はじめに
個人開発や新機能の企画をAIに相談したところ、もっともらしいアイデアが大量に返ってきたものの、結局何から決めればよいのか分からなかった——という経験はないでしょうか。
通常のAIとの会話では、こちらの曖昧な前提を残したまま、AIがそれらしい回答を組み立ててしまうことがあります。
そんなときに使えるのが、grill-meスキルです。
grillには「厳しく問い詰める」という意味があります。その名前どおり、企画や設計について一問ずつ質問を重ね、曖昧な部分を徹底的に掘り下げてくれます。
この記事では、曖昧な個人開発のアイデアを例に、grill-meの使い方と活用のコツを紹介します。
grill-meとは
grill-meは、企画や設計についてAIから継続的なインタビューを受けるためのスキルです。
主な特徴は次の3点です。
- 質問を一度に一つだけ提示する
- 各質問にAIの推奨回答が付く
- 依存関係のある判断を順番に解決する
たとえば、「タスク管理アプリを作りたい」というアイデアには、次のような未決定事項があります。
- 誰のためのアプリなのか
- 既存サービスの何が不満なのか
- 最初のバージョンに何を入れるのか
- Webアプリとモバイルアプリのどちらにするか
- 収益化するのか
- 成功を何で判断するのか
grill-meは、これらを質問リストとして一度に投げるのではなく、前の回答を踏まえて一問ずつ掘り下げます。
通常のAI相談との違い
通常の相談では、次のように質問すると思います。
個人向けのタスク管理アプリを作りたいです。
必要な機能と技術構成を考えてください。
この頼み方でも、機能一覧や技術スタックは提案してもらえます。
しかし、「そもそも誰のどんな問題を解決するのか」が決まっていなければ、提案された機能が本当に必要なのか判断できません。
一方、grill-meでは、すぐに解決案を出すのではなく、前提から確認されます。
この企画で最初に解決したい、具体的な利用者の問題は何ですか?
おすすめは「複数の案件を抱える個人開発者が、
今日着手すべきタスクを決められない問題」です。
対象と課題を同時に絞れるためです。
回答すると、その内容を前提に次の質問へ進みます。
つまり、通常のAI相談が「答えを生成する」使い方だとすれば、grill-meは「答えを出せる状態まで前提を整理する」使い方です。
基本的な使い方
使い方はシンプルです。検討中の企画や設計と、詰めてほしいことを伝えます。
grill-meを使って、この企画を実装可能な状態まで詰めてください。
個人向けのタスク管理アプリを作りたいです。
まだ具体的な利用者や機能は決めていません。
その後は、提示された質問に一つずつ答えていきます。
分からない場合は、無理に答えを作る必要はありません。
まだ判断できません。おすすめ案を採用した場合の
メリットとリスクを教えてください。
あるいは、単純に次のように回答しても構いません。
おすすめ案で進めてください。
実際に曖昧な企画を渡してみる
最初に、次の企画を渡したとします。
個人開発でタスク管理アプリを作りたいです。
アイデアが曖昧なのでgrill-meで詰めてください。
質問1:誰の問題を解決するのか
最初の対象ユーザーを誰にしますか?
おすすめは「複数のプロジェクトを並行する個人開発者」です。
一般的な会社員より利用場面を具体化しやすく、
自分自身でも検証できるためです。
ここでは、おすすめを採用します。
複数のプロジェクトを並行する個人開発者にします。
質問2:どの問題に集中するのか
対象ユーザーが抱える問題のうち、
最初に解決するものは何ですか?
おすすめは「タスクは登録できても、
今日どれに着手すべきか決められない問題」です。
既存のタスク管理機能と差別化しやすいためです。
最初の回答によって対象ユーザーが決まったため、次はそのユーザーの課題へ進んでいます。
質問3:最小機能は何か
最初のバージョンで、ユーザーにどんな体験を提供しますか?
おすすめは、次の3ステップです。
1. プロジェクトとタスクを登録する
2. 締切、重要度、所要時間を入力する
3. 今日取り組むタスクを3件だけ提示する
ここでようやく機能が登場しました。
最初から機能を考えるのではなく、対象ユーザーと課題を決めたあとに機能を選んでいる点が重要です。
質問4:何を作らないか
初期バージョンから除外する機能を決めますか?
おすすめは、チーム共有、チャット、カレンダー同期、
高度なAI予測を除外することです。
価値検証に必須ではなく、開発範囲が大きくなるためです。
企画では「何を作るか」だけでなく、「何を作らないか」を決めることも欠かせません。
このような質問を重ねることで、最初は曖昧だった企画が、徐々に実装可能な形へ変わっていきます。
対話によって何が決まったか
対話前の企画は、次の一文だけでした。
個人向けのタスク管理アプリを作りたい。
対話後には、次のような企画へ変わります。
複数のプロジェクトを並行する個人開発者向けに、
今日着手すべきタスクを3件提示するWebアプリを作る。
初期版では、プロジェクト登録、タスク登録、
締切・重要度・所要時間の入力、タスク推薦を提供する。
チーム共有、チャット、外部カレンダー同期は対象外とする。
まず自分を含む5人に試してもらい、
1週間の継続利用率で価値を検証する。
「タスク管理アプリ」というアイデアが、対象、課題、価値、最小機能、対象外、検証方法を持つ企画になりました。
grill-meの成果は、単に長い仕様書を生成することではありません。重要な判断について「なぜそうするのか」を一つずつ確認できることにあります。
効果的に使うコツ
完成した説明を用意しない
grill-meは、企画が曖昧な段階ほど力を発揮します。
何を作るかは決まっているが、
対象ユーザーと最小機能に自信がありません。
この程度の情報から始めても問題ありません。
ゴールを伝える
どこまで詰めたいのかを最初に指定すると、質問の方向が安定します。
週末に実装を始められる状態まで詰めてください。
チームに企画書として提出できる状態まで詰めてください。
技術選定ではなく、プロダクトの価値を中心に質問してください。
推奨回答をそのまま採用しすぎない
推奨回答は、考えるための出発点です。
違和感があれば、理由を伝えます。
おすすめ案だと対象が狭すぎる気がします。
広げた場合のデメリットを説明してください。
この反論も次の質問を具体化する材料になります。
矛盾を指摘してもらう
対話が進んだら、途中の回答同士に矛盾がないか確認すると効果的です。
ここまでの回答に矛盾や、根拠の弱い判断がないか確認してください。
最後に成果物へ変換する
質問が一通り終わったら、会話を実務で使える形式にまとめてもらいます。
決定事項、未決定事項、リスク、次のアクションに分けて
Markdownでまとめてください。
ソフトウェア開発なら、次のような成果物にも変換できます。
- 要件定義
- MVPの機能一覧
- ユーザーストーリー
- 実装計画
- 検証計画
- チェックリスト
向いている場面
grill-meは、複数の判断が互いに影響する場面に向いています。
- 新規サービスの企画
- MVPの範囲決定
- システム設計
- API設計
- 技術選定
- リファクタリング計画
- チームへの提案
- キャリアや学習計画
- 記事や発表資料の構成
特に、「選択肢はあるが、判断基準が整理できていない」という状況で有効です。
向いていない場面
一方、正解が明確な単発作業には、通常の依頼のほうが効率的です。
- エラーメッセージの意味を知りたい
- 関数名を変更したい
- コードをフォーマットしたい
- 既に決まった仕様を実装したい
また、質問に答える時間がない場合にも向きません。grill-meは短時間で答えを受け取るためではなく、判断の質を上げるための使い方だからです。
利用時の注意点
AIの推奨回答は、必ずしも正解ではありません。
市場規模、法令、セキュリティ、費用など、外部の事実が重要な判断では、別途一次情報を確認する必要があります。
また、機密情報や個人情報を入力してよい環境かどうかも事前に確認してください。
grill-meが支援するのは、判断の整理です。最終的な意思決定と、その結果への責任は利用者側にあります。
まとめ
grill-meは、AIに完成した答えを出してもらうためのスキルではありません。
曖昧な企画に対して一問ずつ質問を受け、前提、目的、対象、制約、優先順位を整理するためのスキルです。
使い方の要点は次のとおりです。
- 曖昧な状態のまま企画を渡す
- どこまで具体化したいかを伝える
- 質問に一つずつ答える
- 推奨回答に違和感があれば反論する
- 最後に決定事項と次のアクションをまとめる
AIから良い答えを得るには、良い質問を考えなければならないと言われます。
しかし、自分が何を決めるべきかさえ分からない段階もあります。そんなときは、質問する側をAIに任せてみるのも一つの方法です。