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「人間のほうがAIっぽい」を検算したら、記事が4倍長いだけでした

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Last updated at Posted at 2026-09-03

自分の本に、こう書きました。

人間が書いたQiita記事のほうが、どのAIモデルよりも「AIっぽい」スコアになった。

6つのLLMに同じテーマで日本語を書かせ、対照群としてQiitaの人間記事を並べた実験の結論です。書いた本人が一番驚きました。

5ヶ月後に検算して、撤回しました。

原因は文化ではありませんでした。長さです。

何を測っていたか

まず撤回する前の話から。

AI Text Slop Score という複合スコアを作って、7つのソースを並べました。見出しの多さ、箇条書きの多さ、太字、「いかがでしたでしょうか」的な定型結論、AI頻出語彙、ヘッジング。そういう指標を合算した数字です。

ソース Score
Human (Qiita) 28.5 ± 8.1
Claude Sonnet 4 21.5 ± 4.5
GPT-4o 19.8 ± 6.3
Qwen 3.5-4B 16.7 ± 5.8
Qwen 3.5-9B 15.6 ± 4.2
gpt-oss 20B 15.2 ± 6.3
Llama 3.2-1B 10.3 ± 8.8

人間が1位です。

指標ごとに見ると、押し上げていたのは構造のほうでした。

指標 Human Claude S4
見出し 22.4 14.7
リスト 31.8 14.6
定型結論 2.20 1.03
太字 13.6 10.0
AI頻出語彙 2.70 3.43

語彙ではAIが上。構造では人間が圧勝。

私はこの差の理由を、Qiitaの執筆文化に求めました。「はじめに」「環境」「手順」「まとめ」の見出し構成、番号付きリスト、結びの一言。書き手がいいねの付くフォーマットに最適化された結果、AIのRLHFと同じ方向へ寄っていった、という筋書きです。「AIくささ」だと思っていたものの正体は、日本語技術ブログの慣習です。

話がきれいにまとまりました。この時点では、まだ確かめていません。

確かめずに通した箇所

5ヶ月ぶりに実験の記録を開き直して、最初に目に入ったのがこの表でした。

ソース 平均文字数
人間 (Qiita) 8,023
Llama 3.2-1B 3,897
Claude Sonnet 4 2,266
Qwen 3.5-4B 1,801
GPT-4o 1,751
Qwen 3.5-9B 1,535
gpt-oss 20B 1,519

AIには「800字程度で書いてください」と指示していました。人間の記事に、そんな制約はありません。

長いのは対照群のほうでした。AI 6モデルの平均が2,128字、人間が8,023字。3.8倍です。

そして私が比べていたのは、見出し「数」、リスト「数」、太字「数」、定型結論「数」でした。

全部、生のカウントです。割っていません。

8,000字に見出しが22個あるのと、1,500字に見出しが6個あるのと、どちらが構造的でしょうか。前者は364字に1つ、後者は250字に1つです。数なら前者が勝ちますが、密度なら後者のほうが濃い。

図にするとこうなります。

長さが、書き手と指標の両方に効いています。教科書どおりの交絡です。私が見たかったのは点線のほうで、実際に測っていたのは実線のほうでした。

1,000字あたりで割り直す

記事ごとに指標を文字数で割り、密度に直して平均を取りました。

人間ベースラインは10本として集計していましたが、記録を1本ずつ開いたら同じ記事が複数回入っていました。文字数8,554の記事が3本、4,328の記事が2本。指標値も完全一致です。実質7本でした。 しかも3重に入っていたほうはスコア35.4で、人間側の最高値です。最高値が3回入れば、平均は当然押し上がります。重複を除くと28.5は27.7に下がりました。それでもClaude 21.5より上です。順位を動かしたのは、このあとの割り算のほうでした。

密度はこの7本で計算しています。上の生カウント(見出し22.4など)は10本の平均なので、この2つの表はそのまま突き合わせても合いません。差は小さく(太字なら13.6対13.1)、順位も動きませんが、母数は違います。

指標 人間 Claude GPT-4o Qwen4B Qwen9B gpt-oss Llama
見出し 2.71 7.15 5.80 3.81 4.40 5.22 2.58
リスト 3.81 6.94 4.59 0.80 0.81 8.17 0.81
太字 1.59 4.74 3.02 2.96 4.00 6.83 3.97
三点セット 0.20 0.63 0.67 0.61 0.70 1.10 0.06
定型結論 0.29 0.48 0.46 0.32 0.48 0.86 0.02
AI頻出語彙 0.44 1.52 1.98 1.53 1.53 0.55 0.45

順位がどう動いたか。

  • 見出し 22.4個で 1位 → 密度2.71で 7者中6位
  • 定型結論 2.20で 1位 → 密度0.29で 6位
  • 三点セット 1.10で4位 → 密度0.20で 6位
  • 太字 13.6個で2位 → 密度1.59で 最下位
  • リスト 31.8個で1位 → 密度3.81で 4位

リストだけが4位に残りました。Qiitaの手順記事は、本当に箇条書きが多いです。ここだけは文化で説明する余地が残っています。

他は全部沈みました。密度で見ると、人間のQiita記事はAIより「AIっぽく」ありません。

撤回しても、半分は残る

当時、私は2つのことを言っていました。

  1. 構造指標では人間のほうが高い。だから「AIくささ」は日本語ブログの文化だ
  2. 語彙指標ではAIのほうが高い。だから検出には語彙を使うべきだ

1つ目は撤回します。「Qiitaの文化が構造を押し上げた」という説明が間違いだと証明できたわけではありません。ただ、長さという、より単純な説明を退けられていません。 それだけで採用できません。

2つ目は、密度で割り直したらむしろ強くなりました。AI頻出語彙の密度は人間0.44に対してGPT-4o 1.98、Claude 1.52。人間は7者中最下位です。生カウント(人間2.70 対 Claude 3.43)では0.73差しかなかったものが、密度では3倍以上ひらきました。

割り直したら、派手なほうの結論が消えて、地味なほうが濃くなりました。撤回で全部が崩れるわけではありません。

同じ失敗を2回やっています

もう1つ、正規化を忘れた例があります。

私は以前、日本語のAI過剰語彙651語を統計的に有意として発表していました。トークン単位のχ²検定です。そのリストで1位になったのは「ハッシュ」という語でした。過剰スコア +189.1、出現402回。堂々の首位です。

内訳を見ました。たった2文書での連呼でした。

ハッシュ関数の解説をたまたま書かされた生成文書が、「ハッシュ」を延々と繰り返していただけです。それがコーパス全体を代表するAI過剰語彙の第1位として、集計表の一番上に居座っていました。文書単位で数え直したところ、有意性は消えています。

トークン数で数えて、文書数で割りませんでした。文字数で数えて、文字数で割りませんでした。

同じ形の間違いです。2回。

撤回は1章では終わらない

数値を1つ取り下げると、それを引用している場所が全部ずれます。

結果として、はじめにから参考文献、図版の説明文にいたるまで、20ファイル以上に手が入りました。以前 1行修正を依存グラフ化したら28ファイルに波及した話 を書きましたが、原稿でも同じことが起きます。「小さな訂正」は嘘でした。

しかも図版が厄介でした。本文を直しても、PNGに焼き込まれた数字は直りません。grepにも引っかかりません。生成元のHTMLを残していなかった図は、まるごと作り直しになりました。

まとめ

  • 「人間のQiita記事はAIよりAIっぽい」は、対照群だけが平均3.8倍長かったことで説明がつく。撤回した
  • 1,000字あたりに割り直すと、見出しは1位から6位、太字は2位から最下位へ落ちた。リストだけが4位に残った
  • 対照群10本のうち実質7本だった。同じ記事が3重に入り、それが人間側の最高値だった
  • 語彙の側は逆に強くなった。密度では人間0.44 対 GPT-4o 1.98で、生カウントの0.73差が3倍以上にひらいた
  • 同じ「正規化忘れ」を2回やっている。トークン数を文書数で割らず、文字数を文字数で割らなかった
  • 数値1つの撤回は20ファイル以上に波及する。図版に焼き込んだ数字はテキスト検索に引っかからない

面白い結果ほど、その場では検算していません。 長さの違う文章を生カウントで比べてはいけません。書いてしまえば当たり前の話です。それでも確かめないまま、一番目立つ結論として本の冒頭に置きました。話として気持ちがよかったからです。

みなさんが最近出した数字で、群ごとに長さや母数が揃っていないものはありますか。ベンチマークでも、ログ集計でも、LLMの評価でもいいです。割ってみたら順位が変わった、という報告をコメントで読みたいです。私の場合は1位が6位になりました。

参考文献


📖 6モデル180サンプルの実測と、初版自身の誤りの訂正まで1冊にまとめています

AIくさい文章から脱出する技術 -- 6モデル180サンプルの実測で「バレる文章」を16の指標で特定した本

本記事は撤回した1つの結論に絞りましたが、書籍では検出される16の指標、語彙とリズムのどちらで判別されるのか(判別精度AUCで0.998対0.897)、AI頻出語の置換辞書まで26章で扱っています。この撤回の記録も、初版を消さずに残したまま収録しました。

👉 AIくさい文章から脱出する技術

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