はじめに
私が所属している先端技術開発課ではデザイン思考を取り入れた業務システムのUI/UXの改善を行っております。
この記事では、デザイン思考の入門編として、勘違いしていることが多いとされているデザインの本当の意味について解説し、デザイン思考とは何なのか、なぜデザイン思考が必要なのかについて説明していきます。
最後にミニワークを用意していますので、お時間がある方はぜひ体験してみてください。
1. 「デザイン」の意味とは?
2. デザイン思考とは?
3. デザイン思考の必要性
4. デザイン思考の各プロセスについて
1)共感
2)問題定義
3)創造
4)プロトタイプ
5)テスト
5. デザイン思考を体験してみよう!(ミニワーク)
1.「デザイン」とは?
デザイン思考という考え方について説明する前にまず「デザイン」という言葉の意味についてみていきます。
早速ですが、みなさんに質問です!
普段どんな時に「デザイン」という言葉を使いますか?少し考えてみてください。
「この服のデザインおしゃれ!」とか「資料を作成しないとだけど、デザインは苦手だからうまく仕上がらないな...」という風に、見た目の良さ(色や形)やセンスといった意味で使うことが多いのではないでしょうか。
では、デザインの意味について見ていきましょう!
結論から言うと、デザインは2つの意味が存在しています。
広辞苑で"デザイン"と調べると、以下のように説明されていています。
2つの意味というのは、狭義の意味と広義の意味です。
①を狭義のデザイン、②を広義のデザインというふうによく表現されます。
冒頭での質問に対して思い浮かんだことは、どちらのデザインの意味に該当しているでしょうか?
見た目の良さ(色や形)やセンスでしたら、狭義のデザインに該当しますね。
今回みなさんに知っていただきたいのは、狭義のデザインではなく広義のデザインです。
広義のデザインとは、問題解決や新しい提案をするときに、企画したり、情報を整理したり、設計することです。
おそらく仕事において行っていることではないでしょうか?
仕事に限らず、プライベートにおいても、例えば自分の部屋を快適に過ごせる空間にするためどう設計するのかや、飲み会の企画なんかも、どのような会なのかや、場所の選定、参加者の好みやアレルギーを考慮しながらメニューを選ぶなど、みなさんは無意識のうちに”デザイン”をしているということです。
注意することは狭義のデザインと広義のデザインを別々で考えてはいけないということです。
例えば、「業務効率化を図るためにプロジェクト管理システムがほしい」という要望があったとします。
いきなり、じゃあシステムの画面レイアウトやボタンを決めて、形(実装)にしよう!とはならないですよね。
飲み会の例でいうと、どんな会なのか、だれが参加するのか何も決まっていない状態で、座席を決めたり、料理のジャンルを決めるなどですね。
システムを開発するとなった場合、何をするかというとまず目的や問題を整理し、計画を立てて、UIの設計やシステムに実装する機能の設計などをしっかり考えたうえで(デザインしたうえで)狭義のデザインを考えていきます。
デザインにはもちろん「見た目を整える」という意味も含まれてはいますが、あくまで手段の一つです。
デザインには広義のデザインと狭義のデザインがあり、それぞれ、どんな意味かご理解いただけましたでしょうか。また、"デザイン"の見方は変わりましたでしょうか?
2.デザイン思考とは?
デザイン思考は、デザイナー特有の考え方や思考プロセスを活用しています。
デザイナーがどのような流れで仕事をしているのか見ていきましょう。
デザイナーはクライアントにヒアリングやリサーチを行い、得られた情報を分析しコンセプトを立案し、イメージするデザインを具現化していきます。ここで完成ではなく、このデザインで良いのかテストユーザーに対して検証、調整、クライアントに提案を繰り返していきながら、やっとデザインが確定します。
デザイナーはセンスや、絵が上手といった美的センスももちろん必要なスキルですが、何もわからない0の状態で見た目を決定しているのではなく、日々クライアントにとって「良いデザイン」を提供するために様々なステップを踏んでいます。
このようなデザイナーの特有の思考プロセスを活用しているデザイン思考とは、
ユーザーや顧客の視点に立ち、製品やサービスのニーズや課題・問題の本質へと迫り、ユーザーにとっての納得解を見つける考え方という意味になります。
3.デザイン思考の必要性
なぜ今、デザイン思考が必要なのでしょうか。
それは、世の中にモノや情報があふれ、ユーザー自身も、自分が何を欲しいのかが明確ではないため、ただ新しいだけでは受け入れてもらえないからです。
20世紀と21世紀で社会がどう変化したかについて説明していきます。
教育革命実践家の藤原和博氏の講演内容をもとに、イラストにまとめてみました。
20世紀は成長社会と呼ばれます。キーワードは「みんな一緒」。必ず答えが存在しているため、この時代に必要とされていた能力は情報処理力で、いかに正解に早くたどり着けるかが重要でした。
成長社会は、ジグソーパズル型とも呼ばれます。
21世紀は成熟社会と呼ばれます。キーワードは「それぞれ一人一人」。正解がないもしくは答えは一つとは限らないため、この時代に必要とされていた能力は、情報編集力で、様々な情報を繋げていきながら新たな価値を創出することが重要です。成熟社会は、レゴ型とも呼ばれます。
数年前にセンター試験が廃止され、大学入試共通テストに変更されましたね。
変更後の試験内容は、知識はもちろんですが、より思考力や表現力が重視されるようになり、これも社会の変化が影響しています。
社会の変化で変わったのは教育だけではありません。消費者の考え方や企業の在り方も変化していきました。
20世紀時代の消費者は、生活の中で、不安、不足、不満が明確であり、ニーズがあふれていました。
提供者は、消費者が困っていることを解決することに注力し、求められているものをいかに早く作るかが勝負であったため、作れば売れる時代でした。
21世紀に入り、消費者は情報過多の中で欲しい情報を入手することができ、また世の中にはモノがあふれているなかで、自分の心に刺さった(共感した)ものを手に入れようとするようになっています。
提供者は、消費者の一人一人の納得解や最適解を見つけ出すために、潜在的な課題を理解し、消費者の心に刺さった(共感された)ものを提供することが必要であり、そういうものだけが売れる時代に変化しました。
このように21世紀では、正解がないもしくは一つではない問題に対して、自分なりにどう情報を活かし、どう解決していくかである情報編集力が重要になります。
得られた情報をもとに分析を行いニーズや課題・問題の本質へと迫り、納得解を見つけていく考え方であるデザイン思考が必要な考え方の一つなのではないかと考えています。
4.デザイン思考の5つのプロセスについて
デザイン思考の必要性はご理解いただけましたでしょうか。
ここからは、デザイン思考を実践するために必要なプロセスとポイントについて言及します。
デザイン思考は「共感」「問題定義」「創造」「プロトタイプ」「テスト」の5つのプロセスを踏んでいく必要があるとされています。
5つのプロセスは、スタンフォード大学ハッソ・プラットナー・デザイン研究所が提唱したものです。
このプロセスは、順番通り進める必要はなく、プロセスを同時並行したり、プロセス間を行き来しても構いません。
また、必ずしも共感から始める必要はなく、私たちも実際の業務で、他のチームが開発中のシステムのユーザビリティテストを行うために、「テスト」から始めたこともあります。
どのプロセスから始めるべきかは、その時の状況に応じて変えていってください。
各プロセスの説明は以下の通りです。
共感
ニーズや課題を探っていきながら、ユーザーについてしっかり理解します。
ユーザーがとる行動や話す言葉から、何を課題に思い、何に悩んでいるか、何が必要なのかを探ることが重要です。
また、その課題・悩みから生まれる不安や痛み、ニーズを理解しましょう。
共感の方法は主に3つあります。「行動観察」「会話」「体験」です。
3つともできるのが理想ではありますが、なかなか難しいこともあると思います。どの方法をとることが、一番ユーザーのことが理解できるのかを基準に、状況に応じて選んでみてください。
POINT!
- 自分自身の先入観やバイアスを捨て、その人の立場や視点になりきること
- チームで作業をする場合は、チームメンバー内で「知る必要があること」と「現状知っていること」を共有して整理する
- 「Sympathize」ではなく「Empathize」の共感を
ただ感情に共鳴するのではなく、ユーザーになりきるつもりで感情移入をして「自分のことのように感じること」が重要
使用する手法やツール
インタビュー、アンケート、行動観察、共感マップなど
問題定義
ユーザーの情報を整理・分析し、解決すべき具体的な問題を特定しましょう。
意見やアイデアを視覚的に整理と分析を行い、関係性を明確にしたあと、ユーザーが直面する具体的な問題や不満点を特定し、問題の本質を掘り下げます。
最終的にこれらの情報をもとに具体的な問題を定義します。
POINT!
- 見聞きしたことよりもさらに深いところまで理解しようと努力する
- 事実だけに目を向けず、ユーザーの置かれている環境や背景、感情などにも注目する
- 具体的な問題として定義できない場合は、共感に戻る
使用する手法やツール
ペルソナ、KA法、カスタマージャーニーマップ、インサイトの検討など
創造
正しいアイデアを見つけるのではなく、アイデアの幅を最大限に広げましょう
理解し、特定した問題と、創造力をもとにアイデアを創出します。
ただ一つの最善の解決策を見つけるのではなく、案の候補をたくさん出すことが重要です。
POINT!
- 他人のアイデアを否定しない
- 一見、実現不可能なアイデアだとしても発言する
- 他人の意見に引っ張られないようにまずは一人で考える時間を必ず設ける
使用する手法やツール
ブレインストーミング、SCAMPER、マインドマップ、クレイジー8など
プロトタイプ
プロトタイプとはユーザーに試してもらうために作るものです。
創造フェーズで発散させたアイデアを素早く形に起こし、テストフェーズに向けた準備を行いましょう。
プロトタイプを作成することで、チーム内での共通理解を促進し、認識のずれや意見の相違を減らすことができます。また、プロトタイプをもとにテストを行うことで、早期にフィードバックを得ることができ、迅速な改善点の特定やユーザーのニーズに合ったものへ近づけることが可能です。
私たちは画面UIを設計する際はデザインツールFigmaでプロトタイプを作成します。
POINT!
- 合言葉は、「早く」「安く」「シンプルに」 愛着を持たない程度に作ること
- 1回で高い完成度のプロトタイプを作れることが良いことではない
使用する手法やツール
ワイヤーフレーム、モックアップ、ペーパープロトタイプ、ストーリーボードなど
テスト
ユーザーにプロトタイプを体験してもらい検証します。
テストユーザーが実施するタスクシナリオをあらかじめ考えておきましょう。
私たちはテスト前に計画書を作成し、テストユーザーにお願いするタスクやこちら側が行う指示(〇〇ボタンを押してください、〇〇を選択し〇〇してくださいなど)をすべて決め、その通りに実施してもらい、テストユーザーの行動や反応を観察して、改善点や課題を特定しています。
また、設計書にタスクシナリオのほかに、テストの目的やテストユーザー、テストを通じて明らかにしたいことを記載します。チームメンバーで十分に議論し、テストを実施しましょう。
POINT!
- ネガティブな意見を受け入れて改善することが重要
- テスト実施後、アンケートへの回答(匿名)をお願いするのもあり
- プロトタイプを評価してもらう場ではなく、プロトタイプをブラッシュアップする場と考える
使用する手法やツール
ユーザビリティテスト、ヒューリスティック評価
デザイン思考はこの5つのプロセスを実行することではありません。必要なプロセスを組み合わせたり繰り返していく中で、課題を解決していきます。
正解がわからないものにたいして悩み、考えることは不安にもなりますし、これが正解なのか、これでユーザーは喜んでくれるのかと感じることも多いです。
答えがわからないから時間をかけて一生懸命考えて考えて...より、個人的にはまずはやってみる。そしてフィードバックをもらうことが重要だと考えています。テストは答え合わせではなく、ブラッシュアップできる情報を収集できる機会ですので、まずは、やってみよう精神で取り組んでみるのもありだと思います。
5.デザイン思考を体験してみよう!(ミニワーク)
テーマをいくつか用意しました。基本的な流れはデザイン思考のプロセスに沿っています。
ご自身の好きなテーマでぜひ、デザイン思考を体験してみてください。
所属部署について
ITエンジニアが活躍する地方拠点「長崎 Innovation Lab」
長崎 Innovation Labでは、IT技術を活用して、工場などものづくりの現場で活用できるシステムの開発に取り組んでいます。自由な発想でこれまでにない社会に役立つ製品・サービスを生み出し、長崎から発信していくことを目指しています。
おわりに
この記事では、デザインの本当の意味についてと、デザイン思考についてを解説しました。
デザイン思考の5つのプロセスの部分はかいつまんで説明しましたが、個人的にはまだまだ奥が深く、業務の中で実践していく中で日々学ぶことが多いです。
デザイン思考は歴史も古く、書籍も多く出版されていますので、ぜひ興味がある方はより学びを深めていき、小さなことからでもいいのでこの思考法を取り入れてみてください。