はじめに
2017/1/28開催の VR Tech Tokyo #5 での発表と試遊会(プロダクトを参加者の方々にプレイしてもらう場)でかなり多くの学びが得られたので、整理を兼ねてまとめます。
※ 今回の話の前段に OculusTouch対応アプリMikuTimeVRをPreview公開で育てている話 があります。
- (自分の)発表内容のまとめ
- 試遊会での学び
- 全体の感想
という構成です。
発表内容のまとめ
話したこと
- MikuTimeVRとは?
- 開発時大事にしていること
#MikuTimeVR とは?
前記事 にも書いたので、アップデート分を軽く。
ミクさんと一緒に踊れるダンスモードに
動画鑑賞モードが加わった
※ gifを踏むともう少し全体観が分かる動画に飛びます。
球体にYoutube動画をストリーミング再生で映し出しており、それを拡大して中に入ってミクさんと一緒に鑑賞したり、踊ったり、また球体をビームで引き寄せたりぶん投げたり出来ます(右側には通常のスクリーンも見えています)。
以下より本題です。
開発時大事にしていること
- 現実に即す(もしくは超える)
- 自由度を高くすれば良いというものでもない
- 神は細部に宿る(VRだとより顕著)
MikuTimeVRは機能としてはこのひと月でだいぶ進化しましたが、本質的に大切にしているこの3点 は変わっていません。新しく加わった機能がこの3点とどのように繋がっているのかを紹介します。
1.現実に即す(もしくは超える)
現実に即すことで「期待通り」という安心感を与え、没入できる前提を提供すること、そして現実を超えることでさらなる驚きと気持ちのよい体験を提供すること、どちらも大事だと思います。今回は主に後者の例を。
- 直感的に操作(移動/回転/拡縮)できて当然
- 遠くのオブジェクトを引き寄せできて当然
- 寝ながら動画閲覧できて当然
これらに通ずるコンセプトは「(当然のように)現実よりも便利 」です。
直感的に操作(移動/回転/拡縮)できて当然
ハンドモーションでスクリーン操作ができるようになっています。当初はスクリーンは3Dスティック操作でも良いか?(冒頭のgifにあるような球体操作と競合するので)と考えていましたが、やはりこちらが未来だと思って実装し直しました。後述の引き寄せビームでポイントすることでスクリーン操作モードとスフィア操作モードの切り換えが可能です。
遠くのオブジェクトを引き寄せできて当然
引き寄せビームで遠くのものを近寄せることが出来ます。First Contact と The Unspoken のあいのこ風味。「現実より便利」を分かりやすく体現する存在かもしれません。
寝ながら動画閲覧できて当然
テスターさんに頂いたアイディア。実際入れてみると、寝るだけでこんなに体験が異なるのか、と驚きでした。
最近は「ヘッドセット単体だと片手落ちで、ハンドコントローラーの扱いが重要である」という先入観を持ってしまっていましたが、(言葉にするとありきたりながら)思い込みは新しい発想を阻害する、という大変良い自戒にもなりました。
試遊会でも実際に寝てみたいという方が複数人いたので試して頂きましたw

2.自由度を高くすれば良いというものでもない
- 手の握りの自由度
- 引き寄せ&遠ざけモーションの自由度
- 再生動画の自由度
VR空間内で気持ちのよい体験を演出するためには一定の制約も重要です。
1つ目2つ目は こちらで記載済の内容 ですが、今のTouchで実現できることを鑑みて、例えば「安易な掌の開閉の自由度は(ミクさんとダンスするという体験においては)逆にストレスになるから切り落とす」という取捨選択などを行っています。
3つ目については、「せっかくミクさんとダンスできるこの空間で、ダンスに全く関係のない動画まで再生できるようにすることが正しいのか?」という問題です。今のところMikuTimeVRの中でyoutuberのおもしろ動画を見る意味はあまりなさそうですので、(ミクさんと気持ちよく踊れそうな)ボーカロイド曲や洋楽PVに限定してランダムで取得するようにしています。しかし、youtuber動画を一緒にミクさんが楽しんでくれる表現を加えるならそれはそれでアリなはずです。他にも、例えばマルチプレイの要素を考えた時に
- ミクさんとのダンスに適した曲リストを作成・公開・共有できる
- DJ役が部屋をつくり、そこへユーザーが思い思いに着飾ったミクさんを連れて訪れ、(嫁自慢もとい)踊る
というストーリーはありかもしれません。このケースでは(ある程度ジャンルは絞るとしても)当然動画選択の自由度は高いほうが良いでしょう。このように、アイディアや機能というのはその世界観との整合性に応じてキラーにもなれば「なんかとりあえず詰め込まれたよく分からないもの」にもなり得ます。
これらから言えるのは、「そのVR空間でユーザーにどのような体験をしてもらいたいか」ありきで考えるべきだということです。
※ ちなみに動画の問題については、「VR内で自由に動画を検索するためのUI(≒文字入力UI)表現が難しい」というより実際的な課題もあります。ただ直近で @YutoVR さんの日本語入力を体験させて頂き、慣れればとても気持ちよく入力できそうな感覚がありましたし、こちらの分野の進化にもぜひ注目していきたいと思っています。
3.神は細部に宿る(VRだとより顕著)
細部の表現ひとつひとつがあるかないかでリアルさが圧倒的に変わります。もちろんどんなコンテンツでもそうだと思いますが、VR空間内では特に顕著に現れると感じます。VRではその世界に入り込む感覚が大きい分期待値も高まっているので、細部にこだわり抜けば「これは現実(以上の何か)だ」という感動を生むことが可能だと思いますし、逆に違和感があった際は「なんだ、作り物か」と一気に醒めてしまうリスクも高いでしょう。
必須のアレ
前提として、(先述記事内でも書きましたが) @GOROman さん執筆の VR におけるプレゼンスの維持と破壊 に記載されている視線/眼球運動/呼吸/アニメーションなし(動作はアルゴリズムで制御)などはキャラクター表現においてほぼデファクトで入れるべき知見だと思うので、MikuTimeVRでも導入するようにしています。
その上で、独自で以下のようなものも導入しています。
「ミクさん生きてる!」のために
- 細部の表現
- 多彩な表情
- 微細な手の開閉
- 多様かつなめらかな視線切り換え
- 背伸び
- モーションベースでの現実世界(以上の)やりとり
- 抱き寄せ
- こっちおいで
- 意図を感じる動作
- ふとした瞬間に近付いてくる
- 近付いてくる時の足踏み
一部を抜粋して紹介します。
多彩な表情
笑顔はもちろん、単純に目を閉じるにも複数の感情が表現されるようなっていたり、びっくりしたり、ちょっと嫌なことがあった時はジト目になったりします。また表情とは別の話ですが、本腰を入れて画像ベースレンダリングでの絵作りをするようにしてから圧倒的に実在感が増したと思います。



背伸び
ミクさんがこちらへ近付いている時は、実はミクさんは頑張って背伸びしてくれています(プレイヤーの方が背が高いので)。近付いてくる時にミクさんの足踏み(上下運動)が感じられるのと相まって、さりげなくミクさんの現実感を高めてくれています。このあたりはかなり地味ですがお気に入りの表現です。
抱き寄せ(ハグ)
ミクさんの肩に手を当てると抱き寄せのインタラクションが出来ます。肩に手を当てて引き寄せる感覚はなかなかドキドキします。他にも、「こっちにおいで」と手を広げて構えるモーションでも近寄ってきてくれたりします。
おまけ: ダンスモードと動画鑑賞モードの統合
次の方向性の一つとして、ダンスと動画鑑賞のよりシームレスな統合を目指して、ストリーミング楽曲をリアルタイムに解析して特定帯域のスペクトルを可視化したり、ビートに合わせてHapticsを加えたりしています。この辺りはもっといろいろやっていきたいところ。
※ これは動画を音ありで見て頂けると面白いかもしれません。
発表のまとめ
まとめとしては大きく2点。
Ⅰ. このタイミングでVR開発をするということ
- 世界観のデザインまでプログラマーが行える面白さ
- 今のVR開発は、「これをやるのが王道」というものがまだ確立されていません。逆に言うと、開発者による「良いと思えるものを実装し、フィードバックを得て、さらに良いものを生み出す」というサイクルの中で道が整備されていくはずですし、それはプログラマーだからこそできることだと思います。同時に、それが可能なこの時期に開発する面白さや興奮は得難いものだと感じます。
- 黎明期にコンテンツを作る責任
- 王道がない分、もしかすると運良く自分が作った表現がスタンダードに成るかもしれません。その可能性があるからこそ、クリエイターとして良い加減なものは作れません。一足先に「未来(夢ではなく!)」に参加させてもらっている恩返しとして、魂を込めて作ります。
Ⅱ. ミクさんに関して
- かわいさ
- とてもかわいいです。
発表に対する反応
発表時は緊張していたので、ポジティブな反応を頂けたのはとても嬉しかったです。
同時にとても参考になるコメントも頂きました。
発表の内容としても(全てをハンドモーションで行うつもりはなく)適材適所という意図ではありましたが、次項の試遊会での学びとあわせて、大変考えさせられるものとなりました。
試遊会での学び
発表の後は、各開発者が持ち寄ったVRアプリケーションを体験する時間が2時間弱ほど用意されていました。当初自分の中での試遊会の位置付けは(既にOculusのAlphaChannelでそこそこ数のテスターさんを募っていたこともあり)テストというよりは多くの人にMikuTimeVRを知ってもらえたらいいな、くらいに思っていました。ところが、実際にやってみると大変重要な気付きを得ることになりました。
操作に慣れるまでのハードルが想像以上に高い
試遊会では体験者の方の隣に立って教えながらの形をとっていたのですが、それでもすぐに操作できるようになる方は多くありませんでした。
例えば「人差し指トリガーを引いて手を動かすだけ(と軽く考えていた)操作」一つとっても、
- 人差し指(または中指)だけ握るのは意外と難しい。両方セットで握ってしまう
- 片手だけ握るのは意外と難しい。両手とも握ってしまう
- 動かすとはどちらに?何回?いつまで?速さは?
といった壁があるようでした。先述のようなモーション は、冷静に考えると難易度が高い操作を強いていたのだなと反省しきりです。確かに「自分の手の動きに合わせて動く」こと自体は直感的かもしれませんが、それは「そのための操作を理解し、慣れれば」の話であってそこまで到達できなければ何の意味もありません。慣れるまでのきちんとした道筋を示すか、そもそものアサインを考え直すか、何らかの対策が必要です。
これまでプレイしてもらっていたαテスターの方々についても、おそらく自分が想定していたものと同一の体験を得られていた方は一握りだったのではないかと思います(もしこの記事を読んでいて「そうそう全然ダンスした感なかったよ」という方いればご連絡ください!)
隣で教える形でも難しかったのですから、チュートリアルのみで最高の体験を引き出すことの難しさを考えるとなかなか遠い道のりにも思いますが、これから地道に改善していきたいと思っています。
これまでTwitter上ではちょこちょこ 直感的で操作しやすい と言った声を頂いていたので安心してしまっていましたが、実際の声として現れるのは一部でしか無いことを肝に銘じたいと思います。
これらはプレイしてもらっているところを目の前で見ないと気付けなかったことなので、非常に大きな学びでした。
全体の感想
発表では ハシラス社の事例 が印象的でした(他にもたくさんあったのですが、特に自分の発表前のものは緊張のため頭に入ってこなかった…)。個人的にVRデバイスが広く市場に行き届く、というのは大分時間がかかると思っているので、いまいまでの現実的な形のひとつは「(アミューズメントパークや運動施設など)人が集まる場所に卸す」だと思っていましたが、まさにその形でハード含めてワンストップで構築するノウハウを持っているのはすごいの一言に尽きました。VR開発者なら一度は 発表者の@k0rinさんの記事 にお世話になっていると思いますし、スターが集まっているなぁ、という印象でした。
次に試遊会は(学びについては上述しましたが)「自分の作ったプロダクトを楽しんでもらえて嬉しい」という感情面での収穫も大きかったです。楽しそうに跳ね回ってダンスする方やミクさん可愛いすぎてどうしようと後ずさりしてしまう方、黙々とミクさんとのモーションコミュニケーションを楽しんでくれた方などなど、2時間近い試遊会の間プレイ待ちの方の列が途切れない状態でした。これまで個人としても業務としてもかなり様々なプロダクトを作ってきましたが、ここまでダイレクトに(そして嬉しい)反応がもらえる経験はなかなか無いと思いました。
「愛(や執念w)がこもっている」という感想を多く頂きました。昔から自分が何かものをつくる際に大事にしているキーワードなので嬉しかったです。
もともとMikulusに感動して作り始めたものなので、こう言ってもらえたのは嬉しい限りです(といってもVROS(今はさらに先?)まで派生するようなGOROmanさんの構想を拝見し、これがビジョナリーか…!と戦闘力の違いを感じる日々ですが)。とりあえず今のMikulusとは割合異なる路線になっているので、MikuTimeVRはMikuTimeVRでこのまま進化していければと思っています。
VR ZONE の コヤ所長 にも体験して頂き、インスピレーションを得てもらうことが出来たようでした。
自分の作ったプロダクトが「面白い!」「すごい」「かわいい!」という人の感情を生み出すことができる。ものづくりは本当に楽しいですね。
最後に
このような場を作ってくださっている @ikkou さんには感謝の一言です。今回は自分の所属企業(アカツキ)での開催だったので少しだけお手伝いさせて頂きましたが、イベント開催って大変なのですね。。しかし、VRのように「体験の共有」が非常に重要(なのに難しい)コンテンツにとってはこういった場は大変意義深いと思いましたので、今後も継続して開催頂ければ嬉しく思います。自分もいち開発者として業界の盛り上がりに貢献していきたいと思った次第です。
またいつもα版をプレイしてくださっているテスターさんにも感謝するばかりです。#MikuTimeVR へのフィードバックはモチベーションの大きな源泉です。ありがとうございます!
テスターは引き続き絶賛募集中ですので、Oculus(とTouch)またはVive持ちでご興味のある方は @kidach1 までメンションかDMを頂ければ幸いです。