠因にもなってしまいます。糖尿病を避けるためにはインスリン抵抗性が高まる自己強化型ループが回らないように、そのループを弱めるような対策が重要です。
すい臓の負担
ところでインスリンを分泌しているのはすい臓です。血糖値を下げるためにはインスリンが適切に分泌される必要があります。すい臓に負担がかかるとインスリンが分泌されなくなるため、すい臓には負担をかけない習慣を作ることが大事です。
すい臓に負担をかける行動とは、アルコールの摂取、睡眠不足などの不摂生に加えて、血糖値が上昇して過剰にインスリン分泌されることもすい臓に負担をかけます。
インスリン以外に血糖値を下げるもの
糖質を摂取すると血糖値が上がりますが、このとき高すぎる血糖値にならないことが、すい臓に負担をかけないためには重要です。緩やかに血糖値を上げるのに効果があるのが、食事のはじめに食物繊維を食べることです。こうすれば血糖値が比較的上がらないこと(ゆっくりと血糖値が上がるようになり、ピーク値が低くなる)がわかっています。
また、食後の血糖値の上昇のピークは1〜2時間後なので、それまでに有酸素運動をして糖を細胞に取り込むことでも血糖値のピーク値を下げることができます。
筋肉とインスリン抵抗性
筋肉が増えると脂肪を効率よく燃焼できるようになります。
脂肪が燃焼して減少すると、インスリン抵抗性の減少(改善)に繋がり、慢性的に血糖値を下げることに繋がります(本質的な改善)。
タンパク質を摂取すると筋肉の増加に繋がります。筋肉が増加すると脂肪燃焼につながり、インスリン抵抗性の減少(改善)につながるため、タンパク質を多めに摂ることは健康に良いと言えるでしょう。
栄養素、運動と筋肉の関係
糖質が体内から欠乏し、飢餓状態にあるときには筋肉は糖質を燃焼のエネルギーに使うことができないため、筋肉自身や脂肪を分解して糖に変換し、エネルギーとして利用します。
脂肪を分解することは短期的にはダイエットに効果がありそうですが、筋肉も減ってしまうため、長い目で見ると脂肪の燃焼効率は下がってしまいます。
有酸素運動は脂肪を燃焼させます。また、有酸素運動や筋トレは筋肉をつけることを期待できます。筋肉が増えると脂肪を効率よく燃焼させます。これによってインスリン抵抗性を減らせます。
悪玉コレステロール
悪玉コレステロール(LDLコレステロール)値が高くなると、動脈硬化に繋がり、脳、心臓の病気の原因になります。
悪玉コレステロール値が増えすぎないようにすることが重要です。
悪玉コレステロールを増加させるのはストレス、加齢、アルコール、喫煙、動物性脂質 などです。減少させるのは、善玉コレステロール、植物性脂質、食物繊維 などです。
野菜をたくさん食べて食物繊維を摂取すると、悪玉コレステロールを下げるのに効果があります。
有酸素運動は、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を増やします。善玉コレステロールは悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を血管から回収するので、悪玉コレステロール値が下がります。
食べすぎ、飲み過ぎは善玉コレステロール値を下げます。
青魚を食べることも善玉コレステロール値をあげます。
肝臓への負担
肝臓に負担がある行動は、睡眠不足、アルコールの摂取、ストレス、暴飲暴食です。肝臓の機能が低下すると生活習慣病に繋がります。
尿酸値を高くするのは肥満、アルコール摂取です。
以上で一通り、健康と食生活の関係を大まかですがリストアップできたかなと思います。
これらの関係をまとめたループ図が以下の図になります。
わーい、ループ図を描けたー。
ループ図を分析する
ループ図を作ったことで満足してはいけません。ループ図はあくまで現状の分析と改善手段を見つけ出すためのツールです。
注目すべき点は、結果に悪影響を与えてしまう構造と、効果的に結果を改善できそうな構造です。
ある点に注力することで効率よく状況を改善できるポイントをレバレッジポイント(構造のツボ)と呼びます。
レバレッジポイントを見つけ出すことができれば少ない努力/リソースで大きな効果を得ることを期待できます。
レバレッジポイントを見つけ出すことをゴールにおいて、ループ図を見ていきます。
まず避けるべき結果を確認しておきましょう。
- 糖尿病を避ける
- 肝臓への負担は生活習慣病につながるので避ける
- 悪玉コレステロールが増えると脳、心臓の病気につながるので避ける
- 尿酸値が上がらないようにする
次に問題を作り出している構造を確認しましょう。
血糖値に関して
血糖値が上がるとインスリンが分泌され、血糖値を一定範囲に保つバランス型ループがあります。
これと並行して、インスリン分泌によって肥満に繋がり、インスリン抵抗性ができてしまって慢性的に血糖値が上昇してしまう自己強化型ループもあります(インスリン抵抗性増進ループ)。
インスリン抵抗性増進ループは肥満になるまでの時間的な遅れがあるため、脂肪が増えてもすぐに表面化するわけではありませんが、いったんこのループが機能し始めると血糖値を一定に保つバランス型ループが破綻し、糖尿病に繋がります。
糖質を摂取しないことで血糖値をそもそも上げないこともできますが、糖質が不足すると筋肉を衰えさせてしまい、長期的には肥満に向かいやすい体質になってしまいます。
インスリン抵抗性増進ループが回らないようにするために、糖質の摂取量は不足しない程度に、かつ取りすぎないように心がけるのが良さそうです。
また、食物繊維を食事の始めに摂取したり、食後に有酸素運動をすることも血糖値を下げる効果があるので、気を付けるのが良さそうです。
肝臓への負担に関して
私はもともとアルコールをそんなに摂らないので、よく寝てストレスが高まらない生活環境を作るのに注力して、暴飲暴食をしないように気をつけるのが良さそうです。
悪玉コレステロールに関して
悪玉コレステロールへの影響は、肝臓への負担をへらすことに気をつけつつ、食生活の改善が必要そうです。
私は喫煙してないので、喫煙の悪影響は考える必要がありません。
動物性脂質は悪玉コレステロールに悪影響があります。糖質制限ダイエットでよく言われる「脂質はたくさんとっても良い」という主張は、悪玉コレステロールの増加という点では健康に良くなさそうです。
食事に関しては野菜、食物繊維を今より摂取して、動物性脂質を取りすぎないことで、悪玉コレステロール値を下げられそう。
また、善玉コレステロールが悪玉コレステロール値を下げる効果も良さそうです。そのためにはここでも有酸素運動が有効そうです。
尿酸値に関して
尿酸値に悪影響があるのは肥満とアルコール。
私はアルコールはあまり飲まないのですが、それにも関わらず尿酸値が高いのは、おそらくもともと尿酸値が高くなりやすい体質なんでしょう。
できる対策としては肥満を解消することなので、ダイエットがうまくいけば尿酸値にもいい影響を与えられるでしょう。
運動に関して
ループ図で目を引くのが、有酸素運動、筋トレの有用性です。
有酸素運動、筋トレは脂肪を減らし筋肉を増やすことを通じて肥満を解消することで長期的/本質的な血糖値の改善が見込めますし、有酸素運動はさらに短期的な血糖値を下げる効果、善玉コレステロール値を上げることで悪玉コレステロール値を下げるといった複数の良効果があります。
また、これといった悪影響がないので、健康面から見れば得しかしない、ゲームで言えばバランスブレイカーといえる行動です。
筋肉を効果的に身につけるという観点からは、糖質が不足しないように、タンパク質を多く摂取することが有効そうです。
どこがレバレッジポイントか?
ここまでの分析結果から、コスパの良さそうな改善方針を立ててみます。
長い期間をかけて改善していくことを考えると、持続可能な方針にしないといけないでしょう。がんばりに頼ってすぐにやめてしまう方針では続きません。「これくらいならそんなにがんばらなくても続けられそう」という程度のやり方にしたいです。(ダイエットにがんばりたくない)
また、構造に対する改善施策としては、良い循環を回すことにエネルギーを使っても悪循環の構造が残っていると、結局問題が解決しないということになりがちです。構造を変えずにある問題だけを解決しようとしても、結局元の状態に戻ってしまうことをシステムの抵抗と言います。今ある構造のまま何かを強めるのではなく、悪循環の元になっている構造を弱める方向に力を使わないといけません。
私が考えた方針は以下です。
- 筋肉を付けて、慢性的に血糖値が上がる構造を弱める
- 食物繊維、野菜を食事の最初に摂る
- 糖質を取りすぎず、不足しないように気をつける
- 暴飲暴食を避ける
筋肉を付けて代謝を上げて、肥満になりにくい体質になれば、肥満、糖尿病に対する本質的な対策になりそうです。なので、ここを最重点します。
出勤時に、できる範囲でウォーキングするようにし、できる範囲で腹筋ローラーで筋トレをがんばります。(最重点とは...?)
野菜を最初に食べる、糖質を摂りすぎず、暴飲暴食を避けるのは、ちょっと気をつければ改善できそうなのであまりがんばらなくても達成できると思います。また、血糖値、悪玉コレステロールの両方に効果が期待できるのでコスパが良さそうです。
ひとまずこの方針で、半年で3kg減を達成できるか経過を見てみようと思います。
まとめ
以上、システム思考を使ってダイエットについて問題点を整理し、方針決定までをおこなってみました。
ループ図は自分を取り巻く諸要素間の関係を図示し、問題の複雑性の原因、ダイナミズムを理解し、より良い意思決定を行うためのツールです。ループ図を使うことで、問題を多面的に分析することができ、納得感のある方針を作れたかなと思います。システム思考は個人の問題だけではなく、さまざまな規模の組織の問題に対しても有効だそうです。
注意していただきたいのは、ある人や組織が至った結論が他の人、組織にあてはまるとは限らないことです。なぜならシステムの構造はそれぞれの人、組織によって違いがあるからです。
たとえば運動が禁止されている人なら運動による改善は使えないかもしれませんし、アルコール、喫煙が健康のボトルネックになっている人なら、アルコールや喫煙を控えるのが優先の対策かもしれません。生まれつきインスリンの分泌が少ないなどの特性があるならインスリン投与などの治療が必要でしょう。
自分の状況に合わせてループ図に変化を加えていただいて、注目ポイントを設定してください。それによって自分に最適な意思決定ができるようになるでしょう。