1. はじめに
音声AI(Voice AI Agent)を企業のコールセンターや店舗の電話窓口に導入する際、最も多く求められる要件は次の3点です。
- FAQ回答: 定型的な質問(営業時間、料金、駐車場など)に自動で回答する。
- 有人転送: AIでは解決できない複雑な要件やクレームを、即座に人間のスマートフォンや固定電話へ引き継ぐ。
- 意図聞き返し(リプロンプト): ガサガサした電話のノイズや言葉の聞き取りミスが発生した際、不自然にならずスマートにユーザーへ再確認する。
本記事では、これら3つの主要機能を Retell AI や Asterisk の連携によって美しく設計・実装するための具体的な手法とプロンプト設計について解説します。
2. FAQ回答の設計
AI電話に大量の定型QA(よくある質問と回答)を登録する場合、プロンプトの指示文の中に直接数万文字のQAリストを書き込むと、動作遅延(レイテンシー)が発生し、AIの回答精度が下がる原因になります。
ベストプラクティス:知識ベース(Knowledge Base)とプロンプトの分離
Retell AI等のプラットフォームには、外部テキストファイルやPDFをアップロードして参照させる Knowledge Base (RAG)機能 があります。
システムプロンプトには「QAの参照方法と回答のトーン&マナー」のみを定義し、具体的な回答内容はKnowledge Base側に記載します。
プロンプト側の指示例:
# 回答ルール
1. お客様から店舗の情報(営業時間、料金、場所、設備など)について質問された場合は、手元のナレッジベース(Knowledge Base)を参照し、そこに記載されている正しい情報だけに基づいて回答してください。
2. ナレッジベースに記載されていない質問については、知ったかぶりをせず、「恐れ入りますが、そちらの情報は私の手元にございません。店舗の担当者へお繋ぎしましょうか?」と案内してください。
3. 有人転送(コールトランスファー)の設計
AIとの対話中に、お客様が「担当者を出してほしい」「クレームがある」などと発言した場合、あるいはAI自身が解決困難と判断した場合、即座に人間の電話へ転送する仕組みを作ります。
転送方法には以下の2通りがあります。
パターンA:SIP REFER(音声AIから直接転送)
Retell AIから通信事業者に対して「この通話を次の番号へ転送してほしい」という制御信号(REFER)を送信し、通信キャリア側で通話をブリッジさせる方法です。
中継サーバー(Asterisk)の負荷を最も抑えられますが、キャリア側の仕様(TrunkがREFERをサポートしているか)に依存します。
パターンB:Asterisk経由でのダイアル転送
AIが転送が必要と判断した際、特定のトリガー(Function Callingなど)を実行し、中継しているAsteriskに対して転送先(例: 担当のスマホ)へ新たな発信を行わせ、双方のチャネルをブリッジします。
Retell AIの転送設定例(Function Calling)
{
"name": "transfer_call",
"description": "人間のスタッフ・担当者へ通話を転送する",
"parameters": {
"type": "object",
"properties": {
"phone_number": {
"type": "string",
"description": "転送先の電話番号(例: +819012345678)"
}
},
"required": ["phone_number"]
}
}
4. 意図聞き返し(リプロンプト)の設計
電話では、電波状況が悪かったり、周囲の雑音が入ることで、AI側がお客様の発言を部分的にしか聞き取れないケースが多発します。
ここでAIが「わかりません。もう一度言ってください」と機械的に繰り返すと、ユーザーのストレスが最大化します。
自然な「聞き返し」を実現するためには、プロンプトで以下の対話設計を行います。
1. 部分一致による「聞き返し(クローズド質問)」
すべてを聞き直すのではなく、聞き取れたキーワードを頼りに、Yes/Noで答えられる質問で確認します。
- 悪い例: 「聞き取れませんでした。ご用件は何ですか?」
- 良い例: 「恐れ入ります、お電話が少し遠いようです。今、『予約を変更したい』とおっしゃいましたでしょうか?」
2. 音声認識(STT)エラー時のフォールバック指示
AIのシステムプロンプト内に、音声認識が不鮮明だった場合の対応手順を書き込んでおきます。
# 音声聞き取り不良時の対応ガイドライン
- お客様の発話がノイズ(ガサガサ音など)のみであったり、解釈不能な文字列(STTエラー)だった場合は、「申し訳ございません、お電話が少し遠いようで、お声が聞き取りにくくなっております。恐れ入りますが、もう一度ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」と、電話回線の問題であることを優しく伝えて聞き返してください。
- 3回以上同じ聞き返しが発生した場合は、速やかに「お電話が繋がりにくいようですので、恐れ入りますが担当者へお繋ぎいたします。」と告げ、転送関数(transfer_call)を実行してください。
5. まとめ
実用に耐えうる電話窓口AIを作るには、ただ回答を返すだけでなく、**「自動回答(FAQ)」「人間へのエスカレーション(転送)」「会話不良時のセーフティネット(聞き返し)」**の3つのモジュールがシームレスに機能するように、プロンプトとインフラの双方から設計する必要があります。
特に、AIから有人担当者へのスムーズな転送設計は、顧客体験(UX)を落とさないために最も重要な設計事項です。
6. 技術的なサポート・構築代行について
「Retell AIのナレッジベースやFAQのレスポンス速度を高速化したい」
「AIから店舗の固定電話・担当のスマホへ通話を転送するSIP/Asterisk連携を作りたい」
といった企業・開発者様向けに、接続・構築の専門代行サービスを提供しています。お持ちの回線が接続可能かの「無料診断」も実施しておりますので、詳細やご相談は下記ページからお気軽にお問い合わせください。
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