今回は、ユニタリ行列をとりあげます。これは、エルミート行列を対角化させることができる便利な行列です。内積も変えない変換をさせます。次の式も成り立ちます。
U^{*}=U^{-1}
この式は、下の式を変形したものです。
U^{*}U=UU^{*}=E
では、ユニタリ行列を説明します。今回、次の3つのステップを踏みます。
STEP1 対称行列と転置行列
STEP2 エルミート行列とユニタリ行列
STEP3 対角化 問題1
(STEP1)
対称行列は次です。
\mathbf{A} = \
\begin{pmatrix}
1 & 2 \\
2 & 1 \\
\end{pmatrix}
転置行列は次です。
\mathbf{A^T} = -1/3 \
\begin{pmatrix}
1 & -2 \\
-2 & 1 \\
\end{pmatrix}
対称行列は、転置行列で対角化できます。
(STEP 2)
エルミート行列とユニタリ行列
以下の行列は、転置行列です。(複素数をiを使います)
\mathbf{A} = \
\begin{pmatrix}
1 & i \\
i & 1 \\
\end{pmatrix}
複素共役(複素数で符号が変わる)な行列にすると
\mathbf{A^*} = \
\begin{pmatrix}
1 & -i \\
-i & 1 \\
\end{pmatrix}
この転置行列かつ複素共役な行列をエルミート行列といいます。エルミート行列は、
AA^{*} = A^{*}A
が成立するため、正規行列である。正規行列ですので、ユニタリ行列で対角化することができます。
(STEP1)のように、対称行列を直交行列により対角化したのと同様の操作(対角化)ができます。
(STEP 3)対角化
問題1)次のエルミート行列Aをユニタリ―行列Uにより対角化せよ。
\mathbf{A} = \
\begin{pmatrix}
1 & 1+i \\
1-i & 1 \\
\end{pmatrix}
まず、固有方程式を解く。
|A-\lambda E|=
\begin{pmatrix}
1-\lambda & 1+i \\
1-i & 1-\lambda \\
\end{pmatrix}
=
(1- \lambda)^{2} - (1+i)(1-i) = 0
(\lambda - 1)^{2} = 2 \qquad ∴\lambda = 1±\sqrt{2}
A - (1+\sqrt{2})E =
\begin{pmatrix}
-\sqrt{2} & 1+i \\
1-i & -\sqrt{2} \\
\end{pmatrix}
→
\begin{pmatrix}
-\sqrt{2} & -(1+i) \\
0 & 0 \\
\end{pmatrix}
から固有値ベクトルの1つは
X =
\begin{pmatrix}
1+i \\
\sqrt{2} \\
\end{pmatrix}
|x|^2 = x*x = (1 - i)×(1 + i) + √2 × √2 = 4より |x| = 2
λ = 1 + √2に属する単位固有ベクトルは
U_1 = 1/|x| X= 1/2
\begin{pmatrix}
1+i \\
\sqrt{2} \\
\end{pmatrix}
ii)λ = 1 - √2のとき
A - (1-\sqrt{2})E =
\begin{pmatrix}
\sqrt{2} & 1+i \\
1-i & \sqrt{2} \\
\end{pmatrix}
→
\begin{pmatrix}
\sqrt{2} & 1+i \\
0 & 0 \\
\end{pmatrix}
から固有値ベクトルの1つは
X =
\begin{pmatrix}
1+i \\
-\sqrt{2} \\
\end{pmatrix}
よって、
U =
\begin{pmatrix}
u_1 & u_2 \\
\end{pmatrix}
とおくと、
U^{*}AU =
\begin{pmatrix}
1+\sqrt{2} && 0\\
0 && 1-\sqrt{2} \\
\end{pmatrix}
□問題終わり
考察1)
ユニタリ―行列(とエルミート行列)は正規行列だから、問題1のように、
これらはユニタリ―行列Uで対角化可能である。
また、ユニタリ行列な内積を変えないような変換を表す行列です。※2
(ユニタリ unitary =「単位的」。変換の前後でベクトルの内積が 1 倍になる。)
n本の行ベクトル・列ベクトルが、正規直交系の基底をなします。
また、統計の世界でも、ユニタリ行列は活躍します! ※3
考察2)エルミート行列について
共役かつ転置な行列を
A^{*} (アスタリスク)とすると、
AA^{*} = A^{*}A
を満たす行列を「正規行列」といいます。
さらに、
A^{*} = A
を満たすとき、Aをエルミート行列といいます。
エルミート行列の特徴としては、
・ユニタリー行列による対角化可能
・固有ベクトルが正規直交基底・ユニタリー行列を生成
・「正規行列」
・固有値が実数・固有ベクトルが直交
補足)
ユニタリ行列は、直交行列でもあります。(+複素数!)
直交行列に触れていませんでしたので、説明します。転置行列を
P^{t}
とすると、
PP^{t}=P^{t}P = E
を満たすとき、Pを「直交行列」という。この式を変形すると、次の式が成り立ちます。
P^{t}=P^{-1}
最後に、ユニタリ行列についてまとめます。 ユニタリ行列 (Unitary matrix)は転置行列と逆行列が一致する「直交行列」に複素数 (Complex Number)の取り扱いを加えて拡張した行列です。
参考文献)「数学検定1級1次 線形代数」江川博康 著
※1 「OGUEMON」 線形代数 【固有値編】対称行列の対角化の性質と必ず対角化できる理由
https://oguemon.com/study/linear-algebra/diagonalization-symmetric-mat/
※2 「高校数学の美しい物語」
https://manabitimes.jp/math/2617