※ このページは「A Unified Approach to Interpreting Model
Predictions」の要約と周辺知識の解説になります。
このページでわかること
モデル予測の解釈を統一的に行う SHAP (SHapley Additive exPlanations) フレームワーク。
各特徴の重要度を理論的に一意に計算し、局所的な正確性や一貫性を踏まえた上で、複雑なモデルの予測を助けてくれる。
対象読者
- 機械学習研究者:モデルの予測解釈に関する新しい方法や理論的基礎に興味がある研究者
- データサイエンティストおよびAIエンジニア:複雑なモデルの予測を解釈し、信頼性を高めるための実践的なツールや手法を探している実務家
- アナリティクスおよびビジネスインテリジェンスの専門家:モデルの予測結果をビジネスや政策決定に活用するための解釈可能性の向上を求めている専門家
従来手法の問題点
SHAP は XAI (Explainable AI; 説明可能な AI) を実現するための一手法です。
ご存じの通り、AI は内部がブラックボックスになっていることで以下のような様々な問題点があります。
- 複雑な機械学習モデル(例:アンサンブルモデルやディープラーニングモデル)は高い予測精度を持つ一方で、その予測結果の解釈が非常に困難である
- そのため、開発したモデルの分析も難しく、また開発したモデルの予測に対するユーザーからの信頼を得ることが難しい
これらを踏まえると、XAI であることが非常に望ましいのですが、XAI を実現するのにも壁があります。
というのも、XAI を実現する手法は SHAP 以外にもいくつかありますが、実はそれらの手法にも欠点があります。
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既存の解釈手法の統一性と比較の欠如
- 現在存在する多くのモデル解釈手法(例:LIME、DeepLIFT、Layer-Wise Relevance Propagationなど)は、それぞれ異なるアプローチをとっており、それらの関連性や相対的な優劣が明確ではない
- そのため、どの手法をどの状況で使うべきかが判断しにくい
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理論的な一貫性の欠如
- 多くの既存手法は、その設計において理論的な一貫性を欠いており、特定の望ましい特性(例:局所的な正確性、欠落性、一貫性)を満たしていない
- これにより、結果が直感に反する場合があるなどの問題が生じる
SHAP
SHAPとは?
SHAP (SHapley Additive exPlanations) は、機械学習モデルの予測を解釈するための統一的なフレームワーク。
SHAP はゲーム理論の Shapley 値に基づいており、各特徴が予測に与える影響を定量化する方法。
なお、Shapley 値とは、ゲーム理論に基づく概念であり、協力ゲームにおいて各プレイヤーが共同で得た利益を公平に配分するための方法。
機械学習においては、Shapley 値はモデルの予測に対する各特徴の重要度を定量化するために使用されています。
メリット
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統一性
- SHAPはLIME、DeepLIFT、Layer-Wise Relevance Propagationなど、既存の複数の解釈手法を統一し、一貫した枠組みで特徴重要度を計算する
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理論的な一貫性:
- SHAPは局所的な正確性、欠落性、一貫性の特性を満たす唯一の方法であり、理論的に堅牢
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直感的な解釈:
- ユーザーの直感に合った説明を提供しやすく、信頼性の高い解釈を行える
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モデルに依存しない:
- SHAPはモデル非依存の方法を提供し、どんなタイプの機械学習モデルに対しても適用可能
デメリット
ここまでは、SHAP (SHapley Additive exPlanations) のいいところについて述べてきましたが、デメリットも当然あります。
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計算コストが高い
- SHAP値を正確に計算するには、特徴の全ての組み合わせに対してモデルの予測を評価する必要があり、これには計算リソースと時間が大量に必要
- 具体的には、特徴の数が増えると計算量が指数関数的に増加するため、大規模なデータセットや複雑なモデルに対しては計算が非常に困難になる
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近似方法の精度
- Kernel SHAP やその他の近似方法を使用することで計算コストを下げることができますが、これらの近似方法は必ずしも正確ではないため、近似によって得られる SHAP 値は、元のモデルの特性やデータ分布に依存し、場合によっては精度が低下することがある
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モデルのブラックボックス性の完全な解消には至らない
- SHAP はモデルの予測に対する特徴の影響を評価するためのツールであり、モデル自体の内部構造や動作を解明するものではない
- そのため、SHAP を使用してもモデルがどのように学習し、予測を行っているかを完全に理解することはできない
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相関関係の問題
- 特徴間に高い相関がある場合、SHAP 値の解釈が困難になることがある
- SHAP は特徴を個別に評価するため、相関のある特徴同士の影響を適切に分離することが難しい
- そのため、特徴の重要度の解釈が曖昧になることがある
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設定とパラメータの選択
- SHAP値を計算する際には、モデルの特性やデータに応じた適切なパラメータ設定が必要
- 不適切な設定やパラメータ選択により、結果の解釈が誤ってしまう可能性がある
- また、各近似方法には固有のパラメータが存在し、それらを適切に設定するためには専門的な知識が必要
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一部のモデルに対する適用の難しさ
- ディープラーニングなどの非常に複雑なモデルに対しては、SHAP 値の計算が特に難しい場合がある
- 特に、モデルの非線形性が強い場合や特徴間の依存関係が複雑な場合、SHAP 値の計算と解釈が困難になる
SHAP のおおまかな手順
SHAP は以下のような手順で XAI を実現しています。
1. データ準備
- モデルに入力するデータとその予測結果を用意する
2. すべての特徴の組み合わせを考慮
- モデルの全ての特徴の部分集合を生成し、ある特徴が存在する場合と存在しない場合のモデルの出力の違いを評価する
- つまり、特徴の組み合わせを使って、部分集合ごとにモデルの出力を計算する
3. モデル出力の差分を計算
- 各特徴の組み合わせについて、ある特徴 $i$ が存在する場合と存在しない場合のモデルの予測値の差分を計算する
- ここで差分は、その特徴が追加されたことによるモデル出力の変化を示している
4. Shapley値の計算
- Shapley 値を以下の式で求める
\phi_i = \sum_{S \subseteq N \setminus \{i\}} \frac{|S|! \cdot (|N| - |S| - 1)!}{|N|!} \left( v(S \cup \{i\}) - v(S) \right)
ここで:
- $N$ は全ての特徴の集合
- $S$ は特徴の部分集合
- $v(S)$ は特徴集合 $S$ に対するモデルの予測値
- $|S|$ は集合 $S$ の要素数
- $|N|$ は集合 $N$ の要素数
5. 近似方法の適用(必要に応じて)
- 全ての特徴の組み合わせを評価するのは計算コストが高いため、Kernel SHAPやShapleyサンプリング値法などの近似方法を使用することもできる
- 近似方法を使用しても、Shapley 値の計算手順は基本的に同じ
6. 結果の解釈
- 計算されたShapley値を使用して、各特徴が予測にどの程度重要であるかを解釈する
- Shapley 値は、特徴の重要度を示すために視覚化するとよい
まとめ
以上が「A Unified Approach to Interpreting Model
Predictions」の要約でした。
LLM 開発においても SHAP は有効な手順であり、また python ライブラリを使ってパッと利用できるので、一度使ってみるのもありだと思います。
おわり。