はじめに
土曜の朝、ぼーっとメールを開いたら、こんな件名が並んでいました。
【国税庁】未納付のお知らせ(自動配信)
開いたら本文には「所得税 99,172円が未納、滞納処分(財産の差押え等)に移行します」と書かれていました。
え。
私はこの一年、確定申告に本気で取り組みました。所得税・消費税の申告に加えて、エンジェル税制の更正の請求まで自力で対応しました。計算明細書を税務署に郵送し、還付額の訂正電話まで自分でやって、そこそこの還付金待ちをしていたタイミングです。
「もしかして、計算ミスったか…?」
数秒、本気で固まりました。
結論から言うと詐欺メールでした。送信元ドメインは .cn(中国)。本文には簡体字「收」が混入しており、Gmailもフィッシングとして自動マーク済みでした。
ただ、手口があまりに巧妙でした。確定申告終了直後・還付金待ちのタイミングを完全に狙い撃ちしてきています。同じメールを受け取った個人事業主・フリーランスの被害防止になればと、判定根拠と対応方法を共有します。
この記事で書くのは次の4つです。
- 届いた詐欺メールの全文(マスク済みスクショ付き)
- 私が「詐欺」と判定した4つの根拠
- なぜこのタイミング・この層が狙われるのか
- 受け取った時の推奨対応
届いたメールの全文
5月23日(土) 4:35、こんなメールが届きました。
主要部分を文字起こしすると次の通りです。受信者を特定できる情報以外は原文ママです。
件名: 【国税庁】未納付のお知らせ(自動配信)
差出人: e-Tax(国税電子申告・納税システム)
<e-Tax6210837506106@rhqvqdfm.avjwbj.cn>
日時: 2026年5月23日(土) 4:35
下記の国税につきまして、納期限を経過しておりますが、
現在も納付が確認されておりません。
本状到着後、速やかに納付手続きを行ってください。
────────────────────────────────────────
整理番号:67527620
発行日時:2026-05-23 04:35:52
税 目 :所得税(令和6年確定申告分)
納付すべき税額:99,172円
(内訳:本税 94,500円 延滞金 4,672円)
法定納期限:令和7年3月15日(既に経過)
────────────────────────────────────────
期限までに納付がない場合、国税通則法第37条に基づき
滞納処分(財産の差押え等)に移行します。
▼ 納付手続・納付状況の確認はこちら
https://www.e-tax.nta.go.jp/payment
ぱっと見、それなりに整っています。整理番号があり、税目があり、内訳が分かれ、根拠条文(国税通則法第37条)まで引用されている。
ただ、よく見るとおかしな点が複数あります。
詐欺と判定した4つの根拠
それぞれ独立した証拠なので、どれか一つでも当てはまればまず詐欺で確定です。
1. 送信元ドメインが .cn(中国)
差出人欄をよく見るとこうなっています。
<e-Tax6210837506106@rhqvqdfm.avjwbj.cn>
@ の右側にあるドメインは rhqvqdfm.avjwbj.cn です。末尾は .cn、中国の国別トップレベルドメインです。
日本の国税庁・e-Tax の正式ドメインは次のいずれかしかありません。
| 機関 | 正式ドメイン |
|---|---|
| 国税庁 | nta.go.jp |
| e-Tax | e-tax.nta.go.jp |
| 国税電子申告納税システム | e-tax.nta.go.jp |
.go.jp は日本政府機関しか取得できません。中国ドメインから国税庁を名乗るメールが来ること自体、絶対にありえません。
差出人欄の 「表示名」 はメールアドレスとは別物で、誰でも自由に設定できます。「e-Tax(国税電子申告・納税システム)」と書かれていても信用できる材料にはなりません。必ず < > の中の実アドレスを確認してください。
2. 国税庁はメールで督促をしない
これは制度として決まっていることなので、知っておくと一発で見抜けます。
国税庁からの督促は、必ず書面(督促状)で郵送されます。
e-Tax のメールで届くのは「メッセージボックスに新着通知があります」というお知らせだけで、金額の請求や差押え予告は本文に含まれません。
もし本物の督促状や差押え予告であれば、次のような経路で届きます。
いきなりメール本文に金額と「滞納処分」が書かれていた時点で、詐欺の可能性が極めて高いと判断できます。
3. 本文に簡体字「收」が混入
これが一番分かりやすい証拠でした。
メール本文の一部に「收信人」という表記がありました。日本語では「受信人」または「宛先」と書きます。
「收」は簡体字(中国本土で使われる字体)で、日本では使われません。
| 字体 | 「うける」の字 | 使用地域 |
|---|---|---|
| 日本の漢字(新字体) | 受 | 日本 |
| 中国の簡体字 | 收 | 中国本土 |
| 中国の繁体字 | 收(一部用途で使用) | 台湾・香港 |
日本の役所が出す文書で簡体字が混入することは絶対にありません。この一文字を見つけた瞬間に詐欺確定でいいレベルの強い証拠です。
おそらく中国語圏で作られた詐欺テンプレートを機械翻訳・手動コピペで日本語化する過程で、こういう字が紛れ込んだのでしょう。
4. リンクのURLが偽装されている可能性が高い
メール本文には次のリンクが表示されていました。
▼ 納付手続・納付状況の確認はこちら
https://www.e-tax.nta.go.jp/payment
表示文字列としては本物の e-Tax ドメインに見えます。しかし、HTMLメールでは、「画面に表示される文字」と「実際のリンク先」を別々に設定できます。
<!-- 表示は本物のドメイン、実際は偽サイトに飛ぶ典型例 -->
<a href="https://nta-paydecember-jp.example-phishing.cn/login">
https://www.e-tax.nta.go.jp/payment
</a>
私はクリックしていないので実際の遷移先は未確認ですが、Gmail がフィッシングとして自動マークしている事実から判断して、ほぼ間違いなく偽サイトに飛ぶ実装でしょう。
確認方法は簡単で、リンクの上にマウスカーソルを乗せると(クリックせず)、ブラウザ・メールソフトの左下に実際のURLが表示されます。そのURLが本物のドメインと異なれば詐欺です。
なぜこのタイミング・この層が狙われるのか
ここが地味に怖いポイントなのですが、詐欺メールは「確定申告が終わってホッとしているタイミング」を完全に狙ってきます。
理由は3つあります。
- 税務関連メールへの感度が高い時期:直前まで e-Tax を触っていたため、「国税庁」「e-Tax」というキーワードが入ったメールは反射的に開いてしまう
- 還付金待ちで国税庁とのやりとりが継続中:「あれ、追加で何か連絡来た?」と思ってしまう
- 自分の計算への不安:特に私のように更正の請求まで自力でやった人ほど、「もしかして計算ミスったか?」という疑念が一瞬よぎる
3つ目が一番効きます。私自身、エンジェル税制の手書き計算明細書を税務署に郵送し、その後の還付額訂正の電話まで自分でやった直後でした。「あの計算、どこか間違えていたんだろうか」という不安が一瞬よぎったのは事実です。
この一瞬の動揺を狙ってリンクをクリックさせるのが手口の本質です。
特に狙われやすいのは次のような方だと思われます。
- 個人事業主・フリーランスで確定申告を自力でやっている方
- 申告内容に多少なりとも自信がない方
- 申告終了から1〜2ヶ月以内(つまり3月〜5月頃)の方
- 還付申告で還付金待ちの方
…はい、思いっきり私です。
受け取った時の推奨対応
詐欺と判定したらやるべきことを順に書きます。
やるべきこと
-
メール本文のリンクを絶対にクリックしない
- URLが本物に見えても、実際のリンク先は別の可能性が高い
-
添付ファイルがあっても開かない
- PDFや実行ファイルの形でマルウェアを仕込んでいることがある
-
Gmail/Outlook の「フィッシングを報告」機能を使う
- Gmail なら右上の「︙」から「フィッシングを報告」
- 同じドメインから他の人に届かなくなる可能性が上がる
-
迷惑メールフォルダに振り分け
- 同じ送信元からの今後のメールを自動でブロック
-
本当に未納分があるか心配な場合
- 所轄税務署に直接電話する(電話番号は国税庁公式サイトから)
- e-Tax のメッセージボックスにログインして確認する(メール内リンクではなく、ブラウザから直接
https://www.e-tax.nta.go.jp/を開く)
やってはいけないこと
- メール内のリンクをクリックして「念のため確認」しに行く
- 「迷惑メール解除」「配信停止」リンクをクリックする(こちらも詐欺サイトに繋がっている可能性あり)
- 返信する(送信元アドレスの有効性確認に使われる)
もし開いてしまった人へ
万が一クリックしてしまった場合でも、すぐに次の対応を取れば被害を防げる可能性が高いです。
| 状況 | 対応 |
|---|---|
| ページを開いただけで何も入力していない | ブラウザを閉じる。それだけでまず大丈夫 |
| メールアドレス・電話番号を入力した | 当面、フィッシング・スパムが増える可能性あり。慌てなくてよい |
| クレジットカード番号を入力した | カード会社に即連絡、カード停止・再発行 |
| 銀行口座・暗証番号を入力した | 銀行に即連絡、口座凍結 |
| ファイルをダウンロード・実行した | PCをネットから切り離し、ウイルススキャン |
特にクレジットカード番号や銀行口座情報を入力してしまった場合は、時間との勝負になります。気づいたら即座に該当の金融機関に連絡してください。被害発生後でも、早ければ早いほど補償される可能性が上がります。
まとめ
国税庁を騙ったフィッシング詐欺メールの見分け方を4つにまとめると次の通りです。
-
送信元ドメイン:
@の右側を確認。nta.go.jpまたはe-tax.nta.go.jp以外は偽物 - 督促ルート:国税庁からの督促は書面のみ。メールで金額請求は絶対に来ない
- 本文の細部:簡体字や中国語的な言い回しが混入していないか確認
- リンクのhref:表示文字列ではなく実際のリンク先を確認
確定申告終了直後・還付金待ちのタイミングは、税務関連メールへの感度が一年で最も高くなる時期です。詐欺側もそれを完全に分かっていて、この時期を狙って撃ってきます。
特に申告を自力で行った方は、「自分の計算、合っていただろうか」という疑いが一瞬よぎりやすい時期でもあります。動揺した瞬間ほど、上記4つの判定ポイントを思い出してください。
同じメールを受け取った方がいれば、コメント欄で他の見分けポイントや受信報告を共有してもらえると、読者全体の被害防止精度が上がります。
