ルーティングプロトコルの選び方——Static / OSPF / BGP / EIGRP の使い分け
3分で理解するシリーズは、ネットワーク設計で"当然"とされがちな前提を 3分で読み切れる分量 に再整理する連載です。
本記事は 「どのルーティングプロトコルを選ぶか」 の判断基準を整理します。
あわせて RIP・IS-IS を今あえて選ばない理由 も末尾に補足します。
要点(先にまとめ)
- ルーティングプロトコルの選択は 「規模・管理境界・ベンダー構成」 の3軸で決まる
- Static:小規模・変化しない経路。シンプルだが運用負荷が高い
- OSPF:単一組織内の IGP 標準。規模・ベンダー問わず使える
- BGP:組織間・大規模 DC(EVPN/VXLAN)・クラウド接続の標準。ポリシー制御が強力
- EIGRP:Cisco 環境限定で有効。マルチベンダー環境では選択肢にならない
1. Static ルーティング
「経路を手動で定義する」 最もシンプルな方式です。
向いているケース
- スタブネットワーク(末端の小規模拠点・1方向にしか経路がない)
- デフォルトルート(
0.0.0.0/0)の定義 - フローティングスタティック(動的ルートのバックアップ経路)
- 上位 ISP への向き先が1本しかない場合
注意点
- 経路変更のたびに 手動で全対象機器を修正 する必要がある
- 冗長構成で Static のみを使うと、障害時の切り替えが自動化できない
- 拠点数・経路数が増えると、管理コストが急増する
「変わらない・増えない・1方向」なら Static で十分。それ以外は動的プロトコルへ。
2. OSPF(Open Shortest Path First)
単一組織内の IGP(Interior Gateway Protocol)として、現在の事実上の標準です。
向いているケース
- 中〜大規模のオンプレミスネットワーク(キャンパス・DC 内)
- マルチベンダー環境(Cisco / Juniper / Arista / Cumulus 等が混在)
- スパイン–リーフ構成での L3 ファブリック(#04 参照)
- VRRP/HSRP と組み合わせたゲートウェイ冗長化
設計上の要点
| 項目 | 推奨 |
|---|---|
| エリア設計 | 小規模ならエリア 0 のみでも可。大規模は Area 0 + スタブエリアで LSA を抑制 |
| ルータ ID | ループバックインタフェースで固定する(物理 IF の UP/DOWN に左右されない) |
| 認証 | OSPFv3 は SHA 系が標準。OSPFv2 でも SHA 系を利用可能な実装が増えているが、ベンダー依存のため事前確認が必要(MD5 は非推奨)。不正ルータの混入を防ぐため認証は必須 |
| パッシブ IF | エンドポイント側 IF は passive-interface で Hello を止める |
帯域計算の基準値変更を忘れずに
デフォルトでは 100Mbps が基準値のため、GbE 以上はすべて同じコスト(1)として計算されてしまいます。帯域に合わせた auto-cost reference-bandwidth の設定変更が必須です。
3. BGP(Border Gateway Protocol)
組織間・インターネット・大規模 DC の標準プロトコルです。
IGP とは役割が異なり、ポリシーベースの経路制御が強みです。
向いているケース
| ユースケース | 内容 |
|---|---|
| インターネット接続 | ISP との接続(eBGP)。マルチホーム構成でのトラフィック制御 |
| DC 間・拠点間 | MPLS-VPN バックボーン、SD-WAN のオーバーレイ制御 |
| 大規模 DC | スパイン–リーフ構成で EVPN/VXLAN を利用する場合(事実上 BGP 一択) |
| クラウド接続 | AWS Direct Connect / Azure ExpressRoute は BGP が必須 |
iBGP と eBGP の使い分け
- eBGP:異なる AS 間(ISP・他組織・クラウドプロバイダとの接続)
- iBGP:同一 AS 内でのルート配布(フルメッシュ または ルートリフレクタ構成)
注意点
- BGP はポリシー安定性を優先した設計のためデフォルトのコンバージェンスは遅いが、BFD(Bidirectional Forwarding Detection)との併用でサブ秒の障害検知が可能。
- ポリシー制御が強力な分、設定ミスが経路漏洩・ブラックホールに直結する。インターネット接続では RPKI等による経路正当性の検証も合わせて検討すること。
- 小規模ネットワークに BGP を持ち込むとオーバースペックになり運用が複雑化する。
コラム:現場でよく聞かれる「なぜデータセンターは OSPF から BGP Unnumbered へ移行するのか?」
近年、スパイン–リーフ型の内部ルーティング(IGP)として OSPF ではなく eBGP(特に BGP Unnumbered) を採用するケースが主流になっています。その理由は主に以下の3点です。
1. IP アドレス設計が不要
スパイン–リーフは機器同士がフルメッシュで繋がるため、リンク数が膨大になります。従来の OSPF では大量の /30 や /31 サブネットを設計・管理する必要がありましたが、BGP Unnumbered は IPv6 のリンクローカルアドレス等を利用してピアを張るため、ポイントツーポイントの IP アドレス設計が一切不要になります。
2. LSA フラッディングの影響局所化
OSPF はリンクステート型のため、どこかでポートがダウンすると LSA がエリア全体にフラッディングされ、全ルータが SPF 計算をやり直します。BGP はパスベクター型であり、経路の Update / Withdraw のみを通知するため、障害時の影響が最小限(局所的)で済み、スケールアウトに極めて強い構造です。
3. 自動化(Automation)との圧倒的な相性の良さ
BGP は「AS 番号」という明確な境界を持つため、Ansible 等の構成管理ツールで設定をテンプレート化・自動化しやすいという運用上のメリットがあります。
※補足:BGP Unnumbered は実装ごとに細部が異なり、RFC 5549(IPv6 NLRI over IPv4 next-hop)と完全にイコールではない点に注意が必要です。
4. EIGRP(Enhanced Interior Gateway Routing Protocol)
Cisco 独自の IGP です。
向いているケース
- Cisco 統一環境(アクセス〜コアが全て Cisco 製品)
- 設定のシンプルさを優先したい
- OSPF のエリア設計を持ち込むほどの規模ではない環境
OSPF との比較
| 項目 | EIGRP | OSPF |
|---|---|---|
| ベンダー依存 | Cisco 中心(実質専用) | ベンダー非依存 |
| 設定の容易さ | シンプル(エリア設計不要) | エリア設計が必要 |
| コンバージェンス | 高速(DUAL アルゴリズム) | 速い(十分実用的) |
| 不等コスト分散 | 可能(variance コマンド) |
不可(等コストのみ) |
| 採用推奨度 | Cisco 環境限定で有効 | マルチベンダーなら第一候補 |
標準化に関する注意
RFC 7868 は EIGRP の一部仕様を Informational(情報提供)として公開したのみで、完全な標準化ではありません。他ベンダーへの普及はほぼなく、実質 Cisco 専用プロトコルと考えて差し支えありません。マルチベンダーの可能性があるなら、最初から OSPF を選ぶのが安全です。
5. 選択フロー
組織をまたぐ接続(ISP・他社・クラウド)か?
├── Yes → BGP(eBGP)
└── No(同一組織内・単一 AS)
├── 大規模 DC ファブリック(EVPN/VXLAN 利用) → BGP 一択(BGP Unnumbered 等)
├── 経路が少ない・変化しない・スタブ構成 → Static
├── Cisco 統一環境で設定を簡素化したい → EIGRP も選択肢
└── それ以外(マルチベンダー・中〜大規模) → OSPF
備考:RIP・IS-IS を今あえて選ばない理由
ネットワークの学習では必ず登場する RIP と IS-IS ですが、新規設計において、これらが第一候補に挙がることはほぼありません。その理由を整理します。
RIP(Routing Information Protocol)
RIP は機能的に役割を終えており、新規採用する積極的な理由が存在しません。
-
メトリックが「ホップ数」のみ(最大 15)
- 帯域幅や遅延を一切考慮しません。「10Gbps の遠回り」より「10Mbps の最短経路」を優先してしまうため、現代のネットワーク要件に合いません。
-
コンバージェンス(収束)が遅い
- 30秒ごとの定期更新に依存するため、障害時の切り替えが遅く、高可用性が求められる環境には不向きです。
-
OSPF の下位互換になっている
- RIPv2 で実現できる小規模なルーティングは、OSPF(エリア0のみのシンプルな構成)で完全にカバーでき、かつ OSPF の方が高速で確実です。
IS-IS(Intermediate System to Intermediate System)
IS-IS は OSPF と同じリンクステート型で、技術的な性能は OSPF と同等、あるいはそれ以上です。IP プロトコルスタックに依存せず独自 PDU で動作し、TLV(Type-Length-Value)構造による柔軟な拡張性から ISP の MPLS バックボーンで広く採用されています。しかし、用途が限定的です。
-
エンタープライズでの「情報量」と「エンジニアの習熟度」の差
- IS-IS の採用は ISP(通信事業者)や大規模な MPLS バックボーン です。
- 一般的な企業ネットワークやデータセンターでは OSPF が圧倒的なシェアを誇るため、トラブルシューティング時のナレッジ(Web上の情報やベンダーのドキュメント)や、運用を引き継ぐエンジニアの確保という面で OSPF に軍配が上がります。
-
IS-IS を選ぶ特定条件
- 既存の ISP バックボーンとの整合性が求められる場合や、超大規模環境で OSPF の LSA スケーラビリティに限界を感じる(BGP に切り替えない)場合などに限られます。
結論
新規設計では、OSPF / BGP を基本に据えるのが現在のベストプラクティスです。既存環境で RIP や IS-IS が動いている場合の維持・運用は別として、これから新たに設計する場合は迷わず OSPF や BGP(小規模なら Static)を選択してください。