※お詫び:読みやすさ改善のため記事を全2回から全3回にしました。この記事は3回中の1回目となります。このため記事タイトルを修正し、一部記述を追加・修正ました。
はじめに
昨年(2021年)Windows 11がリリースされました。
Windows 11に限らずWindowsには「システム要件」と呼ばれる「インストールに最低限必要なシステム(主にハードウェア)スペック」が定義されています。
ストレージの要件は、Windows 11の場合、容量について「64 GB以上」です[1]。
今回から 2 3回の記事で、OSのインストールに適したストレージの要件について説明したいと思います。
今回の記事では、Windowsのシステム要件におけるストレージ容量の変遷、実際に必要と考えられる容量、そしてOSをインストールするストレージに求められる性能のヒントを説明します。
なお、2回目の記事ではOSの起動時間短縮に寄与する性能について説明し、最後の3回目の記事ではシステムドライブに求められる特徴と特にSSDを使う場合にSSDに求められる機能をまとめます。
まとめ
- Windows歴代バージョンのシステム要件では、ストレージは容量のみ規定され、かつ増えている
- 「性能要件」は示されていない
- 「OSのインストールに適したストレージの性能」には「OSの起動が早いこと」が含まれるのではないか
32 GB SSDにWindows 11インストールしようとした
上記の通り、Windows 11のインストールに必要なストレージ容量は「64 GB以上」とされています。
そこで、32 GBのSATA SSDにWindows 11(Pro、Home共に)がインストールできるか試しました……が、結果はもちろんインストールできませんでした。
図1:ストレージの容量不足でWindows 11がインストールできない様子
ストレージの容量が足りないとこんな風に表示されるのですね。初めて見ました。
図1を拡大したものが以下の図2です。「(空き容量が)52 GB以上必要だ」と表示されています。
この表示を見ると、確かにWindows 11のインストールには最低でも64 GB SSDを用意する必要があるようです。
Windowsのストレージ容量要件の遷移
そこで、Windowsのシステム要件におけるストレージ容量(空き容量)の変遷を調べました。ここではデスクトップ版のみを挙げています。
表1:Windows(デスクトップ版)のバージョンとストレージ要件
バージョン(名称) | リリース年 | ストレージ要件(容量) |
---|---|---|
Windows XP | 2001年 | 1.5GB 以上の空き容量[2] |
Windows Vista | 2006年 | 20 GB以上(空き容量15 GB以上)[3] |
Windows 7 | 2009年 | 16 GB(32ビット版)、20 GB(64ビット版)[4] |
Windows 8 | 2012年 | 16 GB(32ビット版)、20 GB(64ビット版)[5] |
Windows 10 | 2015年 | 16 GB(32ビット版)、32 GB(64ビット版)[6] |
Windows 11 | 2021年 | 64 GB[1] |
Windows XPとWindows 11を比較すると隔世の感があります。
デスクトップ版のほかには、Windows ServerやWindows RT、Windows Mobile、Windows IoT Coreなど様々なエディションがあり、各エディションの特性によりストレージ要件は異なります。
例えば、Raspberry Pi向けイメージもリリースされたWindows 10 IoT Coreのストレージ要件(容量)は2 GB[7]です。
いずれにしても、ストレージ要件(容量)は増えてきました。今後も増えていくと考えられます。
現状、Windowsの快適な動作に十分な性能を持つ64 GBのドライブを店頭で探すのは難しいです。
そもそも、アプリケーションのインストールやインストール後の運用(Windows Updateなどによるもの)を考えると容量64 GBでは到底心許なく、またSSDの場合は容量が大きいほうが(余裕が多いほうが)性能も高くなりかつ寿命の有効活用が期待できるので、より容量の大きいドライブが選択肢になります。
店頭での入手性や性能面、またコストパフォーマンスを考慮すると、SSDであれば512 GB以上が良いと考えます。私が調べた昨年(2021年)末時点での512 GBモデルの平均小売価格では、SATA SSDとPCIe Gen3接続のSSDは1万円未満、PCIe Gen4接続のSSDでも1万5千円未満です。
OSをインストールするドライブに必要な性能
ここまでストレージの要件として記載されていたものは容量のみでした。つまり、シーケンシャルリード/ライトなどの性能要件がありません。
とはいえ「OSをインストールするドライブに求められる性能は何か?」が気になりますよね。
「システムドライブ(=OSをインストールするドライブ)」に行われ、「非システムドライブ」には行われないワークロードはもちろん「OS起動処理のワークロード」です。
すると、「OSをインストールするドライブに求められる性能」には 「OSの起動が早いこと」が含まれる、と考えられます。
このことに関して、興味深い評価結果が先日公開された記事[8]に掲載されていました。
この記事はHDD、SATA SSD、PCIe Gen3接続SSD、そしてPCIe Gen4接続SSDについて、様々な方法と指標で評価した結果をまとめたものです。その中で、OS起動時間に関する評価結果を次のようにまとめています。
まずは、OS起動時間だが、PCIe 4.0/PCIe 3.0 SSDの3製品がきれいに横並びになった。3製品の差は、コンマ数秒しかなく、誤差とっても問題ではないほどのわずかの差しかない。また、SATA SSDとPCIe 4.0 SSD/PCIe 3.0 SSDとの差も約1秒ほどしかない。
この結果から、SATA SSDでもOS起動についてはPCIe 4.0 SSD/PCIe 3.0 SSDにかなり近い体感性能を得られることが分かる。一方でHDDは、特に電源オンからデスクトップが表示されるまでにSSDの約3倍の時間を要するなど、大きな差が出ている。
つまり、「OS起動時間について言えばSATA SSDとPCIe接続のSSDとで体感性能はそこまで大きく変わらない」ということです。
記事に掲載された評価対象SSDのスペック表を見ると、少なくともSATA SSDとPCIe接続SSDではシーケンシャル性能もランダム性能も桁が違います。つまり、この性能差はOS起動時間に影響していないことになります。
もちろん、OS起動時にはストレージアクセス以外にも各種ハードウェアの初期化処理が様々なタイミングで行われるため、ストレージの性能差がOS起動時間の差に現れにくい、という理由もあります。
しかし、HDDとSSDを比較するとOS起動時間に大きな差(数十秒単位)がついています。
そのヒントは、記事にも記載された「Queue Depth = 1 (Q1)の性能」にあります。記事に掲載されているCrystal Disk Markによる評価結果を見ると、SATA SSDとPCIe接続SSDとではこの性能("Q1T1"のグラフを参照)は桁が同じで、SSDとHDDとではこの性能は桁が違う、ことがわかります。
次回の記事では、OSの起動処理時間短縮になぜストレージのQD = 1の性能が重要なのか、についても説明します。
まとめ
この記事では、Windowsの歴代バージョンにおけるストレージのシステム要件をまとめ、容量要件が増えていること、要件には容量のみ規定されていることを説明しました。
そして「システム要件に容量しか規定がない」ことから、「OSのインストールに適したストレージの性能とは何なのか?」という問題提起を行い、「OSの起動にかかる時間の短縮に寄与すること」がその答えの一つではないか、と説明しました。
次回は、 OSの起動時間短縮に寄与する性能を含め、「OSのインストールに適したストレージ」に求められる性能以外の要件についてまとめます。 OSの起動時間短縮に寄与する性能について説明します。
References
[1] Microsoft、「Windows 11 の仕様、機能、コンピューターの要件を確認する」、2022年2月6日閲覧
[2] Microsoft Windows XP - Wikipedia、2022年2月8日閲覧
[3] Microsoft Windows Vista - Wikipedia、2022年2月8日閲覧
[4] Microsoft、「Windows 7 のシステム要件」、2022年2月8日閲覧
[5] Microsoft Windows 8 - Wikipedia、2022年2月8日閲覧
[6] Microsoft、「Windows 10 インストールのシステム要件」、2022年2月8日閲覧
[7] Microsoft、Windows minimum hardware requirements、2022年2月8日閲覧
[8] 北川 達也、「同じSSDでもこれだけ違う。SATAから第4世代PCIeまで速度差を検証」、PC Watch、2022年2月8日
ライセンス表記
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