#前書き
前回の続きです。
紙と針のモデルで集合を考える(PPモデルで集合と論理を考える#1)
#命題とPPモデル
ここでは、命題について考えます。
##定言命題
以下の2つの定言命題について考えます。
- 命題P:ここは埼玉県である
- 命題Q:ここは日本国である
定言命題:
〘論〙 主語に対して述語が結びついているという形の単純な命題。
「 S は P である」「 S は P ではない」という形式をとる。
主語のかかわる範囲について全称と特称、判断の性質について肯定と否定が挙げられ、
計四種がある。定言的判断。
―大辞林 第三版
定言命題(ていげんめいだい)とは - コトバンク
これを集合論で考えると、
- ここ:要素
- 埼玉県、日本国:集合
と見做せるので、PPモデルを使えば、
- 針a:ここ
- 紙S:埼玉県
- 紙J:日本国
とすることができ、下図のように示すことができます。
言葉で表せば、
- 命題P:針aは紙Sに刺さる
- 命題Q:針aは紙Jに刺さる
となります。
##仮言命題
ここで、紙Sを紙Jの上に重ねると、
紙Sは紙Jからはみ出ずに重なりますから(S⊂J)、
紙Sに刺した針aは、当然、紙Jにも刺さります。
これを
「針aが紙Sに刺さるならば、針aは紙Jにも刺さる」
と表現すると、これは、先の2つの定言命題を「ならば」でつないだ仮言命題
「ここが埼玉県ならば、ここは日本国である」
を意味します。数学的に表現すれば、まさに
「P⇒Q」
仮言命題:
〘哲〙 二つの定言命題が仮定条件とその条件の下で成り立つことという関係で結びついてできた命題。
「もし S が P ならば、 Q は R である」という形をとる。仮言的判断。
―大辞林 第三版
仮言命題(かげんめいだい)とは - コトバンク
逆に、紙Sと紙Jの重ねる順序を逆にしてみましょう。
すると、針a1のように、紙Jに刺さった針が紙Sにも刺さることもありますが、
針a2のように、紙Jにしか刺さらず、紙Sには刺さらない、ということもあります。
つまり、
「針aが紙Jにささるならば、針aは紙Sにも刺さる」とは言えない
ことを意味します。数学的に表現するなら、
「Q⇒P」は偽である
##仮言命題の矢印「⇒」とPPモデルの針の向き
以上の2例について、まとめると、
- P⇒Qは真
- Q⇒Pは偽
となりましたが、この時の矢印「⇒」の向きと、PPモデル図中の針の刺さる向きに着目しますと、
- P⇒Qが真:針はSに刺さってからJに刺さる
- Q⇒Qが偽:針はJに刺さってからSに刺さるとは限らない
これは、数値の例でも同様です。
(下記の例は、「xが素数ならば、xは自然数である」は真)
つまり、PPモデルで表せる2つの定言命題を組み合わせた仮言命題の真偽は、
以下の手順で調べることができます。(証明は後述します)
(前提)
- 定言命題P:xはAである(x∊A)
- 定言命題Q:xはBである(x∊B)
- 真偽を調べたい仮言命題R:PならばQ(P⇒Q)
(手順)
- 集合Aと集合BのPPモデル(紙Aと紙B)を描きます。
この時、紙Aが紙Bの上側に配置されるようにします。 - 要素xに相当する針xを、紙Aに上から刺してみて、それが紙Bに刺さるかどうか調べます。
- もし、紙Aのどこに針xを刺しても、必ず紙Bにも針xが刺さるのであれば、P⇒Qは真です。
- 逆に、紙Aに針xを刺したとき、紙Bに刺さらない時がある、あるいは、
紙Aのどこに針xを刺しても、紙Bに全く刺さらないのであれば、P⇒Qは偽です。
##事例
前回と同じように、事例を挙げてみます。
(省力のため、前回挙げた事例を流用します)
###例1: 実数Rと正の実数R+
正の実数R+と実数RのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙R+に刺さる針は、すべて紙Rにも刺さりますから、
すべての数xに対して、
x∊R+⇒x∊R
は成立し、
「ある数が正の実数ならば、その数は実数である」
は真になります。
###例2: 実数Rと整数Z
整数Zと実数RのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Zに刺さる針は、すべて紙Rにも刺さりますから、
すべての数xに対して、
x∊Z⇒x∊R
は成立し、
「ある数が整数ならば、その数は実数である」
は真になります。
###例3: 自然数Nと素数P
素数Pと自然数NのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Pに刺さる針は、すべて紙Nにも刺さりますから、
すべての数xに対して、
x∊P⇒x∊N
は成立し、
「ある数が素数ならば、その数は自然数である」
は真になります。
###例4: 日本国Jと埼玉県S
埼玉県Sと日本国JのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Sに刺さる針は、すべて紙Jにも刺さりますから、
すべての地点xに対して、
x∊S⇒x∊J
は成立し、
「ある地点が埼玉県ならば、そこは日本国である」
は真になります。
###例5: 正の実数R+と実数R
実数Rと正の実数R+のPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Rに刺さる針は、紙R+にも刺さる場合もありますが(x1)、
刺さらない場合もあります(x2)。
従って、すべての数xに対して、
x∊R⇒x∊R+
は成立するとは限らず、
「ある数が実数ならば、その数は正の実数である」
は偽になります。
###例6: 素数Pと自然数N
自然数Nと素数PのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Nに刺さる針は、紙Pにも刺さる場合もありますが(x1)、
刺さらない場合もあります(x2)。
従って、すべての数xに対して、
x∊N⇒x∊P
は成立するとは限らず、
「ある数が自然数ならば、その数は素数である」
は偽になります。
###例7: 奇数Dと素数P
素数Pと奇数DのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Pに刺さる針は、紙Dにも刺さる場合もありますが(x1)、
唯一、x=2の時に刺さりません(x2)。
従って、すべての数xに対して、
x∊P⇒x∊D
は成立するとは限らず、
「ある数が素数ならば、その数は奇数である」
は偽になります。
###例8: 埼玉県Sと秩父多摩甲斐国立公園C
秩父多摩甲斐国立公園は、東京都、埼玉県、山梨県、長野県の1都3県にまたがっている
国立公園です。
秩父多摩甲斐国立公園Cと埼玉県SのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Cに刺さる針は、紙Sにも刺さる場合もありますが(x1)、
刺さらない場合もあります(x2)。
従って、すべての地点xに対して、
x∊C⇒x∊S
は成立するとは限らず、
「ある地点が秩父多摩甲斐国立公園ならば、そこは埼玉県である」
は偽になります。
###例9: 実数Rと自然数Nと素数P
素数Pと自然数N、実数RのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Pに刺さる針は、すべて紙Nにも刺さり、
また、紙Nに刺さる針は、すべて紙Rにも刺さります。
従って、すべての数xに対して、
x∊P⇒x∊N
x∊N⇒x∊R
x∊P⇒x∊R
がすべて成立し、
「ある数が素数ならば、その数は自然数である」
「ある数が自然数ならば、その数は実数である」
「ある数が素数ならば、その数は実数である」
はすべて真になります。
###例10: 地球Eと日本国Jと埼玉県S
埼玉県Sと日本国J、地球EのPPモデルを描くと、下図のようになります。
紙Sに刺さる針は、すべて紙Jにも刺さり、
また、紙Jに刺さる針は、すべて紙Eにも刺さります。
従って、すべての地点xに対して、
x∊S⇒x∊J
x∊J⇒x∊E
x∊S⇒x∊E
がすべて成立し、
「ある地点が埼玉県ならば、そこは日本国である」
「ある地点が日本国ならば、そこは地球である」
「ある地点が埼玉県ならば、そこは地球である」
はすべて真になります。