この記事は連載「生成AI時代、エンジニアは何で食っていくのか」の導入編 #01 です。
- #01 「作れる」は武器じゃなくなった。これからは「見抜ける」が問われる時代 ← 今ここ
- #02 PM・SE・PG というロールは消える。代わりに来るのは、まだ名前もない職種だ
- #03 変化の波に飲まれないために。今すぐできる、3つの方向転換
はじめに
コードを書けること自体の市場価値は、確実に下がっています。
これは脅しではなくて、現実の話。
GitHub Copilotを使えば、ちょっとした機能なら数分で形になる。Claude Codeに頼めば、設計の骨格まで出してくれる。「ゼロから書く」という作業の価値が、ものすごいスピードで希薄化しています。
実際に現場で感じている方も多いんじゃないでしょうか。「これ、AIに頼んだら5分で書けたやつだよな」という場面が、1年前より明らかに増えました。
製造業の歴史が、今のエンジニアと重なる
ふと思い出したのが、製造業の歴史です。
工場に機械が入ってきたとき、熟練の職人が「手で作る」技術は要らなくなった。ウェルダー(溶接工)も、旋盤工も、機械が精度よく代替するようになりました。
でも——代わりに増えたのが**「検品」**という仕事でした。
機械が作ったものが本当に使えるかどうかを、目と手と経験で確かめる人たち。「ここのバリが製品寿命に影響する」「この公差はスペック上OKだが、現場では問題になる」——そういう判断を下せる人の価値は、むしろ上がりました。
これ、今のソフトウェア開発と全く同じ構図だと思っています。
| 製造業(機械化後) | ソフトウェア開発(AI後) |
|---|---|
| 機械がパーツを製造 | AIがコードを生成 |
| 熟練工による検品・調整 | エンジニアによるレビュー・検証 |
| 不良品の発見・原因特定 | バグ・セキュリティ・設計ミスの発見 |
| 品質基準の判断 | 「使えるかどうか」の総合判断 |
AIが書いたコードの、何を見ればいいのか
では具体的に、「見抜く力」とは何を見ることなのか。私が現場で意識するようになったポイントを整理してみます。
1. 動く ≠ 正しい
AIが生成したコードは、驚くほど「一見動く」ものが多い。でも動くことと正しいことは別です。
たとえばデータベースへのアクセス処理。AIはSQLインジェクション対策を忘れることがあります。動作確認では問題なく見えるけど、悪意あるユーザーが来たらアウト。こういうのを「動いたからOK」で通してしまうのが、今いちばん怖いパターンだと思っています。
2. 「なぜそう書いたか」が説明できるか
コードレビューで「なぜここにこのロジックが必要なのか?」と聞くと、AIに生成させた本人が答えられないケースが出てきました。
生成AIは文脈を知らずにパターンマッチングでコードを書く。だから「このAPIの仕様上、ここでエラーハンドリングが必要な理由」を理解した上で書いているわけではありません。
自分が書いたコードの意図を説明できないのは、写経と同じです。 それ自体は悪くないけど、説明責任を持つエンジニアとしてはリスクになります。
3. ビジネスロジックとの整合性
AIは要件の背後にある「なぜそのルールが存在するのか」を知りません。
例えば「ユーザーが退会したらデータを削除する」という機能をAIに実装させたとして、法的な保持義務があるデータまで削除するコードを生成してしまう、みたいなことが起きます。これはコードとしては正しく見えても、ビジネスとしては致命的なミスです。
4. 将来の拡張性・保守性
動いてるし、要件も満たしている。でも3ヶ月後に誰かが触ったとき、理解できるか?がポイントです。
AIは「今」動くものを作るのは得意だけど、「将来の人間が読んで修正しやすい」コードを意識的に書くのはまだ苦手です。変数名が意味不明だったり、同じロジックが散在していたり、といったことが起こります。
「検品者」として食べていくために
製造業の検品者が単なる「見るだけ」の人じゃないように、これからのエンジニアも「レビューするだけ」ではなく、AIのアウトプットを正しく評価・改善・責任をとれる人になる必要があります。
それは結局、こういうことだと思っています。
- コードを書く速度ではなく、コードを読む・理解する深さ
- 実装の知識ではなく、なぜその実装が必要かのコンテキスト理解
- 「動いた」の確認ではなく、「これで大丈夫か」の総合判断力
コードを書けることに誇りを持ってきた人には、少し耳が痛い話かもしれません。私自身もそうでした。でもこれ、ちゃんと向き合っておいた方がいい変化だと思っています。
まとめ
- 生成AIによって「コードを書く」行為の市場価値は下がっている
- 製造業の機械化後に「検品者」の価値が上がったように、「AIのアウトプットを見抜く力」が次の中心になる
- 「動く」だけでなく「正しい・安全・説明できる・将来も使える」を判断できることが重要
次回 #02 では、PM・SE・PGというロールそのものがどう変わっていくか、そして全く新しい職種の予兆について書きます。
この連載は、現場で感じたことや自分の考えを率直に書いています。「うちの現場はこう」という声、大歓迎です。コメントで教えていただければと思います。