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定年間近の60歳エンジニアに『Claude Code 教えてくれ』と頼まれた日の話

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社内で一番古株の S さんに、ある日突然声をかけられた。S さんは今年60歳。来年の春で定年退職が決まっている。

「ちょっといいか。Claude Code っていうの、教えてくれないか」

私はその場で固まった。S さんといえば、社内で誰もが知る伝説のエンジニアだ。30年前に COBOL で勘定系システムを書き、20年前に Java に移行し、10年前に Spring Boot を導入し、5年前に AWS マイグレーションのリーダーを務めた人だ。私が新人だった頃、S さんが書いたコードを読んで「ああ、本物のエンジニアってこういうものか」と感動したのを今でも覚えている。

その S さんが、定年を半年後に控えて、なぜ Claude Code なのか。

喫煙所での会話

会議室を取るのも仰々しいので、私たちは喫煙所で話すことにした。S さんはタバコを吸わないが、私は吸う。S さんは缶コーヒーを片手に、ベンチに座って話し始めた。

「俺さ、来年で会社辞めるじゃん。退職してから何しようかなって考えててさ。畑とかやろうかなって思ったんだけど、なんか違うなって。俺、結局コード書くのが好きなんだよ。30年やってきて、それ以外の趣味がない」

S さんは少し笑った。私は黙って聞いていた。

「で、最近の若いやつが Claude Code とか Cursor とか言ってるじゃん。俺、正直あれ、馬鹿にしてたんだよ。コード書けないやつが楽するための道具だろって。でもさ、こないだ家で趣味の Raspberry Pi いじってて、温度センサーのデータを Slack に飛ばすやつ作ろうとしたんだけど、Python 全然書けなくてさ。3時間悩んで、結局できなかった」

S さんは缶コーヒーをひとくち飲んだ。

「で、ふと思ったんだよ。あれ、Claude に聞いたら教えてくれるんじゃないかって。試しに ChatGPT に聞いたら、5分でできた。びっくりしたよ。俺、30年間 Java と C は書いてきたけど、Python はずっと苦手で、避けてきたんだ。それが5分で動くものができた」

なぜ Claude Code なのか

私は聞いた。「ChatGPT で動いたなら、それでいいんじゃないですか?」

S さんは首を振った。

「いや、俺がやりたいのは、コピペじゃないんだ。あの、対話しながらコードを書くやつ。エディタの中で AI と一緒に試行錯誤するやつ。あれ、面白そうだなって思って。退職してからの1年、それで遊んでみたいんだよ」

私はそこでようやく理解した。S さんは「効率化のために」AIを使いたいのではない。新しいコーディング体験そのものを楽しみたいのだ。30年間 vim と Eclipse でコードを書き続けてきた人が、最後にもう一度、新しい開発スタイルを試してみたい、と言っている。

教えた内容

私は次の週末、S さんの自宅にお邪魔した。Mac は持っているということだったので、ターミナルから claude コマンドのインストール、API キーの設定、最初のセッションの起動、までを一緒にやった。

S さんは最初、操作に戸惑っていた。/init って何だ、/clear って何だ、と一つずつ確認しながら進めた。だが30分もすると、S さんは自分で Raspberry Pi のプロジェクトディレクトリを開き、Claude Code に「温度センサーの値を1分おきに記録して、閾値を超えたら Slack 通知するスクリプトを書きたい」と入力していた。

数分後、コードが動いた。S さんは画面を見ながら、ぼそっと言った。

「うわ、これ、便利だな。俺が30年かけて覚えてきた Python の知識、全部いらないじゃん」

私は慌てて言った。「いや、S さんが30年かけて覚えてきたのは『Python の知識』じゃなくて『プログラムの考え方』だと思いますよ。だからこそ、Claude が書いたコードを見て、すぐに『あ、ここは違う』『ここはこうしたほうがいい』って判断できるんじゃないですか」

S さんはしばらく考えてから、ゆっくり言った。

「そうかもな。確かに、AIが書いたコードを見て『あ、これは例外処理が抜けてる』って一発で気づけたわ。それって、30年やってきたから分かることだもんな」

別れ際の一言

その日、帰り際に S さんは私にこう言った。

「お前ら若い世代は、Claude Code みたいなツールに最初から触れて、すごいなと思うよ。俺はこのツールを30代で使えてたら、もっと違うキャリアになってたかもな。でもさ、60歳で初めて触っても、まだ楽しいと思える。それだけで十分だわ」

帰りの電車で、私はこの言葉をずっと考えていた。「AIが奪う仕事」「AIで効率化」みたいな話ばかりが流れる中で、60歳のベテランエンジニアが純粋に「楽しい」と言って新しいツールを学び始める姿は、私の中で何かを揺さぶった。

技術って、本来こういうものだったんじゃないか。新しいものに触れて、動いた、と喜ぶ。誰かに教えて、面白かった、と笑う。それだけのことだったんじゃないか。

S さんは来年の春に退職する。退職後は、Raspberry Pi で家中のセンサーをつないで、Claude Code でコードを書き続ける、と言っていた。私はそれを聞いて、なぜか少し羨ましかった。

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