Qiita向きのネタじゃないかもしれませんが、インフラ(それもとことん下のレイヤ)にもご興味を持っていただくと良いかと思いましてこちらに晒します。1
線路と電柱
2地点間で電気エネルギーや通信や放送の情報を伝達するための物理的な媒体を線路といいます。具体的には電力線、光ファイバ、電話線、有線テレビの同軸ケーブルが該当します。線路はエネルギーや信号を通す導体や光ファイバ芯線だけでなく、それらを絶縁したり保護したりする被膜部分や張力を受ける線材などから成ります。
なお、鉄道の軌道も線路といいますので、紛らわしいです。
Wikipedia 「線路」の曖昧さ回避ページ
線路は地中の管路に通すこともありますし、空中を通すこともあります。空中に線路を構成する場合は、線路を空中に持ち上げるために柱を使います。これが電柱です。線路を通す空中の空間を架空(がくう、かくう)と言います。
どのように電柱を建ててどのように線路を構成するかは、法律や技術による制約があります。法制度については、作る側の法律として電気事業法や有線電気通信法などが、作られる側の法律として道路法や河川法があります。法律に従った施行令や施行規則や解釈が定められていますので、規則だけでまとまった結構な量があります。さらに、電気事業法や電気通信事業法に定める事業を行う場合には電気主任技術者や電気通信主任技術者の指導監督下で行う必要があります。
電柱を建てる場所
電柱は、電柱を建ててる事業者が土地を持っていることは稀で、通常は他人の土地を使います。このとき通常の土地を借りるような不動産上の面倒な手続きは取りません。土地所有者の了解を得たら、相互の了解を記載した様式に記入押印して所持することで済ますのが多いです。
電柱の専有面積は小さなものですが、借りるとなるといくばくかの使用料が発生します。場所や事業者や占有面積によりますが、宅地だと1500円/年ぐらいです。田畑だともっと高くて、山林や雑種地だともっと安いです。これ、宅地に人が済むことによる価値より、田畑で農作物ができることによる価値の方が大きいという解釈なのかなと思います。なお経理上、不動産に関する取引なので消費税・地方消費税が発生しないことに注意してください。
共架
1本の電柱を所有する事業者のみならず、複数の事業者で利用することを共架(きょうが、きょうか)といいます。まちなかで電柱を見てもらうと、15〜18mぐらいの高さの電柱がたくさんあります。中間部分の6〜10mぐらいのゾーンと、一番てっぺんの方と、通ってる線の種類が違うのが分かると思います。中間部分にあるのは光ファイバや電話線等の通信線やケーブルテレビの光ファイバとかです。上部にあるのは電力線です。これが共架です。
電柱を持っているのは電力事業者であることが多く、NTT東日本・NTT西日本(以下NTT東西と呼ぶ)やケーブルテレビ事業者が共架させてもらうケースが多いです。NTT東西が持ってて電力事業者が共架しているケースもあります。
なんとなく電力所有とNTT東西所有とは 2:1 ぐらいな感覚をもってたので調べてみました。これ統計上の全部の電柱が共架されてるわけじゃあないですが、かなりの確率で共架されてますので、おおよそ合ってるんじゃないでしょうか。
これらの電柱に共架させてもらおうとすると持ち主がどっちかを見極めないとなりません。電柱には固有のIDを事業者ごとに振っていて、それを記した銘板がついています。複数枚の銘板があるとき、地域によって上が持ち主なのか下が持ち主なのか決まっていますので、地元の関係者はすぐ分かります。
添架
添架(てんが、てんか)というのは、共架と同じく電柱を使うのですが、線路を渡すのに使うのではなく、何かの装置・器具を設置する場合に使う言葉です。今は見なくなりましたが、PHSの基地局が良く電柱の上についていましたね。何かを電柱に付けたい場合には電柱の持ち主に添架をお願いすることになります。これは、以前は結構大丈夫だったようですが、このところは許可がほとんど出なくなった印象があります。
公益事業特権
架空のほとんどは電力事業者や電気通信事業者、さらに有線テレビジョン放送事業者が使ってます。これらは公共性の高い事業です。このため、法律の条件を満たしている事業者には公益事業特権が与えられます。これは道路・橋・溝・河川・堤防等の公共的な土地だけでなく私有地の調査・立入・利用というのも許されています(土地収用法 第3条、電気通信事業法 第128条、など)。
これにより、一部の私人の反対で地域での公共サービスが困難になったりしないようになってます。実際に電気事業者や電気通信事業者がこの特権を全面に出して電柱を建てることは稀かと思いますが、いよいよとなったら伝家の宝刀を抜く場合もありえるよということです。
「かせん」か「がせん」か
余談ですが「架線」は事業者の方でなければ「かせん」と読むのが普通です。事業者は「がせん」と呼びます。これに限らず事業者は「架」は全部濁って発音します。なのでみなさんも濁らせて発音するとちょっと業界人っぽくなれます(なりたいか?)。
- 架線:がせん(かせん)
- 架空:がくう(かくう)
- 添架:てんが(てんか)
- 共架:きょうが(きょうか)
支障移転
邪魔な電柱を別の場所に移設してもらうことを支障移転といいます。移転という言い方をしますが、今ある電柱を移動するのではないです。新しく電柱を建てて、そこに電線類をえいやと動かして古い電柱を撤去するという工事になります。
支障移転は土地の所有者や利用者が電柱の持ち主に対して依頼します。電柱を建ててる事業者は電柱建てるのも移設するのも慣れてるので、お願いすれば移設は可能です。ただし、いくつか課題もあります。時間とコストです。
支障移転にかかる時間
問題のひとつはまず時間がかかることです。
電柱と線路を使うようなサービスは公共性が高く、おいそれとサービスを中断できないです。よって、移設のタイミングの調整で結構な時間がかかります。移設先に個人のエンドユーザが居るような場合で、サービスが中断する場合には事前に連絡が必要ですし、病院等の公共サービスでの停電等は十分な事前調整をしないと事故になります。
次に、移設先の土地を探す必要があります。移転する両隣の電柱との距離や、どれぐらい迂回させられるかの余長(将来を見越して余裕をもたせておく線の長さ)の制約がありますから、それに合致する範囲内で誰かの土地を使わせてもらわないとなりません。地権者さんがすぐに見つけられてスムーズに話が進むのかどうかで時間が大きく変わります。
さらに法人登記上の地権者さんに会うことができるのか、地権者さんが一人なのかどうか、ひいてはそもそも地権者さんが御存命なのかも問題になります。最悪、亡くなってると相続人が対象になりますが、一人とは限りませんし、それを調べて居る場所を探すだけでも相当な手間と時間がかかります。
あとは、建柱の設計や、線路の設計をします。これにも時間がかかります。これがたかが電柱、されど電柱で、まずまず大変です。
電柱は鉛直方向だけでなく電線の張力による横方向の応力がかかり、それに風圧がかかって倒れることがあるので、結構ちゃんとした設計をします。横方向の応力が大きい場合には斜めに支線(ステー)も入れます。線路については、大概は線路長が長くなる傾向になるので、余長をどっからもってくるか、余長がないなら一旦切って別の線を継ぎ足すかとか、そういう準備をします。
さらに時間がかかる原因が共架です。電柱の移動は持ち主だけの話ですが、共架している場合には使っている事業者全部で調整と段取りをして工事する必要があります。この調整にもそれなりに時間がかかります。移転の場所によっては同一日時に一斉に工事しないとならない場合がありますので、そうなるとより一層調整が大変になり時間を使うことになります。
費用負担
支障移転にかかる費用はさまざまです。通常は事業者側からお願いして私有地でなにかさせてもらってるので事業者側が払う場合が多いです。ただ状況によっては依頼側が払う場合もあり、あるいはその中間と、ケースバイケースでいろいろで一般論では語れないです。これは移転依頼先との交渉で決まります。直観的には以下のような理由があり得るかと思います。
- 事業者の内規など
- 建中したときに取り決めた条件があるなど
- 支障移転をお願いする側の都合なのか、本人が原因でないような外的な原因があるのか
- 移転先の土地を用意する、工事の際の作業者の出入りの便宜を図るとか
- 周辺での移転工事の状況、たまたま大規模な張替えがあるとか
もし私有地内の電柱の位置を変えてもらいたくなったら、まずは事業者に連絡してみましょう。
参考文献
土地収用法
電気事業法
電気通信事業法
有線電気通信法
放送法
Wikipedia 有線テレビジョン放送法(放送法の改正によって廃止になった)
[できる網設計 〜あなたのところに専用線が届くまで〜, InternetWeek 2015 T3]
(https://www.slideshare.net/jieebear/ss-59139870)
-
とか思ってたらスゴいのが出ました。インフラネタもどんどんでてくると嬉しいですね。なるべく切れない回線のつくりかた(物理) ↩