ルベーグ積分入門2のつづき
可測関数の概念を定義する前に写像の概念を紹介する。
#集合論 集合と写像
定義 写像
fが集合Aから集合Bへの写像であるとは、集合Aの元に対して、集合Bの元を一つ対応させているときをいう。$f:A\rightarrow B$とかくことがある。とくに、Bが実数の時、実関数といったりする。
例
実数から実数への関数f(x)=x
定義 像 逆像
$f:A\rightarrow B$に対して、像とはBの部分集合$f(A):=\{b\in B|b=f(a)となるaがAに存在する \}$
あるBの部分集合Cのfによる逆像はAの部分集合であって、$f^{-1}(C):=\{a\in A| f(a)\in C\}$というもの
例 f(x)=x
実数から実数への関数f(x)=xを考える
$f(\mathbb{R})=\mathbb{R}$
$f((0,\infty))=(0,\infty)$
$f^{-1}((-\infty,0))=(-\infty,0)$
写像の性質3.1
$f:X\rightarrow Y$に対して,次のようなことが成り立つ
- $A\subset B \Rightarrow f(A)\subset f(B)$
- $f(\bigcup A_\lambda)=\bigcup f(A_\lambda)$
- $A\subset B \Rightarrow f^{-1}(A)\subset f^{-1}(B)$
- $f^{-1}(\bigcup A_\lambda)=\bigcup f^{-1}(A_\lambda)$
- $f^{-1}(\bigcap A_\lambda)=\bigcap f^{-1}(A_\lambda)$
- $f^{-1}(Y\setminus B)=X \setminus f^{-1}(B)$
これを使うと次の命題を解説できる。
命題3.1.1
X,Yを集合。 $f:X\rightarrow Y$
- $\mathcal{B}$をXのσ代数とすると、$\mathcal{B}’:=\{F\subset Y|f^{-1}(F)\in \mathcal{B}\}$はYのσ代数になる。
証明
$\emptyset = f^{-1}(\emptyset) \in \mathcal{B}$
$F\in\mathcal{B}’$とすると、写像の性質6から$f^{-1}(Y\setminus F)=X \setminus f^{-1}(F) \in \mathcal{B}$
よって$Y\setminus F\in \mathcal{B}’$
最後に
任意の自然数nについて$F_n \in\mathcal{B}’ $とすると、$f^{-1}(\bigcup_n F_n)=\bigcup_nf^{-1}(F_n) \in \mathcal{B}$
よって、$\bigcup_n F_n\in\mathcal{B}’$(写像の性質4を使った)
よってσ代数であることが示された。
証明おわり
#可測関数
実数に無限を付け加えたものを次に示すように定義する。
$\overline{\mathbb{R}}:=\{-\infty\} \cup\{\infty\}\cup \mathbb{R}$
定義 可測関数
$X$を$\mathcal{B}$をσ代数とする可測空間とする。
関数$f:(X,\mathcal{B})\rightarrow \overline{\mathbb{R}}$が可測関数であるとは、任意の実数$\alpha$に対して、$f^{-1}((\alpha,\infty])=\{x\in X| f(x) > \alpha\}$がXの可測集合である時をいう。
関数$f:(X,\mathcal{B})\rightarrow \mathbb{R}$が可測関数であるとは、任意の実数$\alpha$に対して、$f^{-1}((\alpha,\infty))=\{x\in X| f(x) > \alpha\}$がXの可測集合である時をいう。
例 f(x)=x
$f:\mathbb{R}\rightarrow\overline{\mathbb{R}}$は可測関数である。ただし$\mathbb{R}$にはσ代数としてボレル代数を定義する。このことを確認しよう。つまり、任意の実数$\alpha$に対して$f^{-1}((\alpha,\infty])$がボレル集合ならばよい。実際、$f^{-1}((\alpha,\infty])=(\alpha,\infty)$なのでこれは開集合なのでボレル集合である。
命題3.2
Xを$\mathcal{B}$をσ代数とする可測空間とする。
$f:X \rightarrow \mathbb{R}$
つぎの4つは同値(同じ意味)である。
- fは可測関数である
- 任意の実数$\alpha$に対して、$\{x\in X | f(x)\geq\alpha\}$は可測集合である.つまり、$f^{-1}([\alpha,\infty))\in \mathcal{B}$
- 任意の実数$\alpha$に対して、$\{x\in X | f(x)<\alpha\}$は可測集合である.つまり、$f^{-1}((-\infty,\alpha))\in \mathcal{B}$
- 任意のボレル集合Eに対して、$f^{-1}(E)$は可測集合である。つまり、$f^{-1}(E)\in \mathcal{B}$
証明
2と3が同値であることを示そう。
なぜならば、σ代数の定義から可測集合の補集合は可測集合であった。よって2と3の集合は互いに補集合の関係にあるので($\alpha$以上になる点の集合の補集合は$\alpha$以上にならない点の集合、つまり$\alpha$未満の点である)一方を仮定すれば他方が示せるだろう。
2を仮定して、1を示そう。
任意に実数$\alpha$に対して、$f^{-1}((\alpha,\infty))=\{x\in X| f(x) > \alpha\}$がXの可測集合であることを確かめる。実際、$(\alpha,\infty)=\bigcup_{n=1}^\infty[\alpha+1/n,\infty)$であるので、
$f^{-1}((\alpha,\infty))=f^{-1}(\bigcup_{n=1}^\infty[\alpha+1/n,\infty))$
また、写像の性質3.1の4から$f^{-1}(\bigcup_{n=1}^\infty[\alpha+1/n,\infty))=\bigcup_{n=1}^\infty f^{-1}([\alpha+1/n,\infty))$である。2の仮定から$f^{-1}([\alpha+1/n,\infty))$は可測集合であり、σ代数の定義から和をとっても可測集合であるので結局$f^{-1}((\alpha,\infty))$は可測集合である。
1から2を示すには、同じように、$f^{-1}([\alpha,\infty])=\bigcap_{n=1}^{\infty} f^{-1}((\alpha-1/n, \infty))$であるから確かめることができる。
よって1と2は同値である。
1と4が同値であることを示そう。$\epsilon:=\{(\alpha,\infty)| \alpha \in \mathbb{R}\}$とおく。
4を仮定して1を導こう。1は$\epsilon$に属する集合は全て可測集合という条件なので$\epsilon \subset \{E\subset \mathbb{R}| f^{-1}(E)\in \mathcal{B}\}$を意味する。
ところで、$\mathbb{R}$のボレル代数を$\mathcal{B}(\mathbb{R})$とすれば、4を集合の言葉で言い換えると、$\mathcal{B}(\mathbb{R}) \subset \{E\subset \mathbb{R}| f^{-1}(E)\in \mathcal{B}\}$である。
$\mathcal{B}(\mathbb{R})$は定義から開集合族を含むσ代数なので、$\epsilon \subset\mathcal{B}(\mathbb{R}) $となっているから、4を仮定すれば$\epsilon \subset \{E\subset \mathbb{R}| f^{-1}(E)\in \mathcal{B}\}$を示せる。つまり1が導かれた。
逆に1つまり、$\epsilon \subset \{E\subset \mathbb{R}| f^{-1}(E)\in \mathcal{B}\}$を仮定する。実は集合族$\{E\subset \mathbb{R}| f^{-1}(E)\in \mathcal{B}\}$はσ代数になる(命題3.1.1)。そこで、前の記事で最初に紹介した命題を使うと、$\sigma[\epsilon]\subset \{E\subset \mathbb{R}| f^{-1}(E)\in \mathcal{B}\}$がわかる。また前の記事の最後で$\sigma[\epsilon]= \mathcal{B}(\mathbb{R})$を示した。よって$\mathcal{B}(\mathbb{R}) \subset \{E\subset \mathbb{R}| f^{-1}(E)\in \mathcal{B}\}$である。つまり、4が導かれた。
証明おわり
つづく