@kenmaroです。
普段は主に秘密計算、準同型暗号などの記事について投稿しています。
秘密計算に関連するまとめの記事に関しては以下をご覧ください。
概要
今回は、準同型暗号に関する結構いいニュースをお伝えします。
いろいろと準同型暗号(格子暗号)についてのライブラリがあり、私としては
Microsoft SEAL
Concrete
Parisade
などに関してお伝えしてきました。
これらのライブラリは今でも使っていますし、素晴らしい実装で、アプリケーションを作るのにも耐えうる実装がなされています。
今回は、米国の準同型暗号の研究系スタートアップ
Duality Technology
のメンバーや、MITのメンバーたちが開発している、
OpenFHE
ライブラリがバージョンv1系をついに安定版リリースしたことについて言及したいと思います。
なぜOpenFHE なのか
他にもいろいろな格子暗号のライブラリがある中で、なぜOpenFHE
のリリースに注目するべきかというと、
開発しているメンバーたちが格子暗号(準同型暗号)の標準化について非常に積極的に動いているからです。
標準化については、一般的にはIEEEで標準化
が行われた後、ISOで標準化
が行われるとされています。
開発メンバーの一部のDuality Technology
には、非常に有名な暗号学者や、NIST
などにも働きかけのできる強力なメンバーが多数存在しており、米国では政府の援助
も大きく受けています。
また、Intelやその他の巨大企業もバックアップ
していると思われます。
彼らが公式にライブラリを整備している背景には、標準化を大きくプッシュしているからだと考えられ、
予想では2025年までにはIEEE, ISOの標準化も可能という見解です。
OpenFHE の格子暗号実装形式
OpenFHEには
- BFV
- BGV
- CKKS
- CGGI(TFHE)
という格子暗号で使われる形式のほとんど全てが実装されています。
OpenFHEはこれからデファクトスタンダートライブラリに?
今後は、IEEEやISOなどの標準化がステージングされていくにつれて、
このライブラリを本流としてセキュリティに対する評価や実装が信頼たるものなのか、
というような議論がされていくと考えられます。
OpenSSLがメインストリームのライブラリとして使われるようになったように、 OpenFHEがこれから標準化の波を受けて、格子暗号ライブラリのデファクトスタンダードとなることが想像できます。
今までのSEALライブラリや、他のライブラリとも競合して性能や使いやすさがアップしていくという意味で、
他のライブラリをもちろん学習してもいいですし、
これから格子暗号を触ってみようと考えている方は OpenFHEからスタートしてみるのがいいのでは?
と個人的に思っています。
OpenFHE v1 の特徴
OpenFHEv1のリリースに書かれている中で、特筆すべき機能や性能があったのでここで紹介します。
これについてもとてもテンションの上がる内容となっています。
- CKKS形式のブートストラップが2倍高速化
- CKKS形式に対して、sin, cosine, sigmoid などの非線形関数に公式対応(近似による対応)
- ウェブアセンブリへのコンパイル機能の追加
これはどれもすごいことです。。!!
興味がある人は今すぐ試してみましょう、私も試してみてまた記事にしたいと考えています。
CKKS形式のブートストラップ、非線形関数はおそらく実用的な速度を持ってはいないと思いますが、
どの程度の使用感なのか、楽しみですね。
私としては全て試したいですが、特にWasm対応は早く試したいです。
まとめ
今回は、OpenFHEライブラリのv1系の公式リリースをもって、
IEEE、ISO標準化への大きな一歩となった
ディベロッパーとして試すべき新機能が目白押し
という2点についてお伝えしました。
準同型暗号、格子暗号にはいろいろな制約や速度の問題などもありながら、
ソフトウェアレイヤではいろいろなライブラリが開発され、OpenFHEがこれからそのライブラリ群を引っ張っていく
のではないか、
また、それと同時に
ハードウェアによる高速化、ライブラリとの繋ぎ込みがこれから数年で行われ、準同型暗号の社会実装がどんどん進んでいくのではないか と考えています。
これからも期待と共に実装レイヤで私も頑張ろうと思います!
今回はこの辺で。