インターネットで無料サイトに頼っていると、時折
「広告がたくさん出てくるサイト」に出会うことがあります。例えばこれ。
無料で動画を圧縮してくれるサービス。
無料ということもあって、とにかく広告が多い。
実はこういうサイト、広告サプライチェーンが蜘蛛の巣のように張り巡らされています。
これを見てください。クリックで拡大できます。
この図はDecryptAdsを使って作成された、freeconvert.com を起点とする広告サプライチェーンの見える化です。例えば、
- 🟢 緑の実線:Publisher自身が所有するseller seatへの接続
- 🔵 水色の実線:仲介事業者が所有するseller seatへの接続
- 🔴 赤の破線:対応するseller情報を正常に辿れない経路
- 🟣 紫の破線:
ads.txtとsellers.jsonのDIRECT/RESELLERの宣言が不整合な経路
など。それぞれ線の色で意味が違います。
ちなみに赤や紫の経路が存在すること自体は、不正や危険性を直接意味するものではありません。公開されている広告情報どうしで内容がうまく一致していないことを示しているだけです。
このように、DecryptAdsを使えばサプライチェーンの鎖が一目瞭然となります。
(※ DecryptAdsは無料公開されているサービスで、誰でも使うことができます。)
今回は、赤い点線の先にある、とある1つの広告を調べてみます。
右側のサイトをクリックすると、詳細確認ができます。
この appnexus.com では、sellers.json に 3,048件のseller が登録されていて、DecryptAds上では 115,894のPublisher とのつながりが確認できます。
RISK 34/100、TRUST Low trust といった DecryptAds 独自の評価も表示されます。
RISK や TRUST はDecryptAdsが公開情報をもとに自動で算出した指標です。数値が悪いからといって、その事業者が不正を行っているという意味ではありません。本記事ではこの評価自体の妥当性については扱いません。
ではそもそも、DecryptAdsさんはどうやって広告の情報を取得しているのでしょうか。
別に、特殊なハッキングを行っている訳ではありません。
ほとんどのWebサイトでは
https://ドメイン/ads.txt
をブラウザで開くだけで広告の情報が取得できます。
ads.txtはいわば、Publisherが「この会社には自分の広告枠を販売する権限があります」と公開宣言するための標準です。
実際に例のサイトで開いてみます。この操作は誰でもできます。
FreeconvertさんはGoogle以外にもたくさんの販売経路があるということが、この公開情報からわかります。これがさっきの画像の蜘蛛の巣に繋がっているわけです。
この画像、よく見ると
appnexus.com,1908,RESELLER,f5ab79cb980f11d1
appnexus.com,3663,RESELLER,f5ab79cb980f11d1
とありますね。実際に appnexus.com さんに行ってこの情報を調べてみましょう。
さっきと同じ要領です。sellers.jsonを見るには
https://ドメイン/sellers.json
で出せます。対応する https://acdn.adnxs.com/sellers/1d/appnexus/sellers.json
に飛んで検索してみます。
Seller ID 3663は確認できます。しかし、
1908は見つかりません。
このように、ads.txtに記載されているseller IDが現在のsellers.jsonでは確認できない場合があります。DecryptAdsでは、このような「宣言はあるのに相手側の情報まで正常に辿れない経路」を赤線として可視化しているのです。
これがDecryptAdsの赤線の仕組みです。
さらに調査したいので、DecryptAdsを使ってこのSeller ID 1908を調べてみましょう。
見つかりました。情報が次のように記録されています。
Ad system: appnexus.com
Seller ID: 1908
Name: District M
Domain: districtm.net
Seller type: BOTH
Status: HISTORIC ONLY
時間情報のところでこのように書いてありますね。
First seen: 2026-03-20 07:45:01
Listing scan time: 2026-03-23 18:11:31
Latest file (exchange): 2026-08-15 04:36:06
ここからわかることはつまり、
「seller ID 1908 は昔のAppNexusのsellers.jsonには実在していてDistrict Mという事業者に割り当てられていたが、現在のsellers.jsonからは消えている」
ということです。
2026年3月23日を最後に現在のsellers.jsonからは確認できなくなったのに、FreeConvert側の現在のads.txtには、このseller IDが現在もRESELLERとして残っている。
契約が終了したのか、事業者側の更新の問題か、その辺の事情はこのサービスだけではわかりません。
ここからは、少し探偵みたいになってきます。
さっきの画面で出た District Mという奴について、徹底的に調査してみましょう。
District Mは広告取引を行っていたAdTech企業でしたが2021年にSharethroughとの合併を発表。そのSharethroughも2024年にEquativによって買収され、2025年6月にはSharethroughブランドをEquativへ完全統合することが発表されています。
つまり企業の系譜をとしては
District M
│
│ 2021年
▼
Sharethrough
│
│ 2024年 Equativが買収
▼
Equativ + Sharethrough
│
│ 2025年 ブランド統合
▼
Equativ
現在のEquativ公式サイトを見ると、SharethroughはすでにEquativへ統合された存在として扱われています。こうして調べてみると、FreeConvertのads.txtに残っていたたった一つの数字
1908
から、
FreeConvert → AppNexus → District M → Sharethrough → Equativ
という企業の変遷まで辿ることができるわけです。
もちろん1908が現在のsellers.jsonから消えた理由そのものはこの情報だけでは断定できませんが、アカウント整理や企業統合などさまざまな可能性がありそうです。つまり、
広告会社の合併・ブランド変更をまたいだ複数世代の宣言が同居している可能性がある
ということです。
たった1本の赤い線に、これだけのストーリーがあるのです。
これで、
赤や紫の線があるからといって怪しい業者とは限らない
ということがわかっていただけたかと思います。
※ 本記事の確認結果は2026年8月16日時点のものです。ads.txt / sellers.jsonやDecryptAdsの表示内容は更新される可能性があります。また、公開情報の不整合や複雑さそのものは、不正や危険性を意味するものではありません。
おまけ : 他のサイトも見てみよう!
DecryptAds は探偵ごっこをするのも面白いのですが、身近なサイトの広告サプライチェーン構造を調べるのも面白いです。今回は4つピックアップさせていただきました。
ケース1 . オリコンニュース
有名な芸能ニュースサイトです。
サイトを開くと大きなネットゲームの広告がお出迎え。これは期待できそうです。
オリコンのサプライチェーンマップはもはや芸術の領域で、蜘蛛の巣という表現を遥かに超えたものになっています。もちろん、広告サプライチェーンが巨大だからといって、そのサイトが怪しいというわけではありません。
ケース2 . NAVITIME
いつも乗り換え検索などでお世話になっています。
広告のイメージはあまり強くないですが、果たして...
NAVITIMEのサプライチェーンもオリコンに負けないくらい複雑です。
よく見るとseats truncated to 5000 of 5619と言っていて、これは多すぎるからノードを切るという意味です。普段見ているWeb広告の裏側には、これだけ複雑なネットワークが広がっています。
ケース3 . いらすとや
資料の作成などで何度もお世話なっている、いらすとや。
シンプルなイラストで大きな話題を呼びました。
いらすとやの広告サプライチェーンを調べる人なんて、なかなかいないはずです。
まさかのGoogleのみ。
詳しく調べるために、左上のindeedをチェックします。
確かにGoogle系の広告配信が使われているようです。adsbygoogle.jsはGoogle AdSenseの本体スクリプトです。
ケース4 . Qiita
もちろん、いま皆さんが見ているQiitaの広告サプライチェーンを調べることもできます。
QiitaもオリコンやNAVITIMEに負けないぐらい複雑です。
ちなみにInvalidを含めないと、

こんな感じになっています。仲介事業者との繋がりも見えて、公開情報が照合できた経路だけでも相当複雑なものになっていることがわかります。
これで、
広告サプライチェーンが複雑だからといって、怪しいサイトとは限らない
ということもわかっていただけると思います。
まとめ
楽しんでいただけたでしょうか。
DecryptAdsは無料なのに、広告サプライチェーンを親しみやすい形で可視化してくれます。
探偵ごっこから普段使っているサイトのサプライチェーン構造の分析まで、大人の自由研究としていかがでしょうか。


















